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婚約破棄編

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 少し遅れて到着した大舞踏会は、まだまだ入場を待つ人々で列が出来ていて、私達は目立つほどの遅刻ではなかった事に安堵しながら受付を済ませ入場した。
 入場して友人知人に挨拶をしていると兄が一人の令嬢に捕まり、長々と自分の長所を話して気を引こうとしている。こうなると次々に私もと人が集まるから不思議なのよね。そう思いながら兄から少し離れた場所で飲み物を片手に待っていると、集まっている人々を押し退けて、強引に私に向かって歩いてくる婚約者に気付いて持っていたグラスを近くにいたパーラーメイドに渡して下げて貰う。不機嫌な雰囲気を隠しもせずに私の正面に立った婚約者は、その腕に見知らぬ女性をぶら下げていた。

 誰かしら?学園でも見たこと無いけど……礼儀作法は壊滅的な女性ね。

 暫し無言で見ていると胸を押し付ける様にくっついた女性が、私の頭から爪先までじっくり見た後で勝ち誇った様な顔で笑った。

「ルナ・ニールセン!貴様は何時になったら魔法が使える様になるんだ!」

「それは私には分かりかねます。解明の為に今日は学園の講師の方より「聞きあきた!」」

 またか。そう思いながら龍人の方に会う事を説明している途中で言葉を遮った婚約者は、私に向かって指を指しながら大きな声で爆弾発言をしてくれた。

「もう言い訳はいい!お前みたいなぽんこつ魔法使いは侯爵家の恥だ!お前の有責で婚約は破棄する!!」

「え?破棄すると言われましても当主の許可が無いと……」

「うるさい!俺が破棄すると言ったら破棄だ。口答えするな!」

 大きな声で怒鳴られ侯爵家の都合で結ばれた婚約を勝手に破棄する?しかも、私の有責で?そんな勝手に宣言して大丈夫なのかしら?

 頭の中が疑問符だらけで呆然としている私を他所に婚約者……いえ、元婚約者は見知らぬ女性を連れて人混みに消えて行きました。

「ルナ!すまない、遅くなった」

 元婚約者と入れ替わる様に兄が駆けつけてくれました。周囲を見渡せば困惑気味の方や興味津々に見ている方。それに諸外国の衣装を身に纏う方もこちらの様子を伺っています。

「どうしましょう、お兄様……こんな所で婚約破棄なんて」

「間違いなく大事おおごとになるぞ」

 ですよね。今日は建国記念の大舞踏会。近隣諸国からの来賓もいらっしゃる会場で、しかも、大きな声で怒鳴られては“ごめんなさい”で済むはずがありません。取り敢えず周囲にいた方々に兄と二人で謝罪していると、騒ぎを聞き付けた騎士団の方が来られました。

「何事ですか?大きな声が聞こえておりましたが……お二人だけですか?」

「それが……」

 騎士団の方も当事者がいない状況に困惑していますが、私が状況を説明すると眉間に深いシワが刻まれていきます。ですよね……常識的に考えてここで騒ぎを起こすって事は、国王陛下や国に泥を塗る様な事と同じですものね。 

「ここでは目立ちます。別室にてもっと詳しくお話を聞かせて頂けますか?」

 騎士様の丁寧な対応に安堵しながら同意すると、兄と一緒に別室へと案内されました。

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