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第一章
バラの咲く庭 1
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「それ」
マリィの手の中のブローチを受け取り、ロベリアは続けた。
「ランの花なの」
マリィの胸に付けてくれる。ロベリアはもともと世話好きな子だけど、これほど優しかったことなんてあったかな。
そのまま、なぜか襟元を直し、髪まで整えてくれた。なぜだかやけに念入りだ。
その間、ぼんやりと、オレンジに染まっていく木々を眺めた。
少し、赤毛のふわふわが揺れる。
「よし!いってらっしゃい!」
ぐるん、と門の外へ向かされるのに、されるがままにしていると、視界にエルリックの姿が入った。
「……!」
もう、本当にロベリアはお節介なんだから!
ロベリアの顔を見ずに、そのまま話す。
「明日、うちのお屋敷で誕生日のティーパーティーがあるわ。来るでしょ?」
「ええ、行くわ」
「うん」
門の外へと歩きながら、ロベリアの顔を見た。
「ありがとう、ロベリア」
ロベリアは、また、ニカッと笑った。街はオレンジ色に染まっていた。
エルリックの前に立つと、エルリックの髪が光っているようにキラキラしていた。
何を言おうか悩んでいると、エルリックの方が先に口を開いた。
「おやおや、こんなところで偶然だね、僕のプリンセス」
ふわあっと顔が上気するのがわかった。
いつもの冗談……だけれど、今言われると冗談なのかどうかわからなくなる。まさか今までも冗談じゃなかったんじゃないか……なんて思うのはちょっと調子に乗りすぎだろうか。
エルリックがマリィの手を取り、先を歩き出した。
大きな湖と森に囲まれた自然豊かな街。少し遠回りをすると、湖を見ながら屋敷まで帰ることができる。草原の向こうに、うっすらと光っているのが湖だ。草原を渡り、橋を渡ってのんびりと歩く。
マリィは小さな川を渡る木の橋を歩く時の木を叩く音が好きだった。
「ごめんなさい」
潔く、謝ることにした。
「どんな顔をして会えばいいのかわからなくて、逃げたわ」
ふふっとエルリックの笑い声が聞こえた。
「そんな君も面白いんだけどな」
エルリックはそんなことを言ったけど、マリィよりも前を歩いていたから、どんな顔で言ったのかわからなかった。
静かな時が過ぎる。
湖が近づいてきたところで、ふと、思い立ったように、マリィは歌い出した。
花冠のお返しの歌を歌っていないことに気づいたのだ。
エルリックは、何も言わず、それでも足音が歌のテンポに合わせてタンタンと歩いていく。
手を繋いで草原の中に続く道を二人で歩いた。
雲が走る広い空の下。道は長く、何処までも続くみたいに見えた。
屋敷の裏口まで歩くと、裏口から続くバラの庭の香りが鼻をつく。
塀に埋まった鉄の門を抜けると、バラの木が何本も植えてある庭に出る。外に自然が多いこともあって、塀の中の庭はそれほど広くない。ただ、ご先祖の誰かが手ずから仕立てた庭とあって、今でも庭師2人の手によって綺麗に整えられていた。
バラの数が多く、まるで迷路のようで、小さい頃からかくれんぼをする時の定番の場所でもある。
バラに囲まれたその場所で、二人、笑いあって手を離した。
マリィの手の中のブローチを受け取り、ロベリアは続けた。
「ランの花なの」
マリィの胸に付けてくれる。ロベリアはもともと世話好きな子だけど、これほど優しかったことなんてあったかな。
そのまま、なぜか襟元を直し、髪まで整えてくれた。なぜだかやけに念入りだ。
その間、ぼんやりと、オレンジに染まっていく木々を眺めた。
少し、赤毛のふわふわが揺れる。
「よし!いってらっしゃい!」
ぐるん、と門の外へ向かされるのに、されるがままにしていると、視界にエルリックの姿が入った。
「……!」
もう、本当にロベリアはお節介なんだから!
ロベリアの顔を見ずに、そのまま話す。
「明日、うちのお屋敷で誕生日のティーパーティーがあるわ。来るでしょ?」
「ええ、行くわ」
「うん」
門の外へと歩きながら、ロベリアの顔を見た。
「ありがとう、ロベリア」
ロベリアは、また、ニカッと笑った。街はオレンジ色に染まっていた。
エルリックの前に立つと、エルリックの髪が光っているようにキラキラしていた。
何を言おうか悩んでいると、エルリックの方が先に口を開いた。
「おやおや、こんなところで偶然だね、僕のプリンセス」
ふわあっと顔が上気するのがわかった。
いつもの冗談……だけれど、今言われると冗談なのかどうかわからなくなる。まさか今までも冗談じゃなかったんじゃないか……なんて思うのはちょっと調子に乗りすぎだろうか。
エルリックがマリィの手を取り、先を歩き出した。
大きな湖と森に囲まれた自然豊かな街。少し遠回りをすると、湖を見ながら屋敷まで帰ることができる。草原の向こうに、うっすらと光っているのが湖だ。草原を渡り、橋を渡ってのんびりと歩く。
マリィは小さな川を渡る木の橋を歩く時の木を叩く音が好きだった。
「ごめんなさい」
潔く、謝ることにした。
「どんな顔をして会えばいいのかわからなくて、逃げたわ」
ふふっとエルリックの笑い声が聞こえた。
「そんな君も面白いんだけどな」
エルリックはそんなことを言ったけど、マリィよりも前を歩いていたから、どんな顔で言ったのかわからなかった。
静かな時が過ぎる。
湖が近づいてきたところで、ふと、思い立ったように、マリィは歌い出した。
花冠のお返しの歌を歌っていないことに気づいたのだ。
エルリックは、何も言わず、それでも足音が歌のテンポに合わせてタンタンと歩いていく。
手を繋いで草原の中に続く道を二人で歩いた。
雲が走る広い空の下。道は長く、何処までも続くみたいに見えた。
屋敷の裏口まで歩くと、裏口から続くバラの庭の香りが鼻をつく。
塀に埋まった鉄の門を抜けると、バラの木が何本も植えてある庭に出る。外に自然が多いこともあって、塀の中の庭はそれほど広くない。ただ、ご先祖の誰かが手ずから仕立てた庭とあって、今でも庭師2人の手によって綺麗に整えられていた。
バラの数が多く、まるで迷路のようで、小さい頃からかくれんぼをする時の定番の場所でもある。
バラに囲まれたその場所で、二人、笑いあって手を離した。
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