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第一章
バラの咲く庭 2
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今日は屋敷を抜け出してしまったし学校を出たのはいつもより遅かったし、怒られるかと思ったけれど、屋敷に入ると使用人達は優しく迎え入れてくれた。父と母に至っては、むしろニヤニヤしている。そんな顔を一応は隠そうとしているようだけど、娘の恋路を楽しんでいるようにしか見えない。
その夜、ベッドサイドには、花冠と共にランの花のブローチが置かれた。
明日はもう誕生日の前日で、パーティーには呼ばない学校の友人などとティーパーティーを開くことになっていた。
横になりながら、明日の段取りを考える。今日もなかなか眠れそうになかったけれど、昨日と違って楽しい時間だ。
お茶は料理長がお勧めしてくれた銘柄を使って、頼んておいたケーキ2種類にスコーンに……。
考えていると、ゆったりとした眠気がやってきた。
今日も空には星が光る。星の瞬きと共に、1日が終わっていった。
翌日は、早起きしたにも関わらず忙しく過ごした。
朝から念入りにエミルに髪と服を整えてもらう。今日は鮮やかな黄緑色のドレス。簡単な飾り気のないドレスだけれど上品で、動き回るティーパーティーにはピッタリだ。
窓の外から、鐘が鳴るのが聞こえた。
この街では、朝に一度、街に活気があふれだす頃に教会の鐘が鳴る。
もうこんな時間なのだ。
ティーパーティーまではまだ時間があるけれど、厨房へ行って今日の準備を始めなくては。
ドアを飛び出し、玄関ホールへ出たところで、出掛ける途中のエルリックを見かけた。
「ああ、エルリック!」
飛び込んで両手を取ると、くるくると一緒にまわる。
「今日はこれからお友達と庭で誕生日のティーパーティーがあるの」
驚いた顔をしつつも、笑いながら受け入れてくれるエルリックは心が広い。玄関ホールの窓や階段が、走るようにくるくると動いた。
「僕はこれから街へ行くところだよ」
ハイタッチをして、エルリックは街へ、マリィは厨房へ。
ひとつひとつの造りはこじんまりとしているが、城のような屋敷は、何処までも広い。廊下は静かで、歩いてもあまり音はしない。そうそう人と会うこともない廊下を、ここぞとばかりに小走りで厨房へ向かう。母が見たらお小言を言い出す場面だろう。
置物はほとんどなく、あるのは大きな窓にカーテン。そして、数えたこともない多くの部屋。
厨房はマリィの部屋からは少し遠い。
開きっぱなしのドアをくぐると、2つほどの小部屋を通り抜け、一番奥がこの屋敷の食事を一手に担う大きな厨房だ。
「おはよう、リンド」
「マリィ様、ケーキを2種類とクッキーを焼いておきましたよ」
料理長に声をかけると、いつもの大きな声が返ってきた。
「今日は10人来るの。ケーキスタンドを準備するわ」
それからは、ケーキの用意やテーブルセッティングをこなして、昼過ぎには友人たちがやってきた。
「マリィ様、お誕生日おめでとう!」
その夜、ベッドサイドには、花冠と共にランの花のブローチが置かれた。
明日はもう誕生日の前日で、パーティーには呼ばない学校の友人などとティーパーティーを開くことになっていた。
横になりながら、明日の段取りを考える。今日もなかなか眠れそうになかったけれど、昨日と違って楽しい時間だ。
お茶は料理長がお勧めしてくれた銘柄を使って、頼んておいたケーキ2種類にスコーンに……。
考えていると、ゆったりとした眠気がやってきた。
今日も空には星が光る。星の瞬きと共に、1日が終わっていった。
翌日は、早起きしたにも関わらず忙しく過ごした。
朝から念入りにエミルに髪と服を整えてもらう。今日は鮮やかな黄緑色のドレス。簡単な飾り気のないドレスだけれど上品で、動き回るティーパーティーにはピッタリだ。
窓の外から、鐘が鳴るのが聞こえた。
この街では、朝に一度、街に活気があふれだす頃に教会の鐘が鳴る。
もうこんな時間なのだ。
ティーパーティーまではまだ時間があるけれど、厨房へ行って今日の準備を始めなくては。
ドアを飛び出し、玄関ホールへ出たところで、出掛ける途中のエルリックを見かけた。
「ああ、エルリック!」
飛び込んで両手を取ると、くるくると一緒にまわる。
「今日はこれからお友達と庭で誕生日のティーパーティーがあるの」
驚いた顔をしつつも、笑いながら受け入れてくれるエルリックは心が広い。玄関ホールの窓や階段が、走るようにくるくると動いた。
「僕はこれから街へ行くところだよ」
ハイタッチをして、エルリックは街へ、マリィは厨房へ。
ひとつひとつの造りはこじんまりとしているが、城のような屋敷は、何処までも広い。廊下は静かで、歩いてもあまり音はしない。そうそう人と会うこともない廊下を、ここぞとばかりに小走りで厨房へ向かう。母が見たらお小言を言い出す場面だろう。
置物はほとんどなく、あるのは大きな窓にカーテン。そして、数えたこともない多くの部屋。
厨房はマリィの部屋からは少し遠い。
開きっぱなしのドアをくぐると、2つほどの小部屋を通り抜け、一番奥がこの屋敷の食事を一手に担う大きな厨房だ。
「おはよう、リンド」
「マリィ様、ケーキを2種類とクッキーを焼いておきましたよ」
料理長に声をかけると、いつもの大きな声が返ってきた。
「今日は10人来るの。ケーキスタンドを準備するわ」
それからは、ケーキの用意やテーブルセッティングをこなして、昼過ぎには友人たちがやってきた。
「マリィ様、お誕生日おめでとう!」
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