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第十三章
553 嬉しいですよね
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あれから数日後、コウヤは再び王城に来ていた。
この日は、午後から国中の領主達も集まり、会議が開かれることになっている。
コウヤは朝から学園についての議題のための準備で、資料をまとめるのに忙しくしていた。とはいえ、忙しい仕事が病的に好きなコウヤとしては、苦もなく、ニールも補佐についているため、驚異的な速さでまとめられていく。
その資料を運び出したり移動させるのが侍従のフレスタとディスタだ。彼らはここ数ヶ月で体力もかなりつき、健康的な体付きになったこともあり、顔立ちも幼さが抜けて来ているようだ。
そんな様子を、報告をするために来たヤクス達教師が呆然と部屋を一歩入った所で見ていた。
因みに、パックンやダンゴ、テンキはギルドでの仕事をするのにユースールに転移している。城内での警護は過剰なほどなので、安心して出掛けていた。
「……これは……お声もかけ難いですね……」
「とても息が合っておられるようで……」
史学教師のヤクスと、法学教師のスクエラが呟くように小さな声で話す。
コウヤは何も言わなくてもニールが受け取り、それに何やら付け足してまたコウヤに返す。それにサインしてまたニールに、と一言も喋らないのに一度も手を止めることなく書類を捌いていた。
「全くこちらに気付かれませんね……」
神学教師のヘルトローアが、その集中力に感心すれば、算学教師のユリスの語学教師のミルスが頷く。
「集中力がさすがです……」
「あの速度で読んで書いているというのもすごい……」
しばらく見ていた一同。キリが付いたらしいコウヤが顔を上げた。
「ん? あ、おはようございます。すみません、気付かなくて」
「いえいえ。忙しい時に来てしまったようで……」
ヤクスが申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫ですよ。一息入れる所ですから。ニール。フレスタとディスタも、少し休憩しよう」
「承知しました」
「「はいっ」」
ニール達がお茶を淹れるため席を立つ。フレスタとディスタは机の上にある資料を集めて、部屋の端へと運んで行った。
「どうぞ。こっちに座ってください。散らかっていてすみません」
「すごい量の資料ですねえ」
「今回は国中のものを集めたので、報告書が多くて」
教師達が席につく。
「……一体何を……とお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ヤクスがそう尋ねた。これに、コウヤは微笑んで頷く。
「もちろんです」
そして、今回問題となることを説明する。
「予想以上に、学園の入学希望者が居ることが、今問題になっているんです。王都の人の多さに気付きましたか?」
「ええ……少し前に神教国の聖女の件もあり、観光や話題性から人が増えていると思っていたのですが……?」
「それも理由の一つですね。ですが、一番は、学園の話を聞き、地方から、又は国を出て来た他国の者が来ているのが原因のようです。いつかはと学園を見に来ただけの者も多いですが……これが王都に来た者達の来訪理由をまとめたものになります」
冒険者や商人であっても、町に入る門の所で来訪理由を告げる。『仕事です』という理由でも冒険者や商人は通れるが、明確に学園を見に来たなどと告げる者は多かったようだ。それをまとめ、更に白夜部隊が調査した結果がその資料に反映されていた。
「半分以上が、学園入学を考えている者……」
「庶民でも、今まで学ぶことを諦めていた者は多かったみたいです」
「「「「「……」」」」」
これほどまでにと、教師達の誰もが唖然とした。
「けど、嬉しいですよね」
「え?」
コウヤが笑顔を向ける。
「想定とは違うのでバタ付いていますけど、これだけの人達が学びたいと思ってくれているというのは……嬉しいです」
「っ……」
ヤクス達は、はっとした表情になる。
「やらされる、そう誰かに望まれるのではなく、自分たちで考えて、将来の為であったり、自分や家族のためにと決意して来てくれた人たちが沢山いるんですよ」
「そうですね……っ、これはとても、嬉しいことです」
理解した途端、ヤクス達の目に滲み出るものが見えた。そして、自分たちが教壇に立つ姿を想像する。
「これは、我々も気合いを入れる必要がありそうですね」
自分たちも覚悟を、決意を固めなければと頷き合う。ヤクス達も、教壇に立つことになる。他の教師達の指導もしていた。彼らは学園の教師の代表だ。
「こうなって来ると、貴族の子ども達も覚悟を決めて来てもらわないといけませんよね」
「え……あ……真面目に学ぶ意思のある者達に……」
「ええ。置いていかれるでしょう。学園は個別指導ではありませんしね」
「「「「「……」」」」」
「言い方は悪いですが、落ちこぼれないように気を付けて見てもらわないといけないかもしれません」
「「「「「……対策を考えます……」」」」」
「贔屓はダメですからね?」
「「「「「はい……」」」」」
教師達に、新たな悩みが出来たようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
たまには宣伝。
文庫版、電子書籍もよろしくお願いします。
この日は、午後から国中の領主達も集まり、会議が開かれることになっている。
コウヤは朝から学園についての議題のための準備で、資料をまとめるのに忙しくしていた。とはいえ、忙しい仕事が病的に好きなコウヤとしては、苦もなく、ニールも補佐についているため、驚異的な速さでまとめられていく。
その資料を運び出したり移動させるのが侍従のフレスタとディスタだ。彼らはここ数ヶ月で体力もかなりつき、健康的な体付きになったこともあり、顔立ちも幼さが抜けて来ているようだ。
そんな様子を、報告をするために来たヤクス達教師が呆然と部屋を一歩入った所で見ていた。
因みに、パックンやダンゴ、テンキはギルドでの仕事をするのにユースールに転移している。城内での警護は過剰なほどなので、安心して出掛けていた。
「……これは……お声もかけ難いですね……」
「とても息が合っておられるようで……」
史学教師のヤクスと、法学教師のスクエラが呟くように小さな声で話す。
コウヤは何も言わなくてもニールが受け取り、それに何やら付け足してまたコウヤに返す。それにサインしてまたニールに、と一言も喋らないのに一度も手を止めることなく書類を捌いていた。
「全くこちらに気付かれませんね……」
神学教師のヘルトローアが、その集中力に感心すれば、算学教師のユリスの語学教師のミルスが頷く。
「集中力がさすがです……」
「あの速度で読んで書いているというのもすごい……」
しばらく見ていた一同。キリが付いたらしいコウヤが顔を上げた。
「ん? あ、おはようございます。すみません、気付かなくて」
「いえいえ。忙しい時に来てしまったようで……」
ヤクスが申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫ですよ。一息入れる所ですから。ニール。フレスタとディスタも、少し休憩しよう」
「承知しました」
「「はいっ」」
ニール達がお茶を淹れるため席を立つ。フレスタとディスタは机の上にある資料を集めて、部屋の端へと運んで行った。
「どうぞ。こっちに座ってください。散らかっていてすみません」
「すごい量の資料ですねえ」
「今回は国中のものを集めたので、報告書が多くて」
教師達が席につく。
「……一体何を……とお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ヤクスがそう尋ねた。これに、コウヤは微笑んで頷く。
「もちろんです」
そして、今回問題となることを説明する。
「予想以上に、学園の入学希望者が居ることが、今問題になっているんです。王都の人の多さに気付きましたか?」
「ええ……少し前に神教国の聖女の件もあり、観光や話題性から人が増えていると思っていたのですが……?」
「それも理由の一つですね。ですが、一番は、学園の話を聞き、地方から、又は国を出て来た他国の者が来ているのが原因のようです。いつかはと学園を見に来ただけの者も多いですが……これが王都に来た者達の来訪理由をまとめたものになります」
冒険者や商人であっても、町に入る門の所で来訪理由を告げる。『仕事です』という理由でも冒険者や商人は通れるが、明確に学園を見に来たなどと告げる者は多かったようだ。それをまとめ、更に白夜部隊が調査した結果がその資料に反映されていた。
「半分以上が、学園入学を考えている者……」
「庶民でも、今まで学ぶことを諦めていた者は多かったみたいです」
「「「「「……」」」」」
これほどまでにと、教師達の誰もが唖然とした。
「けど、嬉しいですよね」
「え?」
コウヤが笑顔を向ける。
「想定とは違うのでバタ付いていますけど、これだけの人達が学びたいと思ってくれているというのは……嬉しいです」
「っ……」
ヤクス達は、はっとした表情になる。
「やらされる、そう誰かに望まれるのではなく、自分たちで考えて、将来の為であったり、自分や家族のためにと決意して来てくれた人たちが沢山いるんですよ」
「そうですね……っ、これはとても、嬉しいことです」
理解した途端、ヤクス達の目に滲み出るものが見えた。そして、自分たちが教壇に立つ姿を想像する。
「これは、我々も気合いを入れる必要がありそうですね」
自分たちも覚悟を、決意を固めなければと頷き合う。ヤクス達も、教壇に立つことになる。他の教師達の指導もしていた。彼らは学園の教師の代表だ。
「こうなって来ると、貴族の子ども達も覚悟を決めて来てもらわないといけませんよね」
「え……あ……真面目に学ぶ意思のある者達に……」
「ええ。置いていかれるでしょう。学園は個別指導ではありませんしね」
「「「「「……」」」」」
「言い方は悪いですが、落ちこぼれないように気を付けて見てもらわないといけないかもしれません」
「「「「「……対策を考えます……」」」」」
「贔屓はダメですからね?」
「「「「「はい……」」」」」
教師達に、新たな悩みが出来たようだ。
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