447 / 475
第十三章
552 高そう……
しおりを挟む
ミラルファが誰を弟子にと目を付けたのかは気になるが、そのまま誤魔化されて数日が経った。どのみち、問い合わせ等に時間がかかっているので、『師弟コンパ』の開催はあと数ヶ月は先になる。
コウヤはこの日、王都の冒険者ギルドに来ていた。
職員達は、最近になって日に日に忙しさを増していっていることに気付いていた。その原因はコウヤや少し広くなり、住みやすくなった王都の町のせいだと思っているようだ。
「なんだか、特に他国から移動して来た人達が増えた気がするんですが……」
「宿屋も増えたからかな?」
「コウヤ様を一目見ようとやって来てるんでしょう」
これらの理由は、あながち間違いではない。しかし、それだけではなかったのだ。
事務仕事をしながら話していた職員達に、コウヤが苦笑を浮かべて答えた。
「学園の入学希望者が集まって来ているんですよ」
「「「あっ」」」
職員達も気付いた。多くの人々の関心を寄せる学園。幅広い専門科を持ち、貴族の子息子女だけでなく、学ぶ意欲のある者ならば誰にでも試験に受かれば入学資格を与えると言われていた。
だが、そうとは聞いていても、入学資格については懐疑的だったようだ。職員の一人が声を小さくして、コウヤに尋ねる。
「さすがに、誰でもというのは無理ですよね?」
他の職員達も、そう思っているのだろう、静かにコウヤに目を向けて答えを待っていた。コウヤは一度頷く。しかし、全てに同意したわけではない。
「学園は、それなりに基礎知識を持った人達が、更に専門性を高めるために勉強する所なんだ。だから、基礎の部分は別の所で勉強してもらう必要がある」
誰でもというのは無理だ。学園では、計算にしても、最低限足し算引き算が分からない人は受け入れられない。文字が読めない、書けない人も断わる事になっている。せめて筆記試験が受けられなければならないのだから。
その前段階を埋めるのは、学園ではない。
「そこを教会が請け負ってくれるんだよ。大きな町だと、神教会の建物が二つとか三つあったでしょう?」
「ええ……この王都にもいくつか……あ、その建物を使うんですか?」
「そう。孤児院としても使っているけど、そこで、読み書きや簡単な計算を教えてもらう事になったんです。教師には、年齢を理由に暇を出されたメイドさんとか、家に居づらい貴族の人とかを招集しています」
「……聞いた事あります……庶民なら、夫が亡くなったとか、家族と折り合いが悪いなんてことがあれば、それこそ、冒険者になって日銭を稼げるけど、貴族はそうはいかないからって……」
「メイドも、一度暇を出されると、次がないって聞きますよね……」
主人によっては、言い掛かりを付けて、推薦状も書かずに追い出す者もいる。そうなれば、そのメイドや使用人に次の職場はない。暇を出された元メイドというのは、不名誉なものだ。どこへ行っても最底辺の仕事を与えられるか、雇ってはもらえないのだ。
「けど、メイドさん達は元は貴族の人ってのが多いからね。それなりに読み書き計算は出来る。基礎となる部分くらいは問題なく教えられると思うんだ」
「そうですね……」
「うわ~、メイドさんが教えてくれるとか、いいな~」
「別に、メイド服は着てないと思うけど?」
「バカっ、それでも良いんだよ!」
「そういうもの?」
「そういうもんだ」
聞こえたらしい冒険者の人達もうんうんと頷いていた。それにクスクスと笑いながら、コウヤは続ける。
「そこで基礎知識を学んで、その先を知りたい人達には、年に一度の学園の入試に参加してもらう事になります。そこで合格出来れば、入学できます」
入試とはいっても本当に基礎的な事の確認だけ。たが、大事な条件がある。
「ただし、学園は国の機関でもあるので、教師達を雇うにも、備品を揃えるのにもお金が必要ですから、授業料が必要になります」
「ですよね~……」
「高そう……」
「建物もすごいですもんね……」
最新の魔導具も入っている最先端の建物だ。お金がかからないはずがない。
奨学金というのも考えていたが、お金を後で払わなくてはならないというのは、学びに来ている者達にとって、精神的に追い詰めることにもなる。
先を考えられる者にとっては、払えなかったらどうしようという不安は消せない。
「半年分の金額を払える人は先に払いますが、無理がある方は一日数時間、学園や町での仕事をしてもらうか、一週間分ずつを週末に冒険者として活動することで払うことになっているんです。それも先払いが原則です」
後払いにすると、この授業のお金が払えていないと気にする人がいるだろう。せっかくの授業なのだ。気兼ねなく受けて欲しい。
「それで払えるものなんですか?」
「そうですねえ。一日約大銀貨一枚です。それで昼食も付きます」
「「「え!?」」」
「最初の入学金が受講する科によっては、大銀貨五枚から十枚必要ですけどね。半年分で約大銀貨八十枚、金貨八枚くらいです」
「……中堅の冒険者なら、即金でいけますね……」
「無理……ではないかも」
それくらいならば払えるかもしれないと誰もが思ったようだ。だが、逆に不安そうな顔をするので、コウヤは更に説明する。
「一人の教師に一人の生徒ではないので、可能になる金額設定です。みんなで出し合いましょうという感じですね」
「あ、それなら納得」
「高い買い物も、みんなでお金を出し合ったら、一人分はそれほどでもないですもんね」
「そういうことです」
これで皆、納得したようだ。しかし、新たな問題もありそうだ。
「それ……みんな行きたがりません?」
「だから、人が多いんですよ」
「「「なるほど……」」」
人が増えている理由が納得できたようだ。とはいえ、このままだと学園も大変なことになりそうだ。早急に対策を講じる必要が出て来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
コウヤはこの日、王都の冒険者ギルドに来ていた。
職員達は、最近になって日に日に忙しさを増していっていることに気付いていた。その原因はコウヤや少し広くなり、住みやすくなった王都の町のせいだと思っているようだ。
「なんだか、特に他国から移動して来た人達が増えた気がするんですが……」
「宿屋も増えたからかな?」
「コウヤ様を一目見ようとやって来てるんでしょう」
これらの理由は、あながち間違いではない。しかし、それだけではなかったのだ。
事務仕事をしながら話していた職員達に、コウヤが苦笑を浮かべて答えた。
「学園の入学希望者が集まって来ているんですよ」
「「「あっ」」」
職員達も気付いた。多くの人々の関心を寄せる学園。幅広い専門科を持ち、貴族の子息子女だけでなく、学ぶ意欲のある者ならば誰にでも試験に受かれば入学資格を与えると言われていた。
だが、そうとは聞いていても、入学資格については懐疑的だったようだ。職員の一人が声を小さくして、コウヤに尋ねる。
「さすがに、誰でもというのは無理ですよね?」
他の職員達も、そう思っているのだろう、静かにコウヤに目を向けて答えを待っていた。コウヤは一度頷く。しかし、全てに同意したわけではない。
「学園は、それなりに基礎知識を持った人達が、更に専門性を高めるために勉強する所なんだ。だから、基礎の部分は別の所で勉強してもらう必要がある」
誰でもというのは無理だ。学園では、計算にしても、最低限足し算引き算が分からない人は受け入れられない。文字が読めない、書けない人も断わる事になっている。せめて筆記試験が受けられなければならないのだから。
その前段階を埋めるのは、学園ではない。
「そこを教会が請け負ってくれるんだよ。大きな町だと、神教会の建物が二つとか三つあったでしょう?」
「ええ……この王都にもいくつか……あ、その建物を使うんですか?」
「そう。孤児院としても使っているけど、そこで、読み書きや簡単な計算を教えてもらう事になったんです。教師には、年齢を理由に暇を出されたメイドさんとか、家に居づらい貴族の人とかを招集しています」
「……聞いた事あります……庶民なら、夫が亡くなったとか、家族と折り合いが悪いなんてことがあれば、それこそ、冒険者になって日銭を稼げるけど、貴族はそうはいかないからって……」
「メイドも、一度暇を出されると、次がないって聞きますよね……」
主人によっては、言い掛かりを付けて、推薦状も書かずに追い出す者もいる。そうなれば、そのメイドや使用人に次の職場はない。暇を出された元メイドというのは、不名誉なものだ。どこへ行っても最底辺の仕事を与えられるか、雇ってはもらえないのだ。
「けど、メイドさん達は元は貴族の人ってのが多いからね。それなりに読み書き計算は出来る。基礎となる部分くらいは問題なく教えられると思うんだ」
「そうですね……」
「うわ~、メイドさんが教えてくれるとか、いいな~」
「別に、メイド服は着てないと思うけど?」
「バカっ、それでも良いんだよ!」
「そういうもの?」
「そういうもんだ」
聞こえたらしい冒険者の人達もうんうんと頷いていた。それにクスクスと笑いながら、コウヤは続ける。
「そこで基礎知識を学んで、その先を知りたい人達には、年に一度の学園の入試に参加してもらう事になります。そこで合格出来れば、入学できます」
入試とはいっても本当に基礎的な事の確認だけ。たが、大事な条件がある。
「ただし、学園は国の機関でもあるので、教師達を雇うにも、備品を揃えるのにもお金が必要ですから、授業料が必要になります」
「ですよね~……」
「高そう……」
「建物もすごいですもんね……」
最新の魔導具も入っている最先端の建物だ。お金がかからないはずがない。
奨学金というのも考えていたが、お金を後で払わなくてはならないというのは、学びに来ている者達にとって、精神的に追い詰めることにもなる。
先を考えられる者にとっては、払えなかったらどうしようという不安は消せない。
「半年分の金額を払える人は先に払いますが、無理がある方は一日数時間、学園や町での仕事をしてもらうか、一週間分ずつを週末に冒険者として活動することで払うことになっているんです。それも先払いが原則です」
後払いにすると、この授業のお金が払えていないと気にする人がいるだろう。せっかくの授業なのだ。気兼ねなく受けて欲しい。
「それで払えるものなんですか?」
「そうですねえ。一日約大銀貨一枚です。それで昼食も付きます」
「「「え!?」」」
「最初の入学金が受講する科によっては、大銀貨五枚から十枚必要ですけどね。半年分で約大銀貨八十枚、金貨八枚くらいです」
「……中堅の冒険者なら、即金でいけますね……」
「無理……ではないかも」
それくらいならば払えるかもしれないと誰もが思ったようだ。だが、逆に不安そうな顔をするので、コウヤは更に説明する。
「一人の教師に一人の生徒ではないので、可能になる金額設定です。みんなで出し合いましょうという感じですね」
「あ、それなら納得」
「高い買い物も、みんなでお金を出し合ったら、一人分はそれほどでもないですもんね」
「そういうことです」
これで皆、納得したようだ。しかし、新たな問題もありそうだ。
「それ……みんな行きたがりません?」
「だから、人が多いんですよ」
「「「なるほど……」」」
人が増えている理由が納得できたようだ。とはいえ、このままだと学園も大変なことになりそうだ。早急に対策を講じる必要が出て来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
348
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。