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第十三章
552 高そう……
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ミラルファが誰を弟子にと目を付けたのかは気になるが、そのまま誤魔化されて数日が経った。どのみち、問い合わせ等に時間がかかっているので、『師弟コンパ』の開催はあと数ヶ月は先になる。
コウヤはこの日、王都の冒険者ギルドに来ていた。
職員達は、最近になって日に日に忙しさを増していっていることに気付いていた。その原因はコウヤや少し広くなり、住みやすくなった王都の町のせいだと思っているようだ。
「なんだか、特に他国から移動して来た人達が増えた気がするんですが……」
「宿屋も増えたからかな?」
「コウヤ様を一目見ようとやって来てるんでしょう」
これらの理由は、あながち間違いではない。しかし、それだけではなかったのだ。
事務仕事をしながら話していた職員達に、コウヤが苦笑を浮かべて答えた。
「学園の入学希望者が集まって来ているんですよ」
「「「あっ」」」
職員達も気付いた。多くの人々の関心を寄せる学園。幅広い専門科を持ち、貴族の子息子女だけでなく、学ぶ意欲のある者ならば誰にでも試験に受かれば入学資格を与えると言われていた。
だが、そうとは聞いていても、入学資格については懐疑的だったようだ。職員の一人が声を小さくして、コウヤに尋ねる。
「さすがに、誰でもというのは無理ですよね?」
他の職員達も、そう思っているのだろう、静かにコウヤに目を向けて答えを待っていた。コウヤは一度頷く。しかし、全てに同意したわけではない。
「学園は、それなりに基礎知識を持った人達が、更に専門性を高めるために勉強する所なんだ。だから、基礎の部分は別の所で勉強してもらう必要がある」
誰でもというのは無理だ。学園では、計算にしても、最低限足し算引き算が分からない人は受け入れられない。文字が読めない、書けない人も断わる事になっている。せめて筆記試験が受けられなければならないのだから。
その前段階を埋めるのは、学園ではない。
「そこを教会が請け負ってくれるんだよ。大きな町だと、神教会の建物が二つとか三つあったでしょう?」
「ええ……この王都にもいくつか……あ、その建物を使うんですか?」
「そう。孤児院としても使っているけど、そこで、読み書きや簡単な計算を教えてもらう事になったんです。教師には、年齢を理由に暇を出されたメイドさんとか、家に居づらい貴族の人とかを招集しています」
「……聞いた事あります……庶民なら、夫が亡くなったとか、家族と折り合いが悪いなんてことがあれば、それこそ、冒険者になって日銭を稼げるけど、貴族はそうはいかないからって……」
「メイドも、一度暇を出されると、次がないって聞きますよね……」
主人によっては、言い掛かりを付けて、推薦状も書かずに追い出す者もいる。そうなれば、そのメイドや使用人に次の職場はない。暇を出された元メイドというのは、不名誉なものだ。どこへ行っても最底辺の仕事を与えられるか、雇ってはもらえないのだ。
「けど、メイドさん達は元は貴族の人ってのが多いからね。それなりに読み書き計算は出来る。基礎となる部分くらいは問題なく教えられると思うんだ」
「そうですね……」
「うわ~、メイドさんが教えてくれるとか、いいな~」
「別に、メイド服は着てないと思うけど?」
「バカっ、それでも良いんだよ!」
「そういうもの?」
「そういうもんだ」
聞こえたらしい冒険者の人達もうんうんと頷いていた。それにクスクスと笑いながら、コウヤは続ける。
「そこで基礎知識を学んで、その先を知りたい人達には、年に一度の学園の入試に参加してもらう事になります。そこで合格出来れば、入学できます」
入試とはいっても本当に基礎的な事の確認だけ。たが、大事な条件がある。
「ただし、学園は国の機関でもあるので、教師達を雇うにも、備品を揃えるのにもお金が必要ですから、授業料が必要になります」
「ですよね~……」
「高そう……」
「建物もすごいですもんね……」
最新の魔導具も入っている最先端の建物だ。お金がかからないはずがない。
奨学金というのも考えていたが、お金を後で払わなくてはならないというのは、学びに来ている者達にとって、精神的に追い詰めることにもなる。
先を考えられる者にとっては、払えなかったらどうしようという不安は消せない。
「半年分の金額を払える人は先に払いますが、無理がある方は一日数時間、学園や町での仕事をしてもらうか、一週間分ずつを週末に冒険者として活動することで払うことになっているんです。それも先払いが原則です」
後払いにすると、この授業のお金が払えていないと気にする人がいるだろう。せっかくの授業なのだ。気兼ねなく受けて欲しい。
「それで払えるものなんですか?」
「そうですねえ。一日約大銀貨一枚です。それで昼食も付きます」
「「「え!?」」」
「最初の入学金が受講する科によっては、大銀貨五枚から十枚必要ですけどね。半年分で約大銀貨八十枚、金貨八枚くらいです」
「……中堅の冒険者なら、即金でいけますね……」
「無理……ではないかも」
それくらいならば払えるかもしれないと誰もが思ったようだ。だが、逆に不安そうな顔をするので、コウヤは更に説明する。
「一人の教師に一人の生徒ではないので、可能になる金額設定です。みんなで出し合いましょうという感じですね」
「あ、それなら納得」
「高い買い物も、みんなでお金を出し合ったら、一人分はそれほどでもないですもんね」
「そういうことです」
これで皆、納得したようだ。しかし、新たな問題もありそうだ。
「それ……みんな行きたがりません?」
「だから、人が多いんですよ」
「「「なるほど……」」」
人が増えている理由が納得できたようだ。とはいえ、このままだと学園も大変なことになりそうだ。早急に対策を講じる必要が出て来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
コウヤはこの日、王都の冒険者ギルドに来ていた。
職員達は、最近になって日に日に忙しさを増していっていることに気付いていた。その原因はコウヤや少し広くなり、住みやすくなった王都の町のせいだと思っているようだ。
「なんだか、特に他国から移動して来た人達が増えた気がするんですが……」
「宿屋も増えたからかな?」
「コウヤ様を一目見ようとやって来てるんでしょう」
これらの理由は、あながち間違いではない。しかし、それだけではなかったのだ。
事務仕事をしながら話していた職員達に、コウヤが苦笑を浮かべて答えた。
「学園の入学希望者が集まって来ているんですよ」
「「「あっ」」」
職員達も気付いた。多くの人々の関心を寄せる学園。幅広い専門科を持ち、貴族の子息子女だけでなく、学ぶ意欲のある者ならば誰にでも試験に受かれば入学資格を与えると言われていた。
だが、そうとは聞いていても、入学資格については懐疑的だったようだ。職員の一人が声を小さくして、コウヤに尋ねる。
「さすがに、誰でもというのは無理ですよね?」
他の職員達も、そう思っているのだろう、静かにコウヤに目を向けて答えを待っていた。コウヤは一度頷く。しかし、全てに同意したわけではない。
「学園は、それなりに基礎知識を持った人達が、更に専門性を高めるために勉強する所なんだ。だから、基礎の部分は別の所で勉強してもらう必要がある」
誰でもというのは無理だ。学園では、計算にしても、最低限足し算引き算が分からない人は受け入れられない。文字が読めない、書けない人も断わる事になっている。せめて筆記試験が受けられなければならないのだから。
その前段階を埋めるのは、学園ではない。
「そこを教会が請け負ってくれるんだよ。大きな町だと、神教会の建物が二つとか三つあったでしょう?」
「ええ……この王都にもいくつか……あ、その建物を使うんですか?」
「そう。孤児院としても使っているけど、そこで、読み書きや簡単な計算を教えてもらう事になったんです。教師には、年齢を理由に暇を出されたメイドさんとか、家に居づらい貴族の人とかを招集しています」
「……聞いた事あります……庶民なら、夫が亡くなったとか、家族と折り合いが悪いなんてことがあれば、それこそ、冒険者になって日銭を稼げるけど、貴族はそうはいかないからって……」
「メイドも、一度暇を出されると、次がないって聞きますよね……」
主人によっては、言い掛かりを付けて、推薦状も書かずに追い出す者もいる。そうなれば、そのメイドや使用人に次の職場はない。暇を出された元メイドというのは、不名誉なものだ。どこへ行っても最底辺の仕事を与えられるか、雇ってはもらえないのだ。
「けど、メイドさん達は元は貴族の人ってのが多いからね。それなりに読み書き計算は出来る。基礎となる部分くらいは問題なく教えられると思うんだ」
「そうですね……」
「うわ~、メイドさんが教えてくれるとか、いいな~」
「別に、メイド服は着てないと思うけど?」
「バカっ、それでも良いんだよ!」
「そういうもの?」
「そういうもんだ」
聞こえたらしい冒険者の人達もうんうんと頷いていた。それにクスクスと笑いながら、コウヤは続ける。
「そこで基礎知識を学んで、その先を知りたい人達には、年に一度の学園の入試に参加してもらう事になります。そこで合格出来れば、入学できます」
入試とはいっても本当に基礎的な事の確認だけ。たが、大事な条件がある。
「ただし、学園は国の機関でもあるので、教師達を雇うにも、備品を揃えるのにもお金が必要ですから、授業料が必要になります」
「ですよね~……」
「高そう……」
「建物もすごいですもんね……」
最新の魔導具も入っている最先端の建物だ。お金がかからないはずがない。
奨学金というのも考えていたが、お金を後で払わなくてはならないというのは、学びに来ている者達にとって、精神的に追い詰めることにもなる。
先を考えられる者にとっては、払えなかったらどうしようという不安は消せない。
「半年分の金額を払える人は先に払いますが、無理がある方は一日数時間、学園や町での仕事をしてもらうか、一週間分ずつを週末に冒険者として活動することで払うことになっているんです。それも先払いが原則です」
後払いにすると、この授業のお金が払えていないと気にする人がいるだろう。せっかくの授業なのだ。気兼ねなく受けて欲しい。
「それで払えるものなんですか?」
「そうですねえ。一日約大銀貨一枚です。それで昼食も付きます」
「「「え!?」」」
「最初の入学金が受講する科によっては、大銀貨五枚から十枚必要ですけどね。半年分で約大銀貨八十枚、金貨八枚くらいです」
「……中堅の冒険者なら、即金でいけますね……」
「無理……ではないかも」
それくらいならば払えるかもしれないと誰もが思ったようだ。だが、逆に不安そうな顔をするので、コウヤは更に説明する。
「一人の教師に一人の生徒ではないので、可能になる金額設定です。みんなで出し合いましょうという感じですね」
「あ、それなら納得」
「高い買い物も、みんなでお金を出し合ったら、一人分はそれほどでもないですもんね」
「そういうことです」
これで皆、納得したようだ。しかし、新たな問題もありそうだ。
「それ……みんな行きたがりません?」
「だから、人が多いんですよ」
「「「なるほど……」」」
人が増えている理由が納得できたようだ。とはいえ、このままだと学園も大変なことになりそうだ。早急に対策を講じる必要が出て来た。
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