元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
447 / 496
第十三章

552 高そう……

しおりを挟む
ミラルファが誰を弟子にと目を付けたのかは気になるが、そのまま誤魔化されて数日が経った。どのみち、問い合わせ等に時間がかかっているので、『師弟コンパ』の開催はあと数ヶ月は先になる。

コウヤはこの日、王都の冒険者ギルドに来ていた。

職員達は、最近になって日に日に忙しさを増していっていることに気付いていた。その原因はコウヤや少し広くなり、住みやすくなった王都の町のせいだと思っているようだ。

「なんだか、特に他国から移動して来た人達が増えた気がするんですが……」
「宿屋も増えたからかな?」
「コウヤ様を一目見ようとやって来てるんでしょう」

これらの理由は、あながち間違いではない。しかし、それだけではなかったのだ。

事務仕事をしながら話していた職員達に、コウヤが苦笑を浮かべて答えた。

「学園の入学希望者が集まって来ているんですよ」
「「「あっ」」」

職員達も気付いた。多くの人々の関心を寄せる学園。幅広い専門科を持ち、貴族の子息子女だけでなく、学ぶ意欲のある者ならば誰にでも試験に受かれば入学資格を与えると言われていた。

だが、そうとは聞いていても、入学資格については懐疑的だったようだ。職員の一人が声を小さくして、コウヤに尋ねる。

「さすがに、誰でもというのは無理ですよね?」

他の職員達も、そう思っているのだろう、静かにコウヤに目を向けて答えを待っていた。コウヤは一度頷く。しかし、全てに同意したわけではない。

「学園は、それなりに基礎知識を持った人達が、更に専門性を高めるために勉強する所なんだ。だから、基礎の部分は別の所で勉強してもらう必要がある」

誰でもというのは無理だ。学園では、計算にしても、最低限足し算引き算が分からない人は受け入れられない。文字が読めない、書けない人も断わる事になっている。せめて筆記試験が受けられなければならないのだから。

その前段階を埋めるのは、学園ではない。

「そこを教会が請け負ってくれるんだよ。大きな町だと、神教会の建物が二つとか三つあったでしょう?」
「ええ……この王都にもいくつか……あ、その建物を使うんですか?」
「そう。孤児院としても使っているけど、そこで、読み書きや簡単な計算を教えてもらう事になったんです。教師には、年齢を理由に暇を出されたメイドさんとか、家に居づらい貴族の人とかを招集しています」
「……聞いた事あります……庶民なら、夫が亡くなったとか、家族と折り合いが悪いなんてことがあれば、それこそ、冒険者になって日銭を稼げるけど、貴族はそうはいかないからって……」
「メイドも、一度暇を出されると、次がないって聞きますよね……」

主人によっては、言い掛かりを付けて、推薦状も書かずに追い出す者もいる。そうなれば、そのメイドや使用人に次の職場はない。暇を出された元メイドというのは、不名誉なものだ。どこへ行っても最底辺の仕事を与えられるか、雇ってはもらえないのだ。

「けど、メイドさん達は元は貴族の人ってのが多いからね。それなりに読み書き計算は出来る。基礎となる部分くらいは問題なく教えられると思うんだ」
「そうですね……」
「うわ~、メイドさんが教えてくれるとか、いいな~」
「別に、メイド服は着てないと思うけど?」
「バカっ、それでも良いんだよ!」
「そういうもの?」
「そういうもんだ」

聞こえたらしい冒険者の人達もうんうんと頷いていた。それにクスクスと笑いながら、コウヤは続ける。

「そこで基礎知識を学んで、その先を知りたい人達には、年に一度の学園の入試に参加してもらう事になります。そこで合格出来れば、入学できます」

入試とはいっても本当に基礎的な事の確認だけ。たが、大事な条件がある。

「ただし、学園は国の機関でもあるので、教師達を雇うにも、備品を揃えるのにもお金が必要ですから、授業料が必要になります」
「ですよね~……」
「高そう……」
「建物もすごいですもんね……」

最新の魔導具も入っている最先端の建物だ。お金がかからないはずがない。

奨学金というのも考えていたが、お金を後で払わなくてはならないというのは、学びに来ている者達にとって、精神的に追い詰めることにもなる。

先を考えられる者にとっては、払えなかったらどうしようという不安は消せない。

「半年分の金額を払える人は先に払いますが、無理がある方は一日数時間、学園や町での仕事をしてもらうか、一週間分ずつを週末に冒険者として活動することで払うことになっているんです。それも先払いが原則です」

後払いにすると、この授業のお金が払えていないと気にする人がいるだろう。せっかくの授業なのだ。気兼ねなく受けて欲しい。

「それで払えるものなんですか?」
「そうですねえ。一日約大銀貨一枚です。それで昼食も付きます」
「「「え!?」」」
「最初の入学金が受講する科によっては、大銀貨五枚から十枚必要ですけどね。半年分で約大銀貨八十枚、金貨八枚くらいです」
「……中堅の冒険者なら、即金でいけますね……」
「無理……ではないかも」

それくらいならば払えるかもしれないと誰もが思ったようだ。だが、逆に不安そうな顔をするので、コウヤは更に説明する。

「一人の教師に一人の生徒ではないので、可能になる金額設定です。みんなで出し合いましょうという感じですね」
「あ、それなら納得」
「高い買い物も、みんなでお金を出し合ったら、一人分はそれほどでもないですもんね」
「そういうことです」

これで皆、納得したようだ。しかし、新たな問題もありそうだ。

「それ……みんな行きたがりません?」
「だから、人が多いんですよ」
「「「なるほど……」」」

人が増えている理由が納得できたようだ。とはいえ、このままだと学園も大変なことになりそうだ。早急に対策を講じる必要が出て来た。







**********
読んでくださりありがとうございます◎




しおりを挟む
感想 2,832

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。