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うそつき!!!!
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「なんで……」
「あ゛?」
「なんで、そんな、こと」
「……何だよ。お前が言えっつったんだろうが」
「い、言ったよぅ、言ったけど! でもアンタ、『うそはつかない』って……」
『かわいい』――なんて、そんなこと。
それは、報復する相手に言っていい言葉じゃない。いや根性や性癖のネジ曲がった変態は言うかもしれないが、少なくともこの男はそうじゃない。十数年間、偽装とはいえ夫婦として過ごしたポルカだからこそスッパリそう言い切れる。
だからこそ、そんな真っ赤な顔で、「かわいい」なんていうのは――おかしい。そんな、まるで本当に心底ポルカを「かわいい」と思っているようなのは……!
――ああでも。もしそうだったら、どんなに良かっただろうねェ。
小指の先ほどもありえないと分かっている。それでも、未だに死にきれない恋心が胸の奥で疼いて疼いてしょうがない。
ポルカはギュッと胸を抑えて、下唇を噛み締めて妖精の強面をぐっと見上げる。すると、彼の厳つい眉の間にある皺がより一層深くなってしまった。
……それ見たことか。顔が赤いのは怒っているからで、やっぱりポルカの事を心底嫌って……
「――んな顔しやがって俺にどうにかされてぇのか、あぁ!!!?」
「えっ! えぇ!? アタシ一体、どんな顔を……」
しまった。苦い想いが顔に出てしまっていた。
せめて見苦しくないよう、慌てて顔を手で隠そうとし――その手を、ゴツゴツして大きな手のひらが乱暴に引っ掴んできた!?
「かっ……わいい顔しやがって……ッ!!」
「……へ!?」
「何だテメェその目つきは。おまけにほっぺたまで美味そうな色にしやがって。夕飯前に押し倒されてぇのかッ……!!」
「ひ、ぃぇぇええぇえ!!!?」
いつの間にやら壁際に追い詰められたポルカは、壁と逞しすぎる体にすっかり挟まれてしまった。おまけに身長差がありすぎるからだろう、ポルカの鳩尾かお腹あたりに――ゴリッとした軟固い何かが押し付けられている。
――ぃいいいい何でぇ!? 何でナニが固くなってんだい!?
「じじじじジルッ!! アンタ可笑しな冗談はやめとくれよ!」
「冗談? 俺ぁテメェと違って“うそ”はつかねぇって言ったろうが」
「ひぃっん!」
物凄く近い距離で、朝焼け色の瞳がまばたき一つせずにポルカを見つめている。
彼の吐く息は荒く、耳元にふきかけられるともう、クラクラして……ピリついた感覚が背筋を伝って腰を震わせた。
分かりやすい欲情。
焼け付くほどに熱い視線。
「かわいい」なんて、まるで本気で愛でるような言葉。
ぶつん、とポルカの中で何かがキレた音がした。
「………つき」
「あ゛?」
「うそつき!!!!!」
もうやめてほしい。
ポルカを若返らせて、住む場所も食べるものも与えて、温もりを押し付けて――報復するくせに。これなら最初から乱暴に踏みにじられていた方がマシだった!
「ジルがアタシに『可愛い』なんてッ、うそに決まってる!だって、だってアンタはっ……ジルは……っ」
ポルカはうそつきだ。
妖精の帰る術を奪い、羽を隠し、だまくらかして結婚までした阿婆擦れのクソ女だ。
ぼろ雑巾のように使い倒されて、羽を毟られ捨てられても文句は言えない。言わない。その覚悟でこの生活を、妖精の報復を受け入れる心の準備をしてきたのだ。
――優しいアンタが言えないなら、アタシが言ってやる!
そうしたら、お願いだからひと思いに……この恋心を殺して欲しい。
「ジルは!! アタシのこと憎んで嫌ってるじゃないサぁ!!」
ある意味決死の覚悟と血を吐くような心持ちで叫んだのだ。
それなのに――
「…………ん?」
ジルは思い切り眉を顰め、何故だか首を傾げたのだった。
「あ゛?」
「なんで、そんな、こと」
「……何だよ。お前が言えっつったんだろうが」
「い、言ったよぅ、言ったけど! でもアンタ、『うそはつかない』って……」
『かわいい』――なんて、そんなこと。
それは、報復する相手に言っていい言葉じゃない。いや根性や性癖のネジ曲がった変態は言うかもしれないが、少なくともこの男はそうじゃない。十数年間、偽装とはいえ夫婦として過ごしたポルカだからこそスッパリそう言い切れる。
だからこそ、そんな真っ赤な顔で、「かわいい」なんていうのは――おかしい。そんな、まるで本当に心底ポルカを「かわいい」と思っているようなのは……!
――ああでも。もしそうだったら、どんなに良かっただろうねェ。
小指の先ほどもありえないと分かっている。それでも、未だに死にきれない恋心が胸の奥で疼いて疼いてしょうがない。
ポルカはギュッと胸を抑えて、下唇を噛み締めて妖精の強面をぐっと見上げる。すると、彼の厳つい眉の間にある皺がより一層深くなってしまった。
……それ見たことか。顔が赤いのは怒っているからで、やっぱりポルカの事を心底嫌って……
「――んな顔しやがって俺にどうにかされてぇのか、あぁ!!!?」
「えっ! えぇ!? アタシ一体、どんな顔を……」
しまった。苦い想いが顔に出てしまっていた。
せめて見苦しくないよう、慌てて顔を手で隠そうとし――その手を、ゴツゴツして大きな手のひらが乱暴に引っ掴んできた!?
「かっ……わいい顔しやがって……ッ!!」
「……へ!?」
「何だテメェその目つきは。おまけにほっぺたまで美味そうな色にしやがって。夕飯前に押し倒されてぇのかッ……!!」
「ひ、ぃぇぇええぇえ!!!?」
いつの間にやら壁際に追い詰められたポルカは、壁と逞しすぎる体にすっかり挟まれてしまった。おまけに身長差がありすぎるからだろう、ポルカの鳩尾かお腹あたりに――ゴリッとした軟固い何かが押し付けられている。
――ぃいいいい何でぇ!? 何でナニが固くなってんだい!?
「じじじじジルッ!! アンタ可笑しな冗談はやめとくれよ!」
「冗談? 俺ぁテメェと違って“うそ”はつかねぇって言ったろうが」
「ひぃっん!」
物凄く近い距離で、朝焼け色の瞳がまばたき一つせずにポルカを見つめている。
彼の吐く息は荒く、耳元にふきかけられるともう、クラクラして……ピリついた感覚が背筋を伝って腰を震わせた。
分かりやすい欲情。
焼け付くほどに熱い視線。
「かわいい」なんて、まるで本気で愛でるような言葉。
ぶつん、とポルカの中で何かがキレた音がした。
「………つき」
「あ゛?」
「うそつき!!!!!」
もうやめてほしい。
ポルカを若返らせて、住む場所も食べるものも与えて、温もりを押し付けて――報復するくせに。これなら最初から乱暴に踏みにじられていた方がマシだった!
「ジルがアタシに『可愛い』なんてッ、うそに決まってる!だって、だってアンタはっ……ジルは……っ」
ポルカはうそつきだ。
妖精の帰る術を奪い、羽を隠し、だまくらかして結婚までした阿婆擦れのクソ女だ。
ぼろ雑巾のように使い倒されて、羽を毟られ捨てられても文句は言えない。言わない。その覚悟でこの生活を、妖精の報復を受け入れる心の準備をしてきたのだ。
――優しいアンタが言えないなら、アタシが言ってやる!
そうしたら、お願いだからひと思いに……この恋心を殺して欲しい。
「ジルは!! アタシのこと憎んで嫌ってるじゃないサぁ!!」
ある意味決死の覚悟と血を吐くような心持ちで叫んだのだ。
それなのに――
「…………ん?」
ジルは思い切り眉を顰め、何故だか首を傾げたのだった。
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