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うそつきのこいごころ
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朝焼け色の目がめいっぱい大きく見開かれ、ジルの呼吸が大袈裟なほどに乱れる。
覆いかぶさってくっついたまま、カチンコチンに固まってしまった彼を目の当たりにして……ポルカはハッと我に返った。
――馬鹿な、本当に馬鹿なこと言っちまった!! 大体報復されている身で何言わせようとしてるんだいこの身の程知らずぅうううう!!
「あっ、あぁあ、ええと、今のは」
「……ポルカ」
「今のは、その、っあ、うそ、うそだよジル何でもないから!! アタシ何にもんぎゅっ!?」
片手でムギュッと両頬を捕まれ、ポルカは間抜け面で妖精を見上げた。
「俺ぁなァ、ポルカ」
鬼のような形相で睨みつけながら、食い締めた歯の間から唸るような声が聞こえる。次に続くだろう刃のような言葉を思い、ポルカはせめてギュッと両目を瞑った。
その耳元で、唸るような声が囁く。
「お前と違って……“うそ”はつかねぇんだ」
「――――――ッ」
ポルカの両目から涙が盛り上がって、コロコロと落ちてゆく。
ひび割れながらも耐え続けていた恋心は、ついに端っこからパキンパキンと音を立てて崩れ始めた。
「ひ、ぅっ……ひぃっうっ……!」
――ああそうか。これこそが、きっとジルの“報復”だ。
妖精を、ひっそりと恋い慕うだけだったなら。もう会えないだろう彼を、下界から想うだけなら、こんな気持ちにはならなかった。
ポルカの恋心は綺麗なまま、大事な思い出として冥土の土産になったに違いない。実際、下界で寿命を迎えた時はそうなりそうだった。
なのに、報復目的の妖精に掬われて、何故だか妖精の国に生まれ直し、恋した妖精と束の間の時を過ごして――お馬鹿で単純なポルカは、恋していた妖精にまた恋をし直してしまった。
思い出になりかけていた彼への恋心が息を吹き返して、大きく育ってきた。そうしてきっと――今度こそ、粉々に砕かれる。他でもない、恋しい妖精の手で、完膚なきまでに叩きつぶされてポイッと心ごと捨てられるのだ。
しかし、それがジルの“報復”なのだとしたら、ポルカは大の字で粛々と受け入れるべきだろう。
分かっている。頭では、分かっているのだ。
「おい暴れんな。耳かせって」
「ひ、ひぐっ、ぅ! うぅ!」
なのにポルカは、温かくて大きな腕の中で滅茶苦茶に藻掻いてしまう。ポルカの真っ赤になった耳穴に口をつけて、砕けかけた恋心にトドメを刺そうとしてくる妖精から逃れようと首を振る。
ジルの報復は全部大の字で受け取めるって決めていたのに。なんという体たらくか。本当に、自分で自分が情けない。
どんな報復も受け入れようと決めていたくせに、ポルカは自分の心にも嘘をついていたのだ。
「耳かせ」
「い、やっ……もう、もうやめとくれ……っ!」
――ああ、ホント、ジルの言うとおり。アタシは、救いがたい“うそつき”だ。
「良いからっ分かってるから!」
「ポルカ、テメェ今日は一段と」
「や、やめっ……!!」
耳に押し付けられた妖精の唇が息を吸い、逞しい喉仏が震える。
ついに訪れる恋心の最期を想って、ブルブル震えたうそつきのポルカの耳に――
「っ、……か、かわいい……な」
「…………ぇ?」
全くもって予想外な言の葉が、低く囁かれたのだった。
覆いかぶさってくっついたまま、カチンコチンに固まってしまった彼を目の当たりにして……ポルカはハッと我に返った。
――馬鹿な、本当に馬鹿なこと言っちまった!! 大体報復されている身で何言わせようとしてるんだいこの身の程知らずぅうううう!!
「あっ、あぁあ、ええと、今のは」
「……ポルカ」
「今のは、その、っあ、うそ、うそだよジル何でもないから!! アタシ何にもんぎゅっ!?」
片手でムギュッと両頬を捕まれ、ポルカは間抜け面で妖精を見上げた。
「俺ぁなァ、ポルカ」
鬼のような形相で睨みつけながら、食い締めた歯の間から唸るような声が聞こえる。次に続くだろう刃のような言葉を思い、ポルカはせめてギュッと両目を瞑った。
その耳元で、唸るような声が囁く。
「お前と違って……“うそ”はつかねぇんだ」
「――――――ッ」
ポルカの両目から涙が盛り上がって、コロコロと落ちてゆく。
ひび割れながらも耐え続けていた恋心は、ついに端っこからパキンパキンと音を立てて崩れ始めた。
「ひ、ぅっ……ひぃっうっ……!」
――ああそうか。これこそが、きっとジルの“報復”だ。
妖精を、ひっそりと恋い慕うだけだったなら。もう会えないだろう彼を、下界から想うだけなら、こんな気持ちにはならなかった。
ポルカの恋心は綺麗なまま、大事な思い出として冥土の土産になったに違いない。実際、下界で寿命を迎えた時はそうなりそうだった。
なのに、報復目的の妖精に掬われて、何故だか妖精の国に生まれ直し、恋した妖精と束の間の時を過ごして――お馬鹿で単純なポルカは、恋していた妖精にまた恋をし直してしまった。
思い出になりかけていた彼への恋心が息を吹き返して、大きく育ってきた。そうしてきっと――今度こそ、粉々に砕かれる。他でもない、恋しい妖精の手で、完膚なきまでに叩きつぶされてポイッと心ごと捨てられるのだ。
しかし、それがジルの“報復”なのだとしたら、ポルカは大の字で粛々と受け入れるべきだろう。
分かっている。頭では、分かっているのだ。
「おい暴れんな。耳かせって」
「ひ、ひぐっ、ぅ! うぅ!」
なのにポルカは、温かくて大きな腕の中で滅茶苦茶に藻掻いてしまう。ポルカの真っ赤になった耳穴に口をつけて、砕けかけた恋心にトドメを刺そうとしてくる妖精から逃れようと首を振る。
ジルの報復は全部大の字で受け取めるって決めていたのに。なんという体たらくか。本当に、自分で自分が情けない。
どんな報復も受け入れようと決めていたくせに、ポルカは自分の心にも嘘をついていたのだ。
「耳かせ」
「い、やっ……もう、もうやめとくれ……っ!」
――ああ、ホント、ジルの言うとおり。アタシは、救いがたい“うそつき”だ。
「良いからっ分かってるから!」
「ポルカ、テメェ今日は一段と」
「や、やめっ……!!」
耳に押し付けられた妖精の唇が息を吸い、逞しい喉仏が震える。
ついに訪れる恋心の最期を想って、ブルブル震えたうそつきのポルカの耳に――
「っ、……か、かわいい……な」
「…………ぇ?」
全くもって予想外な言の葉が、低く囁かれたのだった。
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