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何でそうなる?

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 ポルカの顔色は赤から青へ、そして真っ白にサァーーっと変わっていった。耳の奥では心臓が大きな音を立て、指先は小刻みに震え、両足が戦慄く。


“ジルは、ポルカを憎んで嫌っている”


 もうずぅっと昔から、彼の羽を返した時から知っていた事だ。知っていて、納得して、彼の『報復』を受け入れたのに……口に出した瞬間、ポルカの平坦な胸の奥が滅多刺しされたみたいに痛んだ。

 ……確かにほんの少しだけ、勘違いしかけたこともある。妖精の国で、彼と過ごす穏やかな日々が、思いの外あたたかかったから。

 大体『報復』と称して毎晩閨の相手をさせられるのだって、ポルカにとってはご褒美なのである。オマケに根が優しく真面目だからか、多少強引でも乱暴なことはしない。
 むしろポルカの気持ちよさを優先するようなやり方で何度も何度も攻めてきやがるのだ。全く、キッチリと自分を戒めているのに、行為の最中何度勘違いしそうになったか知れない。

「…………ッ」

 でも、これで……本当にお終いだ。
 ポルカは平坦な胸を抑えつつグッと下唇を噛んで俯いた。もう妖精ジルの顔を見るのが恐ろしいし、気を抜くとまたみっともなく泣いてしまいそうになる。

 ――でも、せめて終わりはスッパリと。潔く大の字で受け入れなくっちゃあ……アタシが出来ることなんて、それくらいなんだから。

 もう何度目か分からない腹を括って、ポルカはぐっと顔を上げた。彼女の目の前には、顔を苦々しく歪ませた恋しい妖精がいる――筈、だったのだけれど。

「…………ん?」
「へ?」

 ポルカへの憎しみと嫌悪に燃えているはずの張本人は、何故だか小首を傾げていた。
 眉間に皺も寄っているし、普段以上の仏頂面ではあるのだ。けれども何故か、朝焼け色の瞳にはポルカが思っていたような感情はとんと見当たらない。

「何で、自分の女房を憎んで嫌わなきゃならねぇんだ?」
「……へ?」

 いや、いやいやそんな。
 そんなデカい図体で可愛らしく小首を傾げられて尋ねられても、困るのはポルカの方だ。

「あ、アンタが最初に言ったの忘れたのかい?死んじまったアタシを妖精の国こっちに呼んだのは……『報復』だって」
「まぁ、そうだな」
「そんなら、アンタはやっぱりアタシを憎んで嫌ってるんじゃないか!」
「何でそうなる?」
「はぁ!?」

 “何で”も何も、報復とはそういう感情ですることじゃないのか。彼がポルカを憎んで嫌って仕返ししたいと思っているからこそ、『報復』という言葉を使うんじゃないのか。
 首を撚る妖精のよく分からない様子に、ポルカの方が訳が分からなくなってきた。

「だからっ! ジルはアタシっていう憎き阿婆擦れに『報復』するために………」
「おい待て誰が阿婆擦れだって?」
「アタシだよ!!!!!」
「あ゛ぁ!?」

 おかしい。何かがおかしい。何がというのは分からないが、何処かが決定的に食い違っている気がする。大体阿婆擦れポルカに報復している張本人が、何故本当の事に対してそんな不機嫌そうに凄んでくるのか!?
 ポルカは、自分のあまり良くない頭を抱えて唸った。しかしながら、そうこうしている間にも、ジルの謎の猛攻は続いている。

「テメェの何処か阿婆擦れだ!? 下界じゃ俺の子を三人も産んでおまけに女手一つでしっかり育て上げたし、何なら俺が居なくなった後だって浮気の気配すらなかったじゃねぇか! 何処が阿婆擦れだ?言ってみろや」
「あっ、え、ぁ」
「おまけに妖精の国こっちでもやるなっつってんのに毎日家事して働きやがって。掃除はマメだし近所付き合いも出来るし作る飯は美味えし何だテメェ俺の胃袋をこれ以上掴んでどうするつもりだあ゛ぁ!?」
「ちょっ、え、エぇっ」

 おかしい。こんなのは本当におかしい。
 こんな、顔はいつも通りの苦々しい強面だというのに――中身はただの“褒め殺し”じゃないか。ポルカが川魚なら確実に吃驚して引っくり返って気絶するくらいの温度差である。

 泣けばいいのか
 怒ればいいのか
 照れればいいのか

 この場でするにはどれも違う気がして、なのに正解が分からない。
 結局ポルカは中途半端な顔のまんま、妖精の腕の中に囲われたまま石のように固まり――そうになったものの、生来の図太さで何とか半固くらいで踏ん張っていた。
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