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〈閑話〉チョコとポルカ①

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 ――それは、ある昼下がりのこと。


「あれ?こりゃあ………」


 テーブルの上、いつもジルベルトが座る席に、ポルカは見慣れない物を見つけた。四角く細長い箱の中には、小さな丸い物がコロコロとお行儀よく並んでいる。甘い香りが仄かに漂う、茶色いそれは……

「へぇ、チョコじゃないか!妖精の国にもあるんだねぇ」

 箱に近寄ってまじまじと見てみる。
 チョコといえば、ポルカの大好物だった。と、言っても田舎者には高級品で、食べたことも片手で数える程しかない。

 ――むかーしむかし、長男のお嫁さんが商会の伝を使って取り寄せたものをちょこっと分けて貰ったりしたっけ。美味しいんだよねぇ、甘くて、でもほろ苦くて……

 遠い昔に食べたショコの味が、甘い匂いと共に口の中に蘇る。ごくり、と唾を飲み込むと、ポルカは辺りを見回した。

「……………………」

 コロコロと、丸いチョコをじぃっと見てみる。ほんの少し表面が凸凹しているが、粉がまぶしてあるのか滑らかだ。こんなに粉をまぶしてあったら、摘み上げた時テーブルに粉が落ちてしまうだろう。
 それに、チョコは四つしかない。一つ減ったらすぐ分かってしまうに違いない。

「……って、ダメダメ! ダメだよポルカッ! しっかりしな!!」

 ポルカは頭を何度も振り、甘い誘惑を打ち消した。只でさえ、羽の件で報復されている真っ最中のポルカである。ここで見るからに貴重で高価そうなショコをつまみ食いなんぞして、さらにジルに嫌われてしまったら……!
 ジルの強面が嫌そうに歪む光景を思い浮かべて、ポルカはぶるりと身を震わせた。

「よし、そうと決まればこれはちゃんと蓋しておこう。目にも鼻にも毒――」
「何が毒だって?」
「いィッ!!?」

 ポルカが振り向くと、いつの間にか大柄な妖精が彼女の背後でヌゥっと立っていた。こんなに大きな体をしているくせに足音一つ立てないとは、さすがジル。やっぱり見かけによらず侮れない男っ――ではなくて!

「じ、ジル! ちちち違うんだよコレは別につまみ食いしようとして何とか踏みとどまったとかそういうんじゃなくて」
「つまみ食いしようとしたんだな」
「んン゛ンンン~~~~~!!」

 墓穴どころか自分から棺桶に頭を突っ込んでそのまま自力で埋葬までやってしまった!震えるポルカが恐る恐る振り向くと、そこには―――

「ぅひぃっ!!」

 そこには、一匹の鬼人オーガではなく、恐ろしく顔を顰めたジルがいた。
 結果的には踏みとどまったとは言え、チョコをつまみ食いしようとしたポルカに怒っているのだ!!

「ご、ごめんよジルぅ! 食べてない! 食べてないからサ!! ホラ!!」

 ポルカはとっさにチョコの箱をジルの目の前に掲げ、『自分は食べていない』と主張する。箱の中には、丸いショコが四つ、最初に見たときのままお行儀よく並んでいた。

「この通り! 一個も減ってないし、何なら一口も噛ってな―――――――ん、むッ!?」

 次の瞬間。ポルカの口の中に、何か丸い物が無理やり押し込まれた。……それはポルカが思っていたよりも柔らかく、舌の上に広がる甘味の奥で苦味が香る。
 そう、昔々、ほんの数回だけ味わった高価なお菓子。けれど記憶にあるそれよりもずっと甘く、香り高く、ほろ苦い……コレは、まさか。

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