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〈閑話〉チョコとポルカ②

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「どうだ? 味は」

 何が起きたのか分からず目を白黒させるポルカの耳に、恋しい男の不機嫌そうな声が響く。


 ――美味しいか、不味いか聞かれれば。そりゃあもちろん美味しい。


 からくり人形のように何度も頷くポルカを見下ろし、ジルは眉間に深い皺を寄せてさらに険しい表情になった。
 これまた何か、マズいことを言っただろうか……さらなる不安に襲われたポルカの口に、再び丸い物が押し込まれる。

「――ッむゴ!!?」
「物食いながら喋んじゃねぇよ」
「むぐっむ……ぅ……」

 混乱するポルカをよそに、ジルはずいずいと二つ目のショコを押し込む。中身が違うのか、今度は少し酸っぱい。けれどその酸味がチョコの濃厚な甘みと混ざり合い、後味が何とも爽やかだ。

「コレは美味ぇか?」
「ん……うん。美味しい、すっごく美味しいヨ、ジル!」
「そうか」
「でもコレ、高価なん……っむ」

 三つ目は、ミルクが多めに入っているのだろう。まろやかな甘みが、酸味に慣れたポルカの舌を優しく滑ってゆく。
 いつの間にかうっとり蕩けた表情でチョコを頬張り始めたポルカを、ジルは凄まじい形相で見つめ続けていた。

「はぁ……っ」
「どうだ、美味ぇか?」
「ん、美味しいよぅ」

 大好物を前に蕩けきったポルカの視線は、ジルが摘んだ最後のショコに熱く熱く注がれている。

「はは、ダラしねぇ顔しやがって……おら、口開けろや」
「……はっ!? だだだダメだよソレ最後の一個だろ?アタシはお腹いっぱいだから、最後のはジルが食べ」
「――五月蝿え、黙れ」
「あむっ」

 我に返ったポルカに顔を顰めたジルは、最後の一つを無理やり口にねじ込んだ。そして、戦慄くポルカの唇を己の唇で強引に押さえて蓋をする。おまけに隙間から差し込まれた熱い舌に転がされ、柔らかなショコはあっという間に蕩けていってしまった。

 ――喉が、焼けそうだ。

 この甘みは、ショコの味だろうか。それとも――


「満足したか」


 朝焼け色の瞳に、だらしなく蕩けた嘘つき女ポルカが映っている。相変わらず顔は険しいままなのに、恋しい男の瞳が何故か優しく緩んでいる気がするなんて。

 ――何とまぁ、都合のいい脳みそだこと。厚かましい自分が嫌になる。

「も、もぅ充分だヨ! ジル………ぁ」
「――この、嘘つき女が」
「んっんぅ、ぅ……」

 蕩けたチョコを追うように甘ったるい舌が絡まり、大きな腕で体を拘束され。ぴったりと密着し擦れた服から、ショコの香りに混じって恋しい男の匂いがして。


 ポルカはどうにも泣きたくなったのだった。






 因みにそれから。
 『そんなに言うならショコの元をとる』と宣言され寝室で“ジル式の報復”を朝までみっちり受けることになったり。
 その後、顰めっ面の妖精が一日足腰が立たなくなったポルカの世話を焼いたりするのだが……

 ――それはまた、別のお話。
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