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第一幕 板東編
見えなかった真実③
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「小次郎殿が大人しく土地を手放した事を良いことに、国香殿は小次郎殿に残された残りの土地までもを譲り渡すよう彼に求めたのです。今度は武力をもって力ずくで」
「……そ……んな……酷すぎる……」
「この時ばかりは小次郎殿も黙っているわけには行きませんでした。黙って見過ごしては、民達の命を奪われかねない。彼が何より守りたかったものは、多くの民の生活と命だったのだから。だからこそ小次郎殿は心を鬼にして立ち上がったのです。武力には武力をもって、国香殿の侵略に対抗しました」
「…………」
「結果として、民を守る為に抜いた刃が、伯父を殺めてしてしまった。伯父を殺めた事で身内の間には憎しみの連鎖を生んでしまった。でもそれは……仕方のない事だったのです。小次郎殿はただ、自身の大切なものを守ろうとしただけ。仕方のない事だったのです」
仕方のない事だと繰り返しつつ、これが全ての真実だと景行は目を伏せた。
景行の語った話に、千紗の目からは涙が溢れ落ちた。
今まで断片的に聞かされていた話だけでは、到底想像も出来なかった小次郎の苦労や葛藤、その事実を知った今、小次郎の気持ちを思うと涙が止まらなかった。
「どうして……どうして本当の事を教えてくれなかったのだ小次郎。もっと早く知っていたなら、責めるような事を言わずにすんだのに……」
「それはきっと、周りがどれだけ仕方ない事だとせ納得していても、小次郎殿自身は、この結果を許せずにいるからでしょうね。自らの手で伯父を殺めてしまったと言う事実を、全て自分の咎だと受け止め、向き合っていくつもりなのでしょう。あの方は、そう言う方です」
「……あぁ、そうだな。小次郎はそう言う奴じゃ。小次郎は何も変わってなどいなかった。秋成の言った通り何も……。それなのにどうして……どうして私は一瞬でも小次郎を疑ってしまったのか。小次郎を信じてやれなかったのか……」
景行の言葉に、千紗は離れた位置にいる小次郎を真っ直ぐに見つめながら、震える声でそう呟いた。
秋成が心配そうに千紗の名を呼ぶ。
「……千紗……姫様?」
「何故私は……あいつの苦しみに気付いてやれなかったのだ。どうして……」
「姫様……」
だが、千紗にはもう秋成の声は届かない。
悔しそうに唇を噛みしめながら、遠くにいる小次郎を真っ直ぐその瞳に捉えていた。
今後について話合いを終えた小次郎が、不意に立ち上がり千紗達のいる場所からは見えにくい大広間の奥へと姿を消して行く。
きっとそのままこの場を離れるのだろう。
視界から消えた小次郎の姿に、千紗は慌てて彼を追うべく走りだした。
今ここで、あの背中を見失ったら、二度と手が届かなくなるかもしれない。
そんな錯覚に襲われて、涙を振り払い見えなくなって行く小次郎の背中を必死に追いかけた。
「姫様っ……」
突然自分の元を離れ行く千紗の背に手を伸ばし、千紗を呼び止める秋成。
だが、秋成の声に千紗が振り返る事はなかった。
群衆に紛れ行く千紗の背中を、秋成はただただ見送る事しか出来なかった。
「追わなくて宜しいのですか?」
景行の静かな声。
「……えぇ。俺は単なる護衛。今の千紗に……俺は必要ない」
景行からの問いに、寂しそうにそう呟いた秋成は、群衆の中離れ行く千紗の背中を、いつまでもいつまでも見守り続けていた。
「……そ……んな……酷すぎる……」
「この時ばかりは小次郎殿も黙っているわけには行きませんでした。黙って見過ごしては、民達の命を奪われかねない。彼が何より守りたかったものは、多くの民の生活と命だったのだから。だからこそ小次郎殿は心を鬼にして立ち上がったのです。武力には武力をもって、国香殿の侵略に対抗しました」
「…………」
「結果として、民を守る為に抜いた刃が、伯父を殺めてしてしまった。伯父を殺めた事で身内の間には憎しみの連鎖を生んでしまった。でもそれは……仕方のない事だったのです。小次郎殿はただ、自身の大切なものを守ろうとしただけ。仕方のない事だったのです」
仕方のない事だと繰り返しつつ、これが全ての真実だと景行は目を伏せた。
景行の語った話に、千紗の目からは涙が溢れ落ちた。
今まで断片的に聞かされていた話だけでは、到底想像も出来なかった小次郎の苦労や葛藤、その事実を知った今、小次郎の気持ちを思うと涙が止まらなかった。
「どうして……どうして本当の事を教えてくれなかったのだ小次郎。もっと早く知っていたなら、責めるような事を言わずにすんだのに……」
「それはきっと、周りがどれだけ仕方ない事だとせ納得していても、小次郎殿自身は、この結果を許せずにいるからでしょうね。自らの手で伯父を殺めてしまったと言う事実を、全て自分の咎だと受け止め、向き合っていくつもりなのでしょう。あの方は、そう言う方です」
「……あぁ、そうだな。小次郎はそう言う奴じゃ。小次郎は何も変わってなどいなかった。秋成の言った通り何も……。それなのにどうして……どうして私は一瞬でも小次郎を疑ってしまったのか。小次郎を信じてやれなかったのか……」
景行の言葉に、千紗は離れた位置にいる小次郎を真っ直ぐに見つめながら、震える声でそう呟いた。
秋成が心配そうに千紗の名を呼ぶ。
「……千紗……姫様?」
「何故私は……あいつの苦しみに気付いてやれなかったのだ。どうして……」
「姫様……」
だが、千紗にはもう秋成の声は届かない。
悔しそうに唇を噛みしめながら、遠くにいる小次郎を真っ直ぐその瞳に捉えていた。
今後について話合いを終えた小次郎が、不意に立ち上がり千紗達のいる場所からは見えにくい大広間の奥へと姿を消して行く。
きっとそのままこの場を離れるのだろう。
視界から消えた小次郎の姿に、千紗は慌てて彼を追うべく走りだした。
今ここで、あの背中を見失ったら、二度と手が届かなくなるかもしれない。
そんな錯覚に襲われて、涙を振り払い見えなくなって行く小次郎の背中を必死に追いかけた。
「姫様っ……」
突然自分の元を離れ行く千紗の背に手を伸ばし、千紗を呼び止める秋成。
だが、秋成の声に千紗が振り返る事はなかった。
群衆に紛れ行く千紗の背中を、秋成はただただ見送る事しか出来なかった。
「追わなくて宜しいのですか?」
景行の静かな声。
「……えぇ。俺は単なる護衛。今の千紗に……俺は必要ない」
景行からの問いに、寂しそうにそう呟いた秋成は、群衆の中離れ行く千紗の背中を、いつまでもいつまでも見守り続けていた。
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