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第一幕 板東編
苦悩と対話
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「小次郎っ!」
小次郎の後を追いかけ来た千紗は、彼の部屋の前でやっと追いついた。
自室へ入って行こうとする所を大きな声で呼び止める。
振り向き様、もの凄い勢いで抱きつかれた小次郎は、その勢いのまま尻餅をついた。
「千紗?! 急にどうしたんだ?」
甘えた子供のように抱きついて離れない千紗の姿に、小次郎は困ったようにぽりぽりと頬をかいた。
「何故、何も教えてくれなかった?」
「? 何の話だ?」
「景行殿から聞いた。お主が伯父を殺さなければならなかった経緯を」
「……その話は、お前には関係ない」
「そうやって私を突き放そうとするな」
小次郎の胸に押しあてられていた千紗の顔が不意に上げられたかと思うと、真っ直ぐ小次郎を見つめる。
痛い程の千紗の視線に、小次郎は思わず顔を背けた。
「っ……」
「辛かった。小次郎が小次郎の伯父上を殺したと聞いて。京にいた頃の、私のよく知る小次郎がいなくなってしまったのかと思って。だが違った。お主は何も変わってなどいなかった。ずっと一人で苦しんでいたのだな」
「……」
「伯父に裏切られて、悲しかったのだな。血の繋がる伯父に刃を向けて……辛かったのだな。己の意志と反して争いを止められぬ事が悔しくて仕方ないのだろ。それでも今のお主の立場から、その辛い気持ちを人に見せるわけにはいかないと、わざと強がってみせていたのであろう」
「…………」
「そんな事も知らないで私は……小次郎から文が来ないと拗ねて、離れている間に小次郎は変わってしまったのだと疑って、伯父を殺したと責めた。私は……目に写る物事しか見ていなかった」
「………」
「すまぬ。もう二度とお主を一人で苦しめたりしない。私も何かお前の役に立ちたい。お前の痛みを知りたい」
「……千……紗……」
千紗の言葉に、小次郎の瞳が小さく揺れる。
「私にお前の苦しみをわけてくれ」
そう言って再び小次郎を優しく抱き締めた千紗に、小次郎は驚いた顔をしながらも、ほんの一瞬彼女の体を強く抱き締め返した。
だが、その力はすぐに緩められて――
千紗の体を強引に引き剥がす。
「……小次郎?」
「俺は……伯父を殺した。それが事実で、それが全てだ。俺はもうお前のよく知る俺じゃない。お前の望むような人間にはもうなれない。だからもう俺に構うな」
更に言葉でも彼女を突き放す小次郎。
「い、いやじゃ!私は小次郎の……小次郎の力になりた――」
「必要ない!」
千紗の言葉を最後まで待たず、突然怒鳴り声を上げた小次郎に、千紗の肩がビクンと跳ねた。
「…………こじ……ろう……」
「お前は、お前の居場所に帰るんだ。京に、忠平様の元に帰るんだ」
そう言って、強引に千紗を立たせると、部屋から出て行くよう彼女の背中を押しやった。
「嫌じゃ……千紗は……小次郎の側に……」
「千紗っ!!」
「……」
小次郎の怒りに怯えた瞳を向けながらも、唇を噛み締め必死に小次郎を睨み付ける千紗。
これしか術を持たない彼女なりの、必死の抵抗。
「帰るんだ! 頼むから……帰ってくれ………」
だが、そんな抵抗も虚しく、千紗の体を強引に外へと押し出した小次郎は、千紗が部屋へと入ってこれぬよう、ピシャリと乱暴に板扉を閉めた。
そして閉めた後、くずおれるようにその場に座り込みながら、板扉が開かれるを必死に防いだ。
「小次郎、開けてくれ!開けてくれ小次郎!!小次郎っ!!」
ドンドンと、何度となく目の前の扉を叩きなから、小次郎を呼び続ける千紗。
「何で……何で来たんだ千紗。お前にだけはこんな姿、見られたくなかったのに……」
いつまでも自分の名を呼び続ける千紗の声を聞きながら、小次郎は膝を抱え、項垂れていた。
小次郎の後を追いかけ来た千紗は、彼の部屋の前でやっと追いついた。
自室へ入って行こうとする所を大きな声で呼び止める。
振り向き様、もの凄い勢いで抱きつかれた小次郎は、その勢いのまま尻餅をついた。
「千紗?! 急にどうしたんだ?」
甘えた子供のように抱きついて離れない千紗の姿に、小次郎は困ったようにぽりぽりと頬をかいた。
「何故、何も教えてくれなかった?」
「? 何の話だ?」
「景行殿から聞いた。お主が伯父を殺さなければならなかった経緯を」
「……その話は、お前には関係ない」
「そうやって私を突き放そうとするな」
小次郎の胸に押しあてられていた千紗の顔が不意に上げられたかと思うと、真っ直ぐ小次郎を見つめる。
痛い程の千紗の視線に、小次郎は思わず顔を背けた。
「っ……」
「辛かった。小次郎が小次郎の伯父上を殺したと聞いて。京にいた頃の、私のよく知る小次郎がいなくなってしまったのかと思って。だが違った。お主は何も変わってなどいなかった。ずっと一人で苦しんでいたのだな」
「……」
「伯父に裏切られて、悲しかったのだな。血の繋がる伯父に刃を向けて……辛かったのだな。己の意志と反して争いを止められぬ事が悔しくて仕方ないのだろ。それでも今のお主の立場から、その辛い気持ちを人に見せるわけにはいかないと、わざと強がってみせていたのであろう」
「…………」
「そんな事も知らないで私は……小次郎から文が来ないと拗ねて、離れている間に小次郎は変わってしまったのだと疑って、伯父を殺したと責めた。私は……目に写る物事しか見ていなかった」
「………」
「すまぬ。もう二度とお主を一人で苦しめたりしない。私も何かお前の役に立ちたい。お前の痛みを知りたい」
「……千……紗……」
千紗の言葉に、小次郎の瞳が小さく揺れる。
「私にお前の苦しみをわけてくれ」
そう言って再び小次郎を優しく抱き締めた千紗に、小次郎は驚いた顔をしながらも、ほんの一瞬彼女の体を強く抱き締め返した。
だが、その力はすぐに緩められて――
千紗の体を強引に引き剥がす。
「……小次郎?」
「俺は……伯父を殺した。それが事実で、それが全てだ。俺はもうお前のよく知る俺じゃない。お前の望むような人間にはもうなれない。だからもう俺に構うな」
更に言葉でも彼女を突き放す小次郎。
「い、いやじゃ!私は小次郎の……小次郎の力になりた――」
「必要ない!」
千紗の言葉を最後まで待たず、突然怒鳴り声を上げた小次郎に、千紗の肩がビクンと跳ねた。
「…………こじ……ろう……」
「お前は、お前の居場所に帰るんだ。京に、忠平様の元に帰るんだ」
そう言って、強引に千紗を立たせると、部屋から出て行くよう彼女の背中を押しやった。
「嫌じゃ……千紗は……小次郎の側に……」
「千紗っ!!」
「……」
小次郎の怒りに怯えた瞳を向けながらも、唇を噛み締め必死に小次郎を睨み付ける千紗。
これしか術を持たない彼女なりの、必死の抵抗。
「帰るんだ! 頼むから……帰ってくれ………」
だが、そんな抵抗も虚しく、千紗の体を強引に外へと押し出した小次郎は、千紗が部屋へと入ってこれぬよう、ピシャリと乱暴に板扉を閉めた。
そして閉めた後、くずおれるようにその場に座り込みながら、板扉が開かれるを必死に防いだ。
「小次郎、開けてくれ!開けてくれ小次郎!!小次郎っ!!」
ドンドンと、何度となく目の前の扉を叩きなから、小次郎を呼び続ける千紗。
「何で……何で来たんだ千紗。お前にだけはこんな姿、見られたくなかったのに……」
いつまでも自分の名を呼び続ける千紗の声を聞きながら、小次郎は膝を抱え、項垂れていた。
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