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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会

第29話 思案

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「ふー」

 俺は自分の部屋のベットに横たわり、深いため息をついた。
 あの後、田島と樫田は電車で帰り、池本と俺は歩いて家まで帰った。
 つっても池本は駅からすぐのところに家があるらしく、特別何か話したりはしなかった。

 あー、頭がパンクしそうだ。

 新入部員のこと、樫田のこと、次の部長のこと。先輩たちのこと。
 色々なことが頭の中で絡み合う。
 何から考えたらいいだろうか。

 でも、まずは新入部員か。
 予定通りというかなんていうか三人だったな。
 轟先輩からしてみればそんなもんだって言いそうだが、増倉からしたら少ないのだろうな。
 ただ質で考えれば良い方ではないだろうか。田島は経験者だし、池本と金子も特段変なやつではないし。(演劇部にはたまに『俺、作家志望なんで台本書きますよ!』とか言って結局書かなかったりクソみたいな台本書いてきたりするやつがいる)。
 性格もみんな良さそうだし、現状悪いところはない。後は、春大会でちゃんと演技できるかだな。
 まぁ、そう育てるのが俺たち二年生の役目なんだけど……。

 いやぁ、今日みたいに先輩たちにいきなり任せられたら行動できる気がしない。
 その点、樫田はすごいな。すぐにストレッチやろうって判断できたし、その後もみんなに意見聞きながら進行して、椎名と増倉が言い争うになる前にエチュードにしようって言い出して。

 だけど、そこが椎名にとっては大きな壁だろうな。部長になるということは樫田を超えなくてはならない。
 ……樫田自身は部長になる気はないと言っていたが。
 ただ部長は先輩たちの推薦で決まる。樫田にならないという保障はないのだ。
 けどこればっかは椎名に頑張ってもらわないとな。俺が行動しても意味はないのだから。

「…………」

 新入部員が入ってきた。ということは先輩たちが引退するということだ。
 考え深いというかなんというか。
 寂しいとか悲しいとか色々あるけど、なんていうか……そう、実感がないのだ。
 今ある日常の変化に俺はついていけてない。
 永遠とは言わないが、こんな日常が当たり前だと無意識で思っているのだろう。
 環境は刻一刻と変化する。普遍的なものなんてないのだ。
 人は成長し、物は劣化する。そんな簡単なことに俺は悩まされている。

 これは俺が今を愛し、変化を拒んでいるからだろうか。
 それとも、今が終わり変化するのが怖いからだろうか。

 どちらにしても、変わっているのだ。
 あと数ヶ月もなく先輩たちは引退し、俺たちが部のかじ取りをしなければならない。
 そしてその後は、大会を経て俺たちが引退するのだ。
 言葉にするとあっという間だな。
 けどそれが青春なのだろう。

 だからその儚く短い一瞬の思い出のためか、椎名な全国という目標を掲げ、俺はそれに賛同した。
 俺もきっと、この青春に抗いたいのだ。何か傷跡……いや、爪痕を残したいのだ。
 それが最高になるか最低になるかは置いておいて、何かをしたいのだ。

 樫田が言っていた。人は上手くなろうとする生き物だと。
 おそらくこの感情がそうなのかもしれない。
 大きな目標を掲げ、それに向かって努力をする。
 そんなことが人間を人間らしくするのかもしれない。

 ただそのためにはみんなの同意、協力か必要だ。
 演劇は一人でやるものではない。
 俺と椎名以外のみんなとも共有意識が大切だ。
 そこら辺、椎名は考えているのだろうか?
 部長になればみんなが自然に言うこと聞くなんてことはない。

 そう考えると、俺はまだ全国を目指せるようなスタートラインに立っていないのかもしれない。
 これからなのだ。みんなを説得させるのも、本気で頑張るのも、全国目指し一致団結するのも。

 ……ただ、本当に俺たちは一致団結できるのだろうか。
 まず、椎名と増倉は演劇に対する価値観が違い過ぎる。演劇に対して増倉は賞や全国といった目標の有無は関係なく、ただ楽しむことを前提としている。
 別にこれは間違っていないのだ。演劇は突き詰めれば娯楽の一つだ。だから楽しむことを忘れてはいけない。
 これに対して椎名は賞や全国といった目標を大切にしている。これも間違ってはいない。人は目標があるから努力し頑張れる。
 どっちも大切なんだ。楽しみながら全国を目指せればいいけど、全国を目指そうとすれば厳しいこともあるだろうし、楽しむことを優先すると練習に身が入らないこともある。折り合いが難しいのだ。

 次に、大槻と山路は部活に対する姿勢が甘い。端的に言えばサボるのだ。最近でこそ、ちゃんと来ているが春休みの時みたいにズル休みする可能性はある。
 人数がそろわなきゃスポーツが成立しないように、演劇もまた台本にあった人数が必要となる。
 台本が決まってから途中でサボられたりすると、練習ができない事態が発生する。それは絶対に避けなければならない。

 後、夏村と樫田か。正直この二人は考えが読めない。夏村は演劇できればいいという考えの持ち主なのはわかるが、だからといって何でもいいわけではないみたいだ。部活動紹介のとき椎名の劇をえらんだみたいに。
 樫田はどこまでも見透かした事言う割には、自分のことはあまり言わないんだよなぁ。主張をするよりも仲裁して折衷案を出すことが多い。まぁ、それが助かっているんだけど。

 椎名と対立をよくする増倉。
 部活をサボりがち大槻と山路。
 何を考えてるか不明な樫田と夏村。
 はてさて、一致団結できるのか。
 それに加えて一年生たちか。

 田島が全国大会目指さないかと聞いたのは、そうあってほしいからなのか、それとも目指すのが嫌だからなのか。それを見極める必要がある。
 それによっては味方に引き込めるかもしれない。
 池本は全国目指すことに懐疑的だったが、それは中学時代帰宅部だったため部活というものを知らないからだと考えられる。春大会で演技を経験すれば変わるかもしれない。
 金子はまだよくわからない。まぁ、出会ったばっかだしそんなもんか。
   一年生関しては分からないこと読めないことが多いな。

 まぁ、これから先のことなんて、何一つ読めないんだが。
 それでも明日は来るのだ。
 あ、明日で思い出しけど、そういえば新入生歓迎会はいつやるんだろ?
 去年と同じならゴールデンウイーク中にやんのかな? 数日後だぞ。
 色々あるが、一年生たちとは親睦を深めないとな。
 これから良い関係を築くためにも、一緒に演劇していくためにも。
 ああ、先輩たちもこんな気持ちだったのだろうか。
 今はその先輩たちが俺らなんだが。
 でも、あんまり先輩を意識して変に絡んでも、うざがられるかもしれない。
 あくまで自然に、フレンドリーな先輩でいたいものだ。
 ……こんなことを考えている時点で、俺の中で何かが変化しているのだろうか。
 今のままではだめだという判断が、二年生になったからという自覚が、俺を環境の変化に適応させているのだろうか。

 確実に変化していく日常を頭では理解しながらも実感しきれずにいる。
 日は過ぎ、時は経つ。
 青春は静かに終わりへと向かっていく。
 そんなことを考えながら、俺は眠りについたのだった。
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