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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会

第30話 偶然の出会い

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 五月三日、ゴールデンウィーク!
 いやぁ、連休っていいね! テンション上がるぅ!
 それに今日は新入生歓迎会! こういうのってあんまり経験ないから楽しみで仕方ない!

 十一時半に駅前集合なのだが、気持ちの高ぶった俺はなんと十時には駅にいた。
 我ながらテンション上がり過ぎなのだが、昨日早く寝たせいか朝いつもよりも早く目を覚ましてしまったのである。
 家にいても暇なので、こうして来てしまったのである。
 来てしまったのだが、することもないので困っていた。
 まぁ、こういう時は本屋に行くか。
 新刊の漫画でも眺めて時間潰すかぁ。

「あ」

「ん?」

なんとなくそれが俺に対しての声だとすぐに分かった。
声の聞こえた方を向くと、なんと夏村が立っていた。
ストレートデニムに黒のタンクトップ(これをオフショルダーということを分かっていなかった)。シンプルながらも涼しげな服装をしていた。

「おお、夏村か。こんなところで会うなんて奇遇だ、な……?」

「なに」

「あ、いや、なんでもない」

 いつもと夏村の視線の高さが違うことに気づいたが、よくみるとショートブーツを履いていた。
 夏村って、女子の中じゃ背が高いほうだから、服装と相まって全体的に大人びてカッコ良かった。
 やっぱ身長高いと映えるね。
 そんなことを考えながら話を進める。

「集合まで一時間以上あるけど、どうしてここに?」

「ちょっと探し物があって」

 ふーん、探し物か。本屋に来ているってことは本なんだろうな。

「見つかったか?」

「いいや、なかった」

 夏村は首を横に振る。

「……」

「……」

 こんなところで立ち話をしてもなぁ。
 そう思っていると、ふと視線の端に本屋と併設しているカフェを見つけた。

「まぁ、なんだ、ちょっとお茶でもして話すか?」

 冗談半分でそんなことを言った。

「分かった」

 夏村は、カフェの方へ歩いていく。
 まさか賛同してくれるとは。

「どうしたの?」

「え、あ、そうだな。行くか」

 予想外のことに棒立ちする俺を不思議に思ったのか夏村が聞いてきたので、俺はカフェへ向かった。
 オレはカフェラテを、夏村は抹茶ラテにホイップクリームを追加したものを買い、席に着いた。
 さて、何を話したものか。
 夏村と二人で話す機会なんてあまりなかった。こうやって向かい合って話すことなんてなかった。
 部活の中でしか話したことなかったもんなぁ。やっぱ部活の話か。

「新入部員の三人どんな感じ?」

 そんなことを思っていると向こうから話しかけてきた。
 じっと俺を見る夏村。表情から感情はうかがえない。
 相変わらず、あまり表情を変えないやつだ。

「どんな感じって……そうだな。第一印象は結構いいぞ。真面目そうだし元気あるし、けど演技できるかどうかは別の――」

「そうじゃない」

 夏村は俺の言葉を遮った。
 ? じゃあどういうことだ? と目で訴える。

「部活帰りに一年二人と話したんでしょ」

 !? どこでそれを?
 別にやましいことなんてないのに、俺は背中に冷や汗をかいていた。
 だが、考えればわかることだ。

「樫田から聞いたのか?」

「ええ、そう」

 俺が聞くと夏村は隠すことなく素直に答えた。
 単純な疑問が浮かぶ。

「お前らって仲良かったっけ?」

「…………別に、ちょっと聞きたいことあって連絡したら余談で教えてくれた」

「へー」

 聞きたいことって何だろうって思ったが、夏村のことだ、新しくもらった台本についてとかだろう。

「で、話戻るけど、田島と池本と話したんでしょ、どうだった?」

 どうだったって聞かれてもなぁ。
 俺が答えに迷っていると、夏村は質問を変えた。

「なら、杉野にとって二人は使えそう?」

「使えそうって……」

 ものじゃないんだから。

「どうだろうな。田島は経験者って言ってたけど、どこまでできるかわからない。池本は初心者だからとりあえず大会までに使い物にしなければならないし」

「そう」

 そう言うと夏村は抹茶ラテを飲む。
 何か納得したのか、それとも俺の答えに不満を持ったか。
 俺が黙っているとそれをどう捉えたのか、夏村がまた質問をしてきた。

「それでこれからどうするの?」

 ? よく質問の意図が読めない。春大会に向けてってことだろうか?

「まぁ、とりあえず一年生の演技を伸ばすところから――」

「そういうのじゃない」

 また夏村は否定した。
 じゃあ、なんだっていうんだ。
 すると夏村は言うか言わないか考えているのか、少し遠くを見ていた。
 そして少しすると、はっきりと言った。

「単刀直入に言う。香菜との企み的に一年生はどう作用するかってこと」

「!!」

 俺はきっと間抜けな顔をしていただろう。
 どうしてそのことを……。
 顔にはそんなことが書いてあったのだろう。夏村が言う。

「多分、気づいてないの大槻と山路ぐらい。栞も樫田も気づいている」

 樫田が気づいていることは何となく察していたが、そっか夏村と増倉もなのか。
 どんだけバレてんだよ。過半数以上に知られてるんじゃねーか。
 ……落ち着け俺。樫田は俺と椎名が全国を目指すことまではわかってなかった。今回もその可能性は高い。
 ここは聞かれたことに素直に答えていくか。

「あれだ。正直、一年生のことはあんま話してないな。入ってきてどんな奴らか分かるまで保留だったからな。多分、今日仲良くなってから色々考えるんだろう」

「そう」

 短く答える夏村。
 これで良かったのか?
 そんな不安を残しながら、俺は夏村に聞く。

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

 やはり外から見たら、俺と椎名が何か企んでいるのが気になるのだろうか。

「……私は別に香菜が部長になろうが、その先に何かを成し遂げたいって目標をかざしてもいいと思っている」

 意外なことに夏村から椎名に対して肯定的な意見が出た。
 だが、そこでは終わらなかった。

「けど、香菜は少し人の意見を蔑ろにすることがある。部長になったとき周りの意見を尊重できるか心配」

 ……。確かにそれはあるかもしれない。

「それに私達はそのこと理解してるけど一年生たちは、まだ理解できてないと思う」

 入ったばかりの一年生たちにとって俺たち二年生は誰がどういう性格なのか分からないだろう。

「だから、杉野と香菜は何も知らない一年生たちに変なこと吹き込むんじゃないかって思ってた」

「変なことってなんだよ」

「……結果を残すことが大切とか賞を取れるように頑張れとか」

 まぁ、椎名なら言いかねないか。
 俺もその一人にカウントされてるのは不満だが。
 けど、それって……

「言うほどそんなに悪いことか?」

 目標を定め、そのために努力させる。それは言うほど嫌なことだろうか。

「そうね。そうかもしれない。でも誰だって強制的に勉強させられたら嫌。主体的にやるから意味がある」

 なるほど。一理あるな。
 強制的にやらされたらそれは誰だって嫌になる。
 主体的に、自分の意志でやるから意味が生まれる。

「一年生たちは、言ってしまえば真っ白いスケッチブック。どんな色にでも染まれる。けどそれを染めるのは二年生の仕事じゃない。一年生たち自らが染めていく。そのために色々教えるのが私達二年生の仕事」

 どんな色にでも染めれる、か。
 そうかもしれない。俺たちの仕事は、あくまで教えることだけで目標となるものを決めるのは一年生たち自身だ。

「……なんかすごいな」

「え?」

「いやさ、正直夏村が一年生たちのことそこまで考えているなんて思わなかったよ」

「……別に、先輩として当然」

 当然か。そう言えるのがやっぱすごいな。
 先輩として後輩の面倒は見ないといけない。だからといって何でもかんでも示すのではなく、見守ることも重要なのだろう。

「私は今の部活を気に入っている」

「ん? ああ」

 俺が感心していると夏村が唐突に言う。

「香菜と栞が言い争ったり山路や大槻は部活をサボったりするけど、基本楽しいし劇のことなるとみんな意見を言い合えるし、それに――」

「それに?」

 そこまで言って言葉が途切れた。なんだろうか。
 俺がじっと見つめると、夏村は根負けしたのかぼそっと言った。

「……青春って感じがする」

 青春。青春かぁ。夏村からその単語が出てくるとは思わなかった。
 そうか、夏村にとっては今の日常が青春なのか。
 椎名みたいに大会で結果を残すことで刻まれる青春でもなく、大槻みたいに恋人を作ることで生まれる甘い青春でもなく、ただ今ある日常がありふれた当たり前が青春だと夏村は言う。
 ひょっとしたら青春の感じ方が俺と夏村は似ているのかもしれない。

「そうだな、青春って感じだな」

「馬鹿にして」

 俺が同意したのに何が気にくわなかったのか、そんなことを言われた。

「いいや、本心だって」

「顔が笑ってる」

 おや、どうやら嬉しくて笑っていたらしい。

「ただ、青春は永遠じゃない。後輩が入ってきて先輩たちが引退して、部活は確実に変化している」

 …………。
 夏村が抹茶ラテを飲んで、そう言った。
 ああ、そうだな。その通りだ。
 俺は黙ってうなずいた。
 そして俺はこの後、その変化を実感するのだった。
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