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29.失敗した初夜*

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主人公と妻の行為(未遂)の描写があります。

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レオポルティーナは浴室で侍女達に身体中ピカピカに磨いてもらい、扇情的な夜着を着て夫婦の寝室に向かった。そこで身体を緊張でガチガチにしながらソファに座って新婚の夫を待った。

レオポルティーナの初夜用の夜着は、フェルディナントの母が張り切って誂えさせた。生地は彼女の白磁のような肌が透けて見えるほど薄く、短い夜着から突き出た白い太腿はなまめかしい。広く深い襟ぐりから覗く谷間は深くはないが、小ぶりでも白桃のようなみずみずしい乳房が隠されている想像を掻き立てる。異性愛者ならその姿を見た途端に理性を失って彼女を押し倒して全身を貪りつくすだろう。だが、フェルディナントはその姿を見た途端、自分がこれからしなければならないことが重くのしかかって身体が金縛りに逢ったように動かなくなった。

「フェル兄様?」
「あ、ああ……ごめん……ティーナがあんまり綺麗だから緊張しちゃって……」
「まぁ……兄様がそんなにお世辞上手とは知らなかったわ。私だって緊張しちゃってガチガチなのよ」

ソファの前のテーブルには、リキュールとグラスが用意してあった。夫婦の初めての行為の前にこれで乾杯して新妻の緊張を和らげるべきなのだろうが、フェルディナントは早く事を終わらせたくてその過程を飛ばすことにした。

「ティーナ……お願いがある」
「なあに?」
「寝台の上で四つん這いになってくれる?」

レオポルティーナはフェルディナントの願いを不思議に思ったが、『夫に任せなさい』としか性教育を受けておらず、それが何を意味するのかわからないまま夫に従った。もっとも後背位は野獣のような性交の仕方とタブー視されており、閨の教本にも載っていない。

「そのまま待ってて」

フェルディナントは寝間着を身に着けたまま、新妻の背後でズボンを少しずり下げて陰茎を扱き始めた。中々硬くならずにフェルディナントは焦ったが、目を閉じてヨハンのことを考えながら一心不乱に扱くと陰茎が徐々に芯を持ち始めた。

レオポルティーナは寝台の上で四つん這いになったまま、いつまでこの体勢でいなくてはならないのか段々不思議になってきた。夫が自分に触れないまま、背後で何をしているのか気になり、首を少し横に曲げて振り返った。夫の自慰行為がちらりと見えてしまったが、レオポルティーナは男性の自慰の仕方を知らず、夫があんな所を擦って何をしているのかと驚いた。だが、フェルディナントは目を瞑って夢中になって陰茎を扱いていたので、新妻が振り返ったことに気付かなかった。

いくら扱いても完全勃起には程遠い半勃ちだったが、フェルディナントはもうこれ以上は諦めて挿入することにした。ただ、妻の膣を濡らして慣らすのを忘れていた。というか、彼女の局部に触れたくないことを気取られるのが嫌だったくせに自分で濡らして準備するようにと新妻に伝える勇気もなかった。

フェルディナントは後ろからレオポルティーナの夜着の裾を腰までまくった。彼女は下着を着けていなかったので、臀部にすうっと空気を感じ、夫に肛門まで丸見えになっているであろうとすぐに思いいたって恥ずかしくなった。

「兄様、恥ずかしいわ」
「大丈夫、恥ずかしくないよ」

フェルディナントはレオポルティーナの局部をなるべく見ないようにして男根を挿入する場所をさっと確認した。半勃ちの陰茎の根元に右手を添えてレオポルティーナの背後から乾いた膣の入口にグイグイと押し付けたが、亀頭のほんの先端しか中に入らない。それでも2人とも痛みを感じてしまった。

「兄様! 痛いわ! 痛い! 止めて!」
「ごめん、でも僕も痛かったよ」

レオポルティーナは後ろからグイグイ押されて必死に手足を突っ張っていたが、あまりの痛さに身体を支えられなくなって寝台の上に倒れた。その勢いでフェルディナントも彼女の上に落ちたが、すぐに起き上がった。その途端、レオポルティーナの蜜口に触れていた亀頭から悪寒が昇ってきてフェルディナントの胃の中身が逆流してきた。

「う“えぇー」

フェルディナントは慌てて寝台から降りたが、浴室までは間に合わず、寝室の床で吐いてしまった。

「兄様! どうしたの?! 大丈夫?」

レオポルティーナは夫に駆け寄って背中をさすった。慌ててガウンを羽織り、ベルを鳴らして侍女達を呼んで吐しゃ物の片づけをさせ、フェルディナントの着替えを持ってこさせた。

初夜の失敗が使用人にも知られて気まずくなり、それ以上声を交わすことなく2人はそれぞれの寝室に別れて就寝したが、2人とも中々寝付けなかった。

フェルディナントが吐いたのは体調が悪かったからか、それとも緊張し過ぎたせいだろうか――レオポルティーナはそう思いたかった。でも誓いのキスをきちんとしてもらえなかったことや結婚前に触れ合いを避けられたことを思い出して、悪い方向に考えてしまって寝台の中で悶々としていた。

フェルディナントは、ヨハンにどう思われたか、ヨハンが傷ついていないか、心配でたまらなかった。しかし、失敗した初夜の後に従者を寝室まで呼んでも構わない都合のよい言い訳が思いつかない。それにレオポルティーナに何か気付かれたかどうかも気がかりで、目を瞑っても朝まで眠れなかった。
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