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27.続く雨(テレーゼサイド)

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 温かな食事を摂ると、延々と体の中で暴れ回っていた怒りも鳴りを潜めた。苛立ちが酷かったのは空腹のせいもあったのかもしれない。
 気分もよくなったから外出用のドレスに着替える。雨はまだ降っているけれど、部屋に籠っているわけにもいかない。
 朝食の後も機嫌が悪いままの母の話し相手になるのも面倒臭い。どうせ父とその浮気相手の愚痴で終わるに決まっている。

「やあ。こんな雨の中でも君の美しさは変わらないな、テレーゼ」
「ありがとう。あなたも素敵よ、テレンス」

 こんな雨の中でも、この男の頭は陽気なまま。羨ましい。
 こうして迎えに来たかと思えば、私の手の甲にキスを落とす。お礼に私はテレンスの唇に触れるだけのキスをする。
 男って不思議な生き物。たかが唇で相手の体に触れるだけなのに、やってあげると喜ぶ。レヴェリ夫人も父上の機嫌を取るためにこんなことをしているのだろうか。
 最後に二人で微笑み合い、テレンスに手を引かれてシェイル家の馬車に乗り込む。

 雨のせいか、街はいつもよりも人気が少ない。
 青果店に通りかかると、店主と客が言い争いをしていた。その様子を眺めていると、テレンスが苦い表情をしながら口を開く。

「ここのところ、ずっと雨が続いているだろう? そのせいで作物が皆駄目になって品物の値段を上げた結果、ああやって客と揉めることが増えたそうだ」
「そうなのね。人前であんなふうに騒ぐなんてどちらも野蛮だわ……」
「だが雨による水害が起きているのも確かだ」
「ふぅん」

 言われてみれば、近頃雨が降る頻度が増えた気がする。
 今日は小雨程度だけれど、三日前の夜中なんて突然空がヒスを起こしたように激しく振り出した。おかげでろくに眠れなくて、一日中寝不足に悩まされた。

「……テレーゼ。この雨を止ませることはできないか? 水魔法を持っている君ならもしかしたら──」
「ごめんなさい、私にそこまで期待しないで。私は水を生み出せるし、ある程度なら操れるけど雨雲をどうにかする力はないわ」
「そ、そうか。そうだな、変なことを聞いてすまなかった」

 あからさまに落胆の色を見せる男に私は奥歯を噛み締めた。
 私の出番は干ばつが起こった時とか、水を必要とする場面だけ。雨が降り続いて困っているのなら、それを解決できそうな魔法を持っている人間、それか癪だけれどエルフにでも助けを求めればいい。
 苛立ちを込めて溜め息をついていると、外をぼんやりと見詰めながらテレンスが口走った。

「雨雲を消し去る……サリサの闇魔法ならひょっとしたら……」
「……何言ってるの?」

 闇魔法で雨雲を消す? わけの分からないことを考えている婚約者に驚いていると、テレンスは「すまない」と気まずそうに謝った。


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