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11話【母親③)
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どの夫人も王妃の服装を疑問に思うことなく、席から立ち上がりカーテシーを行う。
ロザンナもはっと我に返り、慌てて立ち上がる。
「お、王妃様。本日はお招きいただき、感謝いたしますわ」
「ええ。レオーヌ侯爵夫人も、お元気そうで何よりです」
王妃は目を細めて柔らかく微笑むと、席にゆっくりと腰を下ろした。それに続くように、出席者たちも着席する。
と、そこへ数人のメイドがやって来て、白いクロスのかかったテーブルにティーカップや皿を並べていく。
マフィン。ダックワーズ。フロランタン。オランジェット。
皿には様々な菓子が盛りつけられていた。その中には、ロザンナが用意してきた菓子も含まれている。
「あら……どれも美味しそうですわね」
「お花の砂糖菓子を持ってきてくださったのは、どなたかしら? とてもお洒落ね」
「皆さんとのおしゃべりではなく、お菓子に夢中になってしまいそうです」
流石、どの菓子もレベルが高い。
夫人たちが盛り上がるなか、カップに紅茶が注がれていく。
「では、冷めないうちにいただきましょう」
王妃の言葉で、茶会が始まった。
まずは皆、温かな紅茶に口をつける。
「まあ……美味しい」
「程よい渋みとフルーティーな香り……とても素晴らしい茶葉をお使いのようですね」
「ありがとう。皆さんに喜んでいただきたくて、何日も悩んだ甲斐があったわ」
夫人たちと王妃の会話を聞きながら、ロザンナは内心腹立っていた。
王妃が自分の姿を全く褒めようとしない。その他大勢に褒められても、彼女に認めてもらわなければ意味がないのに。
その夫人たちも茶会が始まってからは、誰もロザンナに話しかけようとしない。
(何よ、これは!)
ロザンナの計画では、今頃はちやほやされているはずだった。しかしこれでは、まるでのけ者にでもされているようだ。
その苛立ちは、所作に現れていた。
音を立てながら紅茶を飲み、大口を開けて菓子を頬張る。それを繰り返していたロザンナの動きがピタリと止まる。
「このクッキー……どなたが持ってきたのかしら?」
そう言いながら、途中まで食べたクッキーを指差すと、王妃と夫人が一斉にロザンナへ視線を向けた。
「どれも歪な形ばかり……適当に形を作ったとしか思えません。肝心の味も砂糖が少なすぎて、甘みが全然感じられません。こんなものを焼くパティシエの顔を拝見してみたいわ」
鬱憤を込めて、早口で捲し立てる。
スッキリしたところで紅茶を飲んでいると、一人の夫人が口を開いた。
「そのようなことを仰るものではありませんよ」
ルディック伯爵夫人だった。固い表情でロザンナを睨んでいる。
「わたくしもそのクッキーを先ほどいただきましたが、素朴な味でとても美味しかったと思います」
「申し訳ないけれど、私にはまったく理解することができませんわ。王妃様もそうですわよね?」
同意を求めるように、王妃へ視線を向ける。
すると王妃は、少し困ったような表情で、クッキーをじっと見つめていた。
「どうなさいました? 常識知らずのご夫人に気遣いなんて不要ですわよ」
「ええと……ごめんなさいね、レオーヌ侯爵夫人」
そしてぎこちなく微笑みながら、ロザンナに謝罪する。
「これは、リーネが焼いたクッキーなの」
リーネ。御年七歳になる、ロシャーニア王国第一王女だ。
ロザンナもはっと我に返り、慌てて立ち上がる。
「お、王妃様。本日はお招きいただき、感謝いたしますわ」
「ええ。レオーヌ侯爵夫人も、お元気そうで何よりです」
王妃は目を細めて柔らかく微笑むと、席にゆっくりと腰を下ろした。それに続くように、出席者たちも着席する。
と、そこへ数人のメイドがやって来て、白いクロスのかかったテーブルにティーカップや皿を並べていく。
マフィン。ダックワーズ。フロランタン。オランジェット。
皿には様々な菓子が盛りつけられていた。その中には、ロザンナが用意してきた菓子も含まれている。
「あら……どれも美味しそうですわね」
「お花の砂糖菓子を持ってきてくださったのは、どなたかしら? とてもお洒落ね」
「皆さんとのおしゃべりではなく、お菓子に夢中になってしまいそうです」
流石、どの菓子もレベルが高い。
夫人たちが盛り上がるなか、カップに紅茶が注がれていく。
「では、冷めないうちにいただきましょう」
王妃の言葉で、茶会が始まった。
まずは皆、温かな紅茶に口をつける。
「まあ……美味しい」
「程よい渋みとフルーティーな香り……とても素晴らしい茶葉をお使いのようですね」
「ありがとう。皆さんに喜んでいただきたくて、何日も悩んだ甲斐があったわ」
夫人たちと王妃の会話を聞きながら、ロザンナは内心腹立っていた。
王妃が自分の姿を全く褒めようとしない。その他大勢に褒められても、彼女に認めてもらわなければ意味がないのに。
その夫人たちも茶会が始まってからは、誰もロザンナに話しかけようとしない。
(何よ、これは!)
ロザンナの計画では、今頃はちやほやされているはずだった。しかしこれでは、まるでのけ者にでもされているようだ。
その苛立ちは、所作に現れていた。
音を立てながら紅茶を飲み、大口を開けて菓子を頬張る。それを繰り返していたロザンナの動きがピタリと止まる。
「このクッキー……どなたが持ってきたのかしら?」
そう言いながら、途中まで食べたクッキーを指差すと、王妃と夫人が一斉にロザンナへ視線を向けた。
「どれも歪な形ばかり……適当に形を作ったとしか思えません。肝心の味も砂糖が少なすぎて、甘みが全然感じられません。こんなものを焼くパティシエの顔を拝見してみたいわ」
鬱憤を込めて、早口で捲し立てる。
スッキリしたところで紅茶を飲んでいると、一人の夫人が口を開いた。
「そのようなことを仰るものではありませんよ」
ルディック伯爵夫人だった。固い表情でロザンナを睨んでいる。
「わたくしもそのクッキーを先ほどいただきましたが、素朴な味でとても美味しかったと思います」
「申し訳ないけれど、私にはまったく理解することができませんわ。王妃様もそうですわよね?」
同意を求めるように、王妃へ視線を向ける。
すると王妃は、少し困ったような表情で、クッキーをじっと見つめていた。
「どうなさいました? 常識知らずのご夫人に気遣いなんて不要ですわよ」
「ええと……ごめんなさいね、レオーヌ侯爵夫人」
そしてぎこちなく微笑みながら、ロザンナに謝罪する。
「これは、リーネが焼いたクッキーなの」
リーネ。御年七歳になる、ロシャーニア王国第一王女だ。
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