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第五章 初めての大戦争
第112話 拉致
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基幹部隊の指揮官を失い、また異常に俊敏なゴーレムの脅威を目の当たりにしたランセル王国軍が編成を整えるまでには、実に3日を要した。
しかし、その間も新たな部隊が増援として合流したことで、その数はおよそ1,500に迫るほどになっていた。対するバレル砦の防衛部隊は、死者と重傷者を除いておよそ200人。
「さすがに分が悪すぎるな……これでは倒しても倒してもきりがない」
「前回の戦闘でも敵の死者は100人を優に超えているはずなのに、それを補うどころかさらに増えていますからな」
戦列を組んでこちらへ向かってくる敵軍を城壁の上から見据え、フレデリックとユーリが半ば呆れた声で言う。
「……ランセル王国軍はなんでこんなに必死に攻めてくるんでしょうね」
ぼそりと呟いたノエインの方を二人は見る。
「この要塞地帯は主戦場ではないんですよね? 敵としては何がなんでも砦を落とさないといけないわけじゃない。まあ自分の手柄にできるから落とせるに越したことはないんでしょうけど……わざわざ他の将官と合流して、指揮権を争ってまで合同で攻めてくるのは何故なんでしょうか」
「そう言われると……確かに少し不自然だな」
ノエインの疑問に同意するようにフレデリックも言った。
「こうなると、後方との連絡網を絶たれて本隊からの情報が入ってこないのが痛いですな」
「ああ、全くだ。もうそろそろ本隊の決着がついていてもおかしくないのだがな……」
最初の戦闘から今日で10日目。本隊が戦闘を開始してからは11日目だ。「長くとも2週間で終戦」という本来の見通しから考えれば、戦いは総司令部の予想を超えて長引き始めていることになる。
「とにかく、今は目の前の戦いを乗り切るしかあるまい」
「そうですね」
話している間にも、敵は着実に近づいて来る。
ノエインは気持ちを切り替えると、両手をゴーレムたちに向けた。既にゴーレムの存在は敵に知られているので、今回は最初から砦の前に2体とも立たせてある。
歩兵部隊に対する牽制のつもりだったが、ランセル王国軍は前回とは違った反応を見せた。
「あれは……火矢か?」
「そこの二人、ゴーレムに盾を!」
咄嗟にノエインが近くにいた兵士を指して叫ぶと、彼らは自分の持っていた盾を城壁から投げる。
ノエインはそれをゴーレムに拾わせて構えさせた。その直後、敵の弓兵が放った火矢がゴーレムのもとに降り注ぐ。
「ランセル王国でもウッドゴーレムの弱点は知れ渡っているみたいですね……」
木製のゴーレムは火が弱点だ。非常に硬い木材が使われているため矢を直接通すことはほぼないが、関節の隙間にでも火矢が飛び込めば体が燃えかねない。
火矢は次々にゴーレムたちの構える盾に突き立つ。
さらに、敵の策はこれだけではなかった。
「!? まずいっ!」
敵の隊列の後方から『火魔法・火炎弾』がゴーレム目がけて飛来する。ノエインは咄嗟にゴーレムを左右に飛び退かせた。
火炎弾は先ほどまでゴーレムたちの立っていた場所に落ちると、炎をまき散らす。
その間にも火矢は次々に飛んできて、ノエインは再びゴーレムに盾を構えさせる。こうしている間にも次の火炎弾が飛んでくるかもしれない。
「敵は火魔法使いまで引っ張り出してきたか……やむを得ん。一度ゴーレムを砦の中に下げよう」
「……そうですね、仕方ありません」
歯がゆさを感じながら、ノエインもフレデリックの提案に頷く。
ゴーレムを引っ込めれば白兵戦での防衛力が大きく削がれるが、火矢や火炎弾によってゴーレム自体を失えば損害はその比ではない。もっと追い詰められた際の決戦兵器になり得るゴーレムを、今は温存すべきだろう。
砦の門が開き、ゴーレムが戻ってくる。ノエインは城壁から降り、門での防衛戦に備える。
門はまだ閉じられることはなく、バリスタから矢が放たれた。敵は相変わらず爆炎矢対策で移動式の防壁を並べて前進しているので、撃つのは通常の矢だ。
バリスタによる攻撃は効果が皆無というわけではないが、もはや敵の進軍の勢いは止まらない。
「敵の魔法使いを仕留めろ! 隊列の中央後方だ!」
フレデリックが鋭く指示を飛ばし、獣人たちがクロスボウを撃つ。ランセル王国軍の火魔法使いがいると思われる位置に集中的に矢が飛ぶが、そこは大盾隊によって厳重に守られていて矢は通らない。
「敵も考えることは同じか……」
先の戦いでは、フレデリックもノエインを守るために盾隊を周囲に配置していたのだ。貴重な魔法使いを何としても守り通したいのはお互い様のようだった。
一方で、ランセル王国軍の弓兵も標的を城壁上の防衛部隊に切り替えて矢を放ってくる。互いに矢を撃ちながら距離を詰める混戦へと突入する。
死傷者の増加によって手数が不足し始めているため、以前ならクロスボウの装填係に回っていた獣人たちも最初から城壁の上で敵に応戦する。
上からクロスボウやバリスタの矢を受けたランセル王国軍は少なくない損害を負い、下から矢を受ける防衛側にもちらほらと負傷者が出る。
やがて、いつものようにランセル王国軍が城壁までたどり着き、戦いは白兵戦の段階に入った。
「一兵も敵を入れるな! 死んでも守れ!」
そう檄を飛ばしながらフレデリックは梯子で上がってきた敵兵を切り伏せ、梯子ごと蹴落とす。その近くではユーリが城壁から身を乗り出すようにして、梯子を登ってくる敵に剣で応戦する。
門を挟んで反対側では、フレデリックの副官が獣人たちを鼓舞しながら剣を振るう。別の場所ではペンスが自分を狙って飛んできた敵の矢を切り弾き、今まさに城壁へと第一歩を踏み入ろうとした敵の喉に剣を突き立てた。
城壁の上で激戦がくり広げられる一方で、ノエインはゴーレムとともに門の前で待機だ。バリスタを操作していた領軍兵士たちとともに、敵が門を押し破ろうとした場合に備える。
「……ねえユーリ」
『何だ!』
「敵の士気を削ぐために、門の向こうに厠の桶を投げ込んだら駄目かな?」
例によって「遠話」を繋ぎっぱなしのユーリにノエインは提案した。
砦の端には布で仕切りをした簡易の厠――すなわちトイレが作られ、防衛部隊はそこで日々出すものを出している。出されたものは大きな桶にまとめられ、定期的に焼かれていた。
しかし、昨日と今日に出された分はまだ桶の中だ。200人以上分の糞尿は、ちょっとした戦術兵器になり得る。
『お前は相変わらず……だが確かに効果はありそうだな。やってしまえ』
やや呆れたようなユーリの声が「遠話」でノエインの脳内に直接響く。それを聞いたノエインはゴーレムを厠へと走らせた。
前線まで桶が運ばれてくると、突然漂ってきた悪臭に獣人たちが顔をしかめながらゴーレムの方を見る。桶を担ぐゴーレムを見て、ノエインが何をするつもりなのか気づいた一部の獣人たちが戦慄する。
「じゃあ投げるよー」
ノエインは不敵な笑みを浮かべながらゴーレムを操作し、大量の排泄物が詰まった桶を門の向こうへと放り投げた。
直後、敵陣で悲鳴が、いや絶叫が上がる。
『お前のえげつない策が上手くいったぞ! 門の近くにいた敵は半泣きで混乱してる!』
「大成功だね! あはははは!」
敵の不幸を喜びながら、ノエインは敵の突撃に備えて再びゴーレムを門の前に立たせる。先ほどまで桶を担いでいたゴーレムに臭いが移っているのか、隣に立たれた兵士が少し辛そうな顔を見せる。
その後も混戦が続くが、門に敵が突撃してくる気配はない。
「今日は門が攻められないね?」
「そりゃあ、門の向こうは目も当てられない状態でしょうからね。足元も……その、ぬかるんでて、突撃なんてできないんでしょう」
ノエインの疑問に兵士の一人が答える。地面が何でぬかるんでいるのかを具体的に言うのははばかれたようだ。
「そっか、じゃあゴーレムを門の前で遊ばせておくわけにはいかないな」
そう言いながらノエインは城壁の上に駆け上がった。ノエインを守るためにマチルダも続く。
「ノエイン様! 何で上がってきた! ここは危ないぞ!」
「ユーリ、前線の敵に身分が高そうな人はいる? いたら砦の中まで連れてきて、戦場の不可解な状況について何か聞き出せるんじゃないかと思うんだけど」
敵の将官ならランセル王国軍の作戦の全容を知っているはずだ。何故これほど戦いが長引いているのか、どうして敵がこれほど執拗に要塞地帯を攻めるのかを教えてもらうことも可能だろう。
「ちょっと待て……あいつだ、敵の前線指揮官らしいが、鎧を見るに多分貴族だろう」
ユーリが指差したのは、敵の隊列の前線中央あたり。ゴーレムによって糞尿がぶちまけられた場所よりも少し後方で、高価そうな板金鎧に身を包んで周囲に指示を飛ばしている将官らしき男がいた。
「そっか……フレデリックさん! あの貴族を攫って拷問したら情報を得られるんじゃないかと思うんですが、どうですか! 僕のゴーレムならやれます!」
「構わん! 攫ってしまえ! 混戦状態のままなら敵も火で攻めることはできないはずだ!」
総指揮官であるフレデリックの許可をとってからノエインはゴーレムを城壁に上がらせ、そのまま敵の中に飛び込ませる。圧倒的な強さを誇るゴーレムが上から降ってきたことで、敵はまた混乱した。
味方を巻き込むことを恐れているのか、火矢や火魔法をゴーレムに放つ気配はない。
ゴーレムは敵の歩兵を蹴散らしながら戦列を突き進み、いとも簡単に護衛をなぎ倒して貴族らしき男を抱え上げると、再び砦へと駆け戻り、男を城壁の上に放り投げる。
「クソッ! 何なんだ一体!」
悪態をつきながら降ってきた貴族の男を、ユーリが「しばらく寝てろ!」と言いながら殴り飛ばす。思いきり顔を殴られて脳を揺さぶられた男は、気を失って動かなくなった。
そうこうしているうちに、敵の攻撃の勢いが鈍る。門への攻撃が叶わず、城壁の上からゴーレムが降ってきて、さらに前線指揮官が拉致されるのを目の当たりにしたからか、明らかに戦意をくじかれた様子だ。
「敵が退いていく! 今日も砦を守りきったぞ!」
フレデリックの勝利宣言に応えて、獣人の徴募兵も、アールクヴィスト領軍兵士も、王国軍兵士も、誰もが喜びの声を上げた。
しかし、その間も新たな部隊が増援として合流したことで、その数はおよそ1,500に迫るほどになっていた。対するバレル砦の防衛部隊は、死者と重傷者を除いておよそ200人。
「さすがに分が悪すぎるな……これでは倒しても倒してもきりがない」
「前回の戦闘でも敵の死者は100人を優に超えているはずなのに、それを補うどころかさらに増えていますからな」
戦列を組んでこちらへ向かってくる敵軍を城壁の上から見据え、フレデリックとユーリが半ば呆れた声で言う。
「……ランセル王国軍はなんでこんなに必死に攻めてくるんでしょうね」
ぼそりと呟いたノエインの方を二人は見る。
「この要塞地帯は主戦場ではないんですよね? 敵としては何がなんでも砦を落とさないといけないわけじゃない。まあ自分の手柄にできるから落とせるに越したことはないんでしょうけど……わざわざ他の将官と合流して、指揮権を争ってまで合同で攻めてくるのは何故なんでしょうか」
「そう言われると……確かに少し不自然だな」
ノエインの疑問に同意するようにフレデリックも言った。
「こうなると、後方との連絡網を絶たれて本隊からの情報が入ってこないのが痛いですな」
「ああ、全くだ。もうそろそろ本隊の決着がついていてもおかしくないのだがな……」
最初の戦闘から今日で10日目。本隊が戦闘を開始してからは11日目だ。「長くとも2週間で終戦」という本来の見通しから考えれば、戦いは総司令部の予想を超えて長引き始めていることになる。
「とにかく、今は目の前の戦いを乗り切るしかあるまい」
「そうですね」
話している間にも、敵は着実に近づいて来る。
ノエインは気持ちを切り替えると、両手をゴーレムたちに向けた。既にゴーレムの存在は敵に知られているので、今回は最初から砦の前に2体とも立たせてある。
歩兵部隊に対する牽制のつもりだったが、ランセル王国軍は前回とは違った反応を見せた。
「あれは……火矢か?」
「そこの二人、ゴーレムに盾を!」
咄嗟にノエインが近くにいた兵士を指して叫ぶと、彼らは自分の持っていた盾を城壁から投げる。
ノエインはそれをゴーレムに拾わせて構えさせた。その直後、敵の弓兵が放った火矢がゴーレムのもとに降り注ぐ。
「ランセル王国でもウッドゴーレムの弱点は知れ渡っているみたいですね……」
木製のゴーレムは火が弱点だ。非常に硬い木材が使われているため矢を直接通すことはほぼないが、関節の隙間にでも火矢が飛び込めば体が燃えかねない。
火矢は次々にゴーレムたちの構える盾に突き立つ。
さらに、敵の策はこれだけではなかった。
「!? まずいっ!」
敵の隊列の後方から『火魔法・火炎弾』がゴーレム目がけて飛来する。ノエインは咄嗟にゴーレムを左右に飛び退かせた。
火炎弾は先ほどまでゴーレムたちの立っていた場所に落ちると、炎をまき散らす。
その間にも火矢は次々に飛んできて、ノエインは再びゴーレムに盾を構えさせる。こうしている間にも次の火炎弾が飛んでくるかもしれない。
「敵は火魔法使いまで引っ張り出してきたか……やむを得ん。一度ゴーレムを砦の中に下げよう」
「……そうですね、仕方ありません」
歯がゆさを感じながら、ノエインもフレデリックの提案に頷く。
ゴーレムを引っ込めれば白兵戦での防衛力が大きく削がれるが、火矢や火炎弾によってゴーレム自体を失えば損害はその比ではない。もっと追い詰められた際の決戦兵器になり得るゴーレムを、今は温存すべきだろう。
砦の門が開き、ゴーレムが戻ってくる。ノエインは城壁から降り、門での防衛戦に備える。
門はまだ閉じられることはなく、バリスタから矢が放たれた。敵は相変わらず爆炎矢対策で移動式の防壁を並べて前進しているので、撃つのは通常の矢だ。
バリスタによる攻撃は効果が皆無というわけではないが、もはや敵の進軍の勢いは止まらない。
「敵の魔法使いを仕留めろ! 隊列の中央後方だ!」
フレデリックが鋭く指示を飛ばし、獣人たちがクロスボウを撃つ。ランセル王国軍の火魔法使いがいると思われる位置に集中的に矢が飛ぶが、そこは大盾隊によって厳重に守られていて矢は通らない。
「敵も考えることは同じか……」
先の戦いでは、フレデリックもノエインを守るために盾隊を周囲に配置していたのだ。貴重な魔法使いを何としても守り通したいのはお互い様のようだった。
一方で、ランセル王国軍の弓兵も標的を城壁上の防衛部隊に切り替えて矢を放ってくる。互いに矢を撃ちながら距離を詰める混戦へと突入する。
死傷者の増加によって手数が不足し始めているため、以前ならクロスボウの装填係に回っていた獣人たちも最初から城壁の上で敵に応戦する。
上からクロスボウやバリスタの矢を受けたランセル王国軍は少なくない損害を負い、下から矢を受ける防衛側にもちらほらと負傷者が出る。
やがて、いつものようにランセル王国軍が城壁までたどり着き、戦いは白兵戦の段階に入った。
「一兵も敵を入れるな! 死んでも守れ!」
そう檄を飛ばしながらフレデリックは梯子で上がってきた敵兵を切り伏せ、梯子ごと蹴落とす。その近くではユーリが城壁から身を乗り出すようにして、梯子を登ってくる敵に剣で応戦する。
門を挟んで反対側では、フレデリックの副官が獣人たちを鼓舞しながら剣を振るう。別の場所ではペンスが自分を狙って飛んできた敵の矢を切り弾き、今まさに城壁へと第一歩を踏み入ろうとした敵の喉に剣を突き立てた。
城壁の上で激戦がくり広げられる一方で、ノエインはゴーレムとともに門の前で待機だ。バリスタを操作していた領軍兵士たちとともに、敵が門を押し破ろうとした場合に備える。
「……ねえユーリ」
『何だ!』
「敵の士気を削ぐために、門の向こうに厠の桶を投げ込んだら駄目かな?」
例によって「遠話」を繋ぎっぱなしのユーリにノエインは提案した。
砦の端には布で仕切りをした簡易の厠――すなわちトイレが作られ、防衛部隊はそこで日々出すものを出している。出されたものは大きな桶にまとめられ、定期的に焼かれていた。
しかし、昨日と今日に出された分はまだ桶の中だ。200人以上分の糞尿は、ちょっとした戦術兵器になり得る。
『お前は相変わらず……だが確かに効果はありそうだな。やってしまえ』
やや呆れたようなユーリの声が「遠話」でノエインの脳内に直接響く。それを聞いたノエインはゴーレムを厠へと走らせた。
前線まで桶が運ばれてくると、突然漂ってきた悪臭に獣人たちが顔をしかめながらゴーレムの方を見る。桶を担ぐゴーレムを見て、ノエインが何をするつもりなのか気づいた一部の獣人たちが戦慄する。
「じゃあ投げるよー」
ノエインは不敵な笑みを浮かべながらゴーレムを操作し、大量の排泄物が詰まった桶を門の向こうへと放り投げた。
直後、敵陣で悲鳴が、いや絶叫が上がる。
『お前のえげつない策が上手くいったぞ! 門の近くにいた敵は半泣きで混乱してる!』
「大成功だね! あはははは!」
敵の不幸を喜びながら、ノエインは敵の突撃に備えて再びゴーレムを門の前に立たせる。先ほどまで桶を担いでいたゴーレムに臭いが移っているのか、隣に立たれた兵士が少し辛そうな顔を見せる。
その後も混戦が続くが、門に敵が突撃してくる気配はない。
「今日は門が攻められないね?」
「そりゃあ、門の向こうは目も当てられない状態でしょうからね。足元も……その、ぬかるんでて、突撃なんてできないんでしょう」
ノエインの疑問に兵士の一人が答える。地面が何でぬかるんでいるのかを具体的に言うのははばかれたようだ。
「そっか、じゃあゴーレムを門の前で遊ばせておくわけにはいかないな」
そう言いながらノエインは城壁の上に駆け上がった。ノエインを守るためにマチルダも続く。
「ノエイン様! 何で上がってきた! ここは危ないぞ!」
「ユーリ、前線の敵に身分が高そうな人はいる? いたら砦の中まで連れてきて、戦場の不可解な状況について何か聞き出せるんじゃないかと思うんだけど」
敵の将官ならランセル王国軍の作戦の全容を知っているはずだ。何故これほど戦いが長引いているのか、どうして敵がこれほど執拗に要塞地帯を攻めるのかを教えてもらうことも可能だろう。
「ちょっと待て……あいつだ、敵の前線指揮官らしいが、鎧を見るに多分貴族だろう」
ユーリが指差したのは、敵の隊列の前線中央あたり。ゴーレムによって糞尿がぶちまけられた場所よりも少し後方で、高価そうな板金鎧に身を包んで周囲に指示を飛ばしている将官らしき男がいた。
「そっか……フレデリックさん! あの貴族を攫って拷問したら情報を得られるんじゃないかと思うんですが、どうですか! 僕のゴーレムならやれます!」
「構わん! 攫ってしまえ! 混戦状態のままなら敵も火で攻めることはできないはずだ!」
総指揮官であるフレデリックの許可をとってからノエインはゴーレムを城壁に上がらせ、そのまま敵の中に飛び込ませる。圧倒的な強さを誇るゴーレムが上から降ってきたことで、敵はまた混乱した。
味方を巻き込むことを恐れているのか、火矢や火魔法をゴーレムに放つ気配はない。
ゴーレムは敵の歩兵を蹴散らしながら戦列を突き進み、いとも簡単に護衛をなぎ倒して貴族らしき男を抱え上げると、再び砦へと駆け戻り、男を城壁の上に放り投げる。
「クソッ! 何なんだ一体!」
悪態をつきながら降ってきた貴族の男を、ユーリが「しばらく寝てろ!」と言いながら殴り飛ばす。思いきり顔を殴られて脳を揺さぶられた男は、気を失って動かなくなった。
そうこうしているうちに、敵の攻撃の勢いが鈍る。門への攻撃が叶わず、城壁の上からゴーレムが降ってきて、さらに前線指揮官が拉致されるのを目の当たりにしたからか、明らかに戦意をくじかれた様子だ。
「敵が退いていく! 今日も砦を守りきったぞ!」
フレデリックの勝利宣言に応えて、獣人の徴募兵も、アールクヴィスト領軍兵士も、王国軍兵士も、誰もが喜びの声を上げた。
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