たとえ番でないとしても

豆狸

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21・たとえ浅ましい想いを消し去ることが出来なくても

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「こら! やめないか!」
「申し訳ありません、お妃様」

 飛びついてきた兄弟を中腰になって抱き締め、私は謝罪するご夫婦に微笑みました。

「いいのですよ。帰還を歓迎してもらえて嬉しいです。……あの、ごめんなさい。私のせいでカボチャをひとつ駄目にしてしまいました」
「妃殿下のせいではありません! 退治してしまったのは俺です!」

 ソティリオス様が大声を出したので、腕の中の兄弟がびくっと体を震わせました。

「魔導を発動出来なかった私を助けてくれたのですもの。ソティリオス様のせいではありませんよ」
「いいえ。俺のせいです」
「……お、お妃様、少しよろしいでしょうか」
「はい、なんですか?」

 兄弟の父親が、目を丸くして聞いてきます。

「その駄目になったというひとつ以外は?」
「ちゃんと鎮めましたよ。もう魔物ではありません。ああ、でも不安ですよね。しばらくはこの辺りに通って強い魔力を鎮めるつもりなので、またなにかあったらおっしゃってくださいね」
「お妃様明日も来るの?」
「くゆの?」
「ええ」

 離宮にいてもすることはないのです。
 カサヴェテス竜王国の内情を記した書類仕事に来年はいなくなる予定の異国の王女が関わらせてもらえるはずがありませんし、竜王陛下の隣で民に顔を見せるような公務はつがいのサギニ様がなさいます。
 それでもこの国のためになることなら陛下のためにもなるわけですし、力を高め魔導の腕を上げられれば、いつか陛下をお助けすることも出来るはずです。

「あ、ありがとうございます!」
「え?」

 兄弟の父親が地面に体を投げ出し、私に向けて頭を下げました。
 母親のほうも隣で同じことをしています。
 ご夫婦はどちらも夏だというのに長袖です。病気で苦しんでいた我が子の鱗で腕に刻まれた傷を隠しているのです。回復力が高くても、繰り返しつけられた傷は痕が残ってしまいます。ご夫婦は我が子に罪悪感を与えたくないのでしょう。

「父ちゃん母ちゃん、どうしたの?」
「ねんね?」
「年々作物の魔物化が酷くて、今年は収穫すら出来ないものと諦めておりました。お妃様のおかげで冬を越せます。ありがとうございます!」
「息子のこと、本当にありがとうございました。昔からある病気ですけれど治す手段がなく自然治癒に任せるしかなくて、最近は死ぬものも多かったんです」
「そうでしたの。お力になれて良かったです」

 私の力がだれかの、このカサヴェテス竜王国のためになるのなら嬉しいことです。
 ……心の片隅で、こうして国のためになることをしていたら少しは竜王陛下に気にしていただけるかしら、なんて浅ましいことを考える自分には悲しくなりますが、それでも前と違って充実した夏に私は満足していたのです。
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