たとえ番でないとしても

豆狸

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20・たとえどんな醜聞に塗れようとも

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 祖国リナルディ王国なら、形だけとはいえ王妃の地位にある女がメイドも置かず、護衛とはいうものの男性ばかりの近衛騎士隊と行動しているのは外聞の悪いことだったでしょう。
 ですが、ここカサヴェテス竜王国では男女が一緒に行動していても、すぐに色恋沙汰と結びつけるようなことはありません。竜人族なら女性であっても魔力の鱗を纏うことが出来るので、男性に迫られても力ずくで押し切られることがないからです。
 そしてリナルディ王国では、どんなに白い結婚だといってもヒト族がトカゲと莫迦にする竜人族に嫁いだ私は傷物なので、夫以外の男性と一緒にいたところでこれ以上評価が落ちることはないのです。

 本宮殿で暮らすサギニ様の護衛は女性の近衛騎士だけだと聞きます。
 すぐに色恋沙汰と結び付けられることがなくても、竜王ニコラオス陛下は愛しいつがいの側に自分以外の男性がいることを好ましく思えないのでしょう。
 ……前よりもお会いする機会が増えたからと言って、竜王陛下の心の中に私のことを考える隙間が出来たりはしないのでしょうね。

 精霊王様が一緒に来てくださっていたら、今さらこんなことを考えることはなかったでしょう。
 けれど春の間私に魔導を教えてくださっていた精霊王様は、今は離れていた分を取り戻すかのようにお子様達と過ごされています。ただでさえお世話になったのに、これ以上、しかも人間のくだらない噂を打ち消すためだけに束縛するわけにはいきません。
 それに、精霊王様無しで魔導を使っても大丈夫だと認められたのは嬉しいことです。

 ほかの作物の魔物化は鎮め終わっていたので、私とソティリオス様は畑の持ち主が住む農家へ向かって歩き始めました。魔物化を鎮めた作物は、どれも通常の大きさに戻っています。
 魔物化したばかりの弱い魔物でも魔力を纏って巨大化しているので侮ることは出来ませんし、さっきのように私が愚行を晒してしまうこともあるので、畑の持ち主のご家族には家で待っていてもらったのです。
 ご両親と幼い兄弟は家の前で立っていました。近衛騎士隊の皆様のお顔も見えます。前と違って今回は、彼らに監視されているのではなく護衛されているのだと感じます。

「お妃様!」
「しゃま!」

 兄弟が飛びついてきます。
 畑で魔物化した作物を鎮める前、私は弟のほうにも魔導を使いました。
 幼い彼は自分の魔力を制御出来なくて発熱し、全身に魔力の鱗が飛び出して触るものを傷つけてしまう病気で寝込んでいたのです。背中にも鱗が飛び出していたので、ベッドの敷布がボロボロになっていました。幸い発病して数日だったのでさほど衰弱はしていなかったらしく、病気さえ治ればこの元気です。

 カサヴェテス竜王国では作物が魔物化しやすいせいもあって、農業はあまり盛んではありません。
 王都の周囲に農地は広がっていますが、農家自体は少なく一軒一軒が離れています。
 幼い兄弟にとって私は、久しぶりに会う外の人です。弟の病気を治したこともあり、この幼い兄弟は私を慕ってくれているようでした。
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