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幕間 ミスリル銀は夢を見ない①
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「ミスリル銀は夢を見ない」
僕が平民枠の特待生として入学した魔導学園の最初の授業で、魔道具学の教師はそう言った。
「現実と変わらない夢を見る人間は、心の中に作り上げた幻影を魔導によって再現することが出来る。しかし、魔道具の核であるミスリル銀にそれは出来ない。だから私達人間が術式を刻んで、ミスリル銀に夢を見せてあげるんだ」
燃料の魔石から注ぎ込まれた魔力が術式を走り、ミスリル銀の夢を具現化する。
それが、魔導の才のないものでも魔力の属性が違うものでも魔導を使える魔道具の仕組みだ。
初日だから理論だけかと思っていたのに、簡単な魔道具作りを実行するらしい。前の席の生徒が振り返って、教師が列ごとに配ったミスリル銀を渡してくる。
ミスリル銀と呼ばれているけれど、銀色というより真白く見える金属だ。
そう、僕の後ろの席にいる、この教室でもうひとりの平民枠の特待生である彼女の白金の髪によく似ている。
振り向いてミスリル銀を渡しながら思う。彼女は夢を見るのだろうか。必死で受験勉強をして特待生枠に潜り込んだ僕と違い、彼女は同じ平民枠の特待生でも学園から勧誘されて入学した人間だ。
白金の髪と白金の瞳は強い光の魔力を持っていることを現している。
彼女の父親は竜人族なのだという。
目映いばかりの美貌とリナルディ王国の王立魔導学園に見込まれるほどの優れた魔力──彼女は夢など見るまでもなく、すべてが思い通りになるのではないかと僕は思った。
僕の魔力は乏しい。
本来なら魔導学園に入学出来るような人間ではない。
だけど僕はどうしても魔道具職人になりたかった。魔道具工房へ弟子入りするという手はあるものの、どうせならちゃんと基礎から魔導学を学んでからにしたかったんだ。
後ろの席の彼女にミスリル銀を渡して、僕は自分のミスリル銀に向き合った。
家の魔道具を分解して手に入れたミスリル銀とは違う、まだ術式の刻まれていないミスリル銀だ。まあ、経年劣化した魔道具の核を溶かして鋳直したものかもしれないけど。
魔道具学の教科書を開いて術式を確認する。よく知っている照明の術式だ。先端に魔石のついた筆を握り、魔力を注いで術式を刻んでいく。
ミスリル銀は魔道具を分解すれば(本当は分解しちゃいけない)手に入るが、この魔石筆は魔導者や魔道具職人でなければ買うことの出来ない危険物だ。
学園から配布されたとはいえ、学外に出すことは禁じられている。
魔道具から取り出したミスリル銀の術式を見つめて頭の中で妄想するだけだった刻印を、実際に出来るなんて夢みたいだ!
「……ふうん。初めてにしては上手だね。さては魔道具を分解してミスリル銀を見つめていた口かな? ずっと術式を刻むことを夢見ていたんだね。でも市販の魔道具の分解は禁止されているから、これからは慎むようにね?」
生徒が術式を刻んでいる間、教室を巡回していた教師に言われて頭を下げる。
魔道具職人に憧れるもののすることなんてお見通しってわけだ。
褒められたことは素直に嬉しいな、なんて思っていたら後ろから、
「すいません、先生。ミスリル銀が溶けてしまいました」
「ああ、術式を刻むために注いだ魔力が強過ぎたんだね。筆の魔石もひび割れてるじゃないか」
不機嫌そうな彼女は、きっと魔道具作りになんて興味ないんだろう。
強い魔力で凄い魔導を使って魔物を殲滅するために、魔導学園に入学したんだろう。攻撃力のある魔導者は王侯貴族、富豪に引っ張りだこだものな。
──なんてことを、そのときの僕は思った。
僕が平民枠の特待生として入学した魔導学園の最初の授業で、魔道具学の教師はそう言った。
「現実と変わらない夢を見る人間は、心の中に作り上げた幻影を魔導によって再現することが出来る。しかし、魔道具の核であるミスリル銀にそれは出来ない。だから私達人間が術式を刻んで、ミスリル銀に夢を見せてあげるんだ」
燃料の魔石から注ぎ込まれた魔力が術式を走り、ミスリル銀の夢を具現化する。
それが、魔導の才のないものでも魔力の属性が違うものでも魔導を使える魔道具の仕組みだ。
初日だから理論だけかと思っていたのに、簡単な魔道具作りを実行するらしい。前の席の生徒が振り返って、教師が列ごとに配ったミスリル銀を渡してくる。
ミスリル銀と呼ばれているけれど、銀色というより真白く見える金属だ。
そう、僕の後ろの席にいる、この教室でもうひとりの平民枠の特待生である彼女の白金の髪によく似ている。
振り向いてミスリル銀を渡しながら思う。彼女は夢を見るのだろうか。必死で受験勉強をして特待生枠に潜り込んだ僕と違い、彼女は同じ平民枠の特待生でも学園から勧誘されて入学した人間だ。
白金の髪と白金の瞳は強い光の魔力を持っていることを現している。
彼女の父親は竜人族なのだという。
目映いばかりの美貌とリナルディ王国の王立魔導学園に見込まれるほどの優れた魔力──彼女は夢など見るまでもなく、すべてが思い通りになるのではないかと僕は思った。
僕の魔力は乏しい。
本来なら魔導学園に入学出来るような人間ではない。
だけど僕はどうしても魔道具職人になりたかった。魔道具工房へ弟子入りするという手はあるものの、どうせならちゃんと基礎から魔導学を学んでからにしたかったんだ。
後ろの席の彼女にミスリル銀を渡して、僕は自分のミスリル銀に向き合った。
家の魔道具を分解して手に入れたミスリル銀とは違う、まだ術式の刻まれていないミスリル銀だ。まあ、経年劣化した魔道具の核を溶かして鋳直したものかもしれないけど。
魔道具学の教科書を開いて術式を確認する。よく知っている照明の術式だ。先端に魔石のついた筆を握り、魔力を注いで術式を刻んでいく。
ミスリル銀は魔道具を分解すれば(本当は分解しちゃいけない)手に入るが、この魔石筆は魔導者や魔道具職人でなければ買うことの出来ない危険物だ。
学園から配布されたとはいえ、学外に出すことは禁じられている。
魔道具から取り出したミスリル銀の術式を見つめて頭の中で妄想するだけだった刻印を、実際に出来るなんて夢みたいだ!
「……ふうん。初めてにしては上手だね。さては魔道具を分解してミスリル銀を見つめていた口かな? ずっと術式を刻むことを夢見ていたんだね。でも市販の魔道具の分解は禁止されているから、これからは慎むようにね?」
生徒が術式を刻んでいる間、教室を巡回していた教師に言われて頭を下げる。
魔道具職人に憧れるもののすることなんてお見通しってわけだ。
褒められたことは素直に嬉しいな、なんて思っていたら後ろから、
「すいません、先生。ミスリル銀が溶けてしまいました」
「ああ、術式を刻むために注いだ魔力が強過ぎたんだね。筆の魔石もひび割れてるじゃないか」
不機嫌そうな彼女は、きっと魔道具作りになんて興味ないんだろう。
強い魔力で凄い魔導を使って魔物を殲滅するために、魔導学園に入学したんだろう。攻撃力のある魔導者は王侯貴族、富豪に引っ張りだこだものな。
──なんてことを、そのときの僕は思った。
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