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出来損ないでよかったわ〜ゴミ扱いで追放された王子の俺が異国の激モテ美王女からプロポーズされる話

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…俺は何もしていない…

…誰にもできることが、できなかっただけだ…



「汝は初代神聖王を冒涜した。その罪によって王子の身分を剥奪し、市中引き廻しの上、流刑に処す!」


目の前で大法官が、俺に判決を言い渡した。


…大法官とは小さい頃に遊んでもらったことがあったな…


こんな時だというのに、昔のいい思い出がよみがえってくるなんて、流刑で命を落とすことがわかるからなのだろう。

俺は、荷車に身体をくくりつけられ、見せしめのために街中を引き廻された。


「ゴミ王子!」

「竜人族の恥さらし!」

「初代神聖王を汚しやがって!」

「二度とこの地に戻ってくるな!」

「弟王子様に嫉妬してたんでしょ!?」

「あさましい奴め!」

「海の藻屑になってしまえ!」

「出来損ないの王子なんていらないわ」


無数の罵声と石が、街中の人たちから浴びせられ、俺は半ば気を失った。


…みんなには、色々よくしてもらったこともあった…


今にも沈みそうな流刑用の小舟に乗せられるところで、王である父親と母親、そして弟がやってきた。

「あぁ兄上!街中の人に石を投げつけられて、なんと痛ましい!くっくっく…ほら、父上と母上も憐れんでいらっしゃいますよ!ね!」

「……」

「……」

両親は一言も発さず、つまらなさそうに俺を見ている。相変わらず俺には関心がないようだ。

…あぁ、父上の大きな背中におんぶされて、母上に子守歌を歌ってもらったこともあった…

「兄上は本来ならば死刑となるところだったのですが、私の力で市中引き廻しと流刑に減刑させたのです。感謝してくださいね!ん?何です?その薄汚い石ころのチョーカーは?」

「それは…」

「みすぼらしいアクセサリーですね!罪人に相応しい!くくくっ…大海原から飛んで帰ってこられるのを待ち望んでいますよ!あ、兄上は出来損ないだから、それは無理でしたね!くくくっ…お・げ・ん・き・で・ゴミ上!」

…俺を嵌めた弟も、昔は無邪気に兄上と呼んでくれていたのに…

そして俺は、荒れ狂う海へ投げ出され、藻屑と消えた。

………

……





「ならん!ならんぞ!」

「父上がなんと言おうと、私はこの方と結婚します!」


気がつけば、誰かが大声で話している。

身体が全く動かない。

ただ、俺の手が、柔らかく温かい手で力強く握りしめられているのだけは感じとることができた。


…何だ?この状況…

…流刑に処されて、荒れ狂う大海原の底に沈んだはずなんだが…


やっとのことで薄く開けることのできた目で、声のする方を見て驚いた。

その女性にも、その父とやらにも、あるはずの角も翼も尻尾もないのだ。


「お前に求婚してくる相手は山ほどいるではないか!そんな角の生えた化け物との結婚など許されぬ!」

「人に角が生えているだけですわ!それにこの方は空を飛べるのです!この翼で!」

「そんな化け物殺してしまえ!お前は18歳にもなってそんなだから頭のイカれた王女だと世間で噂されるのだ!」

「私は空を飛べる人とでないと結婚しないと言いましたからね!この方を殺すというなら、あの秘密、漏らしてもよいのですよ?」

「むむむ…わかった…殺しはせぬ」

「私の好きにさせてくれますわね?」

「ぐぅ…その翼さえなければ即刻殺しているものを…とりあえず、結婚以外ならお前の好きにしてよい…」

「仕方がありません。今はそれで手を打ちましょう」


…一体何がどうなっているんだ…

…あぁ、まぶたが重い…

………

……




「で?アンタどっから来たの?」


次に目が覚めたときには、さっきの若い女性が俺に話しかけていた。

なんとか身体を起こして辺りを見回す。

見たことのない物ばかりが置かれた豪華な部屋に、彼女が一人、椅子に座って脚を組み、頬杖をついて、こちらを眺めている。


「ここは一体?…あぁ、俺は死んだのか…」

「勝手に死んでんじゃないわよ。まぁ、混乱するのも無理ないけどね。浜辺に打ち上げられてたんだから」

「浜辺?…そうか…君は俺と同じ竜人…じゃないな…ダミニェン大陸にこんな種族がいたなんて…」

「ダミニェン大陸って…アンタそれ本気で言ってんの!?」

「本気も何もここがダミニェン大陸じゃないとしたらどこ…ん?…空が青い…だと?…やっぱり、俺は死後の世界に来たのか…」

「だから勝手に死ぬなっての!空が青いのなんて当たり前じゃない」

「空は黄金色に決まって…な…なんだ…あの山よりもデカい樹は!?」

「ザンブ樹を見て驚くなんて、本当にこのザンブ大陸の外から来たみたいね」

「ザンブ大陸!?…幻の大陸じゃないか!」

「そっくりそのままお返しするわ。人間のあたしからすれば竜人族のダミニェン大陸なんて、解読不能の伝承に登場する幻の大陸だしね」

「ん?解読不能なのに、なぜ君は知ってるんだ?」

「読めちゃったんだよね、あたし。リン・シ・テー、ザンブ・リン・タン、シャル・キ・ルーパク・リン・タン、ヌプ・キ・ワランチュー・タン、ジャン・ギ・ダミニェン・タンってね」

「《四大陸あり。ザンブ大陸と、東のルーパク大陸、西のワランチュー、北のダミニェン》という意味だな」

「え!?アンタも読めるの!?」

「あぁ、君と同じだ。なぜか、俺だけが読めてしまった。だから追放されて、流刑に処された」

「ひどいわね…でも伝承が読めただけでどうして流刑になるのよ?」

「伝承を読めるのは初代竜人王だけだったからだ」

「だったらアンタは初代竜人王の生まれ変わりわりだ!とかなんとか敬われるはずじゃない?」

「そうだな。初代竜人王と同じ特質を持つ者は偉大な王になるという言い伝えが竜人族にはあるからな」

「だったらなおさらアンタが追放されるのおかしくない?」

「初代竜人王は雷すら操る完全無欠の神聖なる王とされている。第一王子の俺から王位継承権を奪おうとしていた弟はそこに目をつけた」

「アンタ、王子だったの?」

「身分は剥奪されたがな。弟は俺が初代竜人王を冒涜したと主張した。初代竜人王への冒涜は死罪に値する」

「冒涜したって、一体何やったのよ」

「俺は何もしていない。ただ飛べないだけだ」

「なんだ。飛べないだけか……は?」

「飛ぶ能力がない。出来損ないなんだ」

「えーと…アンタ、この状況分かってる?」

「自分は飛べないと言っただけだが?」

「その翼で飛べるからってことでアンタは殺されずに済んでるんですけど…」

「知っている。殺されるしかないな」

「そんなの適当にごまかしなさいよ!?アンタほどバカ正直なやつ見たことないわ!」

「俺も君ほど美しい女性は見たことがない」

「ばっ!…か…なこと言ってんじゃないわよ!何よ突然!」

「君の言うバカ正直に言ったまでだが。怒っているのか喜んでいるのか、どっちだ?」

「どっちもよ!話を戻して!」

「飛べもしない竜人族が完全無欠の神聖王しか読めなかった伝承を読めるだなんて、誰も信じてくれない」

「あぁ…」

「だから、神聖王の権威を傘に着ようとした虚言だと、弟に嵌められて断罪された。街中を引き回されて罵詈雑言と石の雨を浴び、海に流されたんだが、気がついたらここにいた」

「そう…」

「なぜ君が辛そうな顔をする?」

「まぁ、なんていうか、あたしも似たようなもんだからさ…」

「何があったんだ?」

「アンタに比べたら大したことないんだけど、あたしもアンタと同じで誰にも信じてもらえなかったんだ」

「そうか…」

「世間からは虚言癖のある頭のイカれた女だと思われたから、この城から出してもらえなかったの」

「軟禁状態だな…それで飛べる人と結婚するとか言っていたのか」

「あぁ、それはね、あたしに結婚を申し込んでくる輩がいっぱいいたから、そいつらを撃退するための口実よ」

「なるほど。理解した」

「そうしたら、ほんとに翼のあるアンタが現れたから利用しちゃった。ごめんね」

「構わない。一度は海の藻屑に消えた身だ。君の役に立つなら利用してくれ」

「そう…アンタのこと嫌いじゃないわ」

「光栄だな」

「ところで、飛べないのは、その翼を動かせないってこと?」

「翼を動かすことと、飛ぶこととは違うんだ。飛ぶためには体内の脈管を通して翼に風を送らなければならない…といっても理解できないだろうが…」

「風って心と身体から生まれる特殊なエネルギーのことでしょ?脈管はその通り道。伝承に書いてあったわ」

「話が早くて助かる。俺は翼に風を送ることができないんだ」

「なんだ、そんなことか。きっと脈管が詰まってるんだろうから、そこを解きほぐしてあげればいいだけじゃない?」

「簡単に言うが、神でもない限りそんなことは…」

「できるわよ。あたし」

「神!」

「大げさな…ねぇ、飛べるようになったら何がしたい?」

「そうだな…限界まで高く昇って真っ逆さまに落ちてみたい。竜人族がよくやる遊びだ」

「楽しそうね!他には?」

「んー、やはり、世界中を巡ってみたいかな」

「いいわね!あたしも世界中を旅してみたいな…よし!じゃぁ、とりあえず全身の脈管を診るわ」

「そんな神業、誰から教えてもらったんだ!?」

「伝承にやり方が書いてあったからね。他にもいろいろ。おかげで魔女って呼ばれてるけど」

「俺からすれば天女だ。よろしく頼む!」

「任せなさいって!ふむふむ…なるほどね…角のチャクラって変わった形してるのね。それになんか爆発しそなんだけど。竜人族ってみんなこうなの?」

「知らん。普通、チャクラを診てもらうことなんてないからな」

「それもそっか…続けるわよ…ほうほう…」

「くすぐったいな」

「我慢して…ここがこうなって…あれ?」

「どうした?」

「ない」

「何がだ?」

「脈管が、ない。翼に…」

「…な…い…」

「ごめんなさい…アンタを助けてあげるつもりが、残酷な現実を突きつけることになっちゃった…」

「いや、構わないさ。助けてくれようとしたこと自体がありがたい。飛べないことが分かって以来、ゴミ扱いされて誰一人手を差し伸べようとしてくれる人はいなかったのだから」

「そう…辛かったでしょうね…あぁ!幻の飛空石が実在すればいいのに!」

「飛空石?ここにあるぞ」

「は?」

「これだ」

「それを早く言いなさいよ!」

「待て待て。飛空とは名ばかりのただの石だぞ。ダミニェン大陸じゃ、そこらへんの道端でたまに見つかるやつだ」

「飛空石で空を飛んだって伝承に出てくるのよ!」

「そうなのか?竜人族の間ではそんな話聞いたことがないな…」

「ちょっと待って!伝承を詳しく調べてみるから!飛べるかもしれない!」

「そんな都合よ…」

「あった!」

「…くいくか?普通…」

「竜人族の初代の王は飛空石を使って飛んだって書かれてる!」

「なんだと…」

「しかも、自分の翼で飛べなかったんだって!アンタと同じじゃん!ほらここ!」

「おどろいた…それで、飛空石で飛ぶ方法は…」

「んー…あ、あった…《飛空石を閃かせる》…え?どういうこと?」

「飛空石の潜在能力を開花させるとか?にしてもどうすればいいかわからんな」

「あ、初代竜人王が初めて飛空石で飛んだ時のことが書いてある。ここよ」

「…《飛ぶでもなく、飛ばざるでもなく、飛ぼうともせず、飛ぼうとせざるでもなし。そこに我はなく、ただ一心あるのみ》…」

「抽象的すぎてよくわからないわね…」

「…そうだな…」

「とりあえず、両手で飛空石を握って力込めてみたら?」

「わかった…ふん!…」

「ダメね」

「ダメだな」

「あ!わかった、詠唱よ!この言葉はきっと呪文なんだよ!唱えてみて!」

「《飛ぶでもなく、飛ばざるでもなく、飛ぼうともせず、飛ぼうとせざるでもなし。そこに我はなく、ただ一心あるのみ》」

「ダメね」

「ダメだな…やっぱりただの石ころだと思うぞ」

「諦めるのはまだ早いわ…装置が必要なのかも…」

「装置?」

「そう。伝承にはいろんな知識が書いてあるでしょ?それを応用していろんな道具を作ってみてるんだ。といっても材料が手に入らないから未完成のものばかりなんだけど」

「この部屋にある見たことのないものは、それか」

「うん。周りからはガラクタだとか子供のオモチャだとか怪しい魔術だとか言われてるけど…あたしにとっては、あたしがあたしであるための、大事な研究成果なんだよ…」

「そうか…ではその研究に期待するとしよう」

「うん!任せて!」

「うれしそうだな」

「そうかもね!」

それから彼女は俺のために、寝る間も惜しんで飛ぶための装置の開発に取り掛かってくれた。

「王女様、クソ・ヤロウ卿がお見えです」

「…はぁ…」

「いかがなさいますか?」

「…通すしか…ないわね…」

「どうした?急に具合が悪くなったようだが?」

「…別に…何でもないわ…」

「誰が来るんだ?」

「あたしと同い年の男。アンタは何があっても黙ってること、いいわね」

「ふむ…わかった」

「ヤロウ卿!困ります!勝手に入られては!」

バターン!

「王女、相変わらずガラクタ作りのお遊びに興じておられるのですか」

「遊びじゃない…」

「こんなゴミばかり作って何になるのです?」

「……」

「それにしても…あなたの顔と身体だけはいつ見ても最高ですねぇ…」

「んっ…触らないで…」

「俺と結婚しさえすれば、頭のイカれた王女もまだマシな人間だったんだと世の中の人も見直してくれるのに」

「あなたとは絶対に結婚なんてしない…」

「ところで、鳥の化け物を手に入れたとかいう話を聞きましたよ。あぁ、君がその化け物ですね?」

「彼は化け物じゃないわ!」

「あらあら、こんな胡散臭い排泄物以下のモノをそんなに気に入られたのですか。そんなだから頭のイカれた王女だと言われるんですよ」

「何しにきたの?用がないなら早く帰って」

「今日はいい加減あなたの考えを改めに来ました」

「はぁ?…」

「いや何、そこにいる気持ちの悪い鳥の化け物なんかよりも、俺の方が結婚相手に相応しいということを証明してあげようと思いましてね」

「何よ、それ…」

「そこの化け物と命を賭けて闘うのです」

「そんなこと!…」

「といっても私にとっては楽勝ですから、化け物の命だけが懸かっている、いや化け物が死ぬだけというのが正確なところですが」

「構わない」

「ちょ!アンタ!…」

「闘ってやろう」

「ふ…ふはははは!身の程知らずも甚だしい、まさに鳥の脳みそですね!では、明日、この地図の場所で待ってますよ」


言いながら、クソ・ヤロウは地図を俺に投げつけて帰っていった。


「なんで勝負を受けちゃったのよ!黙っててって言ったじゃない!」

「つい口が滑っただけだ。そんなに大きな問題か?」

「あいつは、この国の軍事も経済もすべて手にしてる全権宰相よ。アンタ何されるかわからないわ」

「あの若さできわめて優秀なんだな」

「それに…この国最強の戦士なのよ…」

「ほぅ…これは面白くなってきたじゃないか」


翌日、言うことを聞かずに付いてきた王女と俺は、指示された場所にやってきた。


「こんな断崖絶壁…」

「落ちたら一巻の終わりだな」

「おやおや、お早いお着きで。王女まで来られたのですか」

「当たり前じゃない!」

「仕方ありませんね。まぁいいでしょう。早速始めましょうか」

「わかった」

「おや?武器をお忘れですよ」

「武器は必要ない」

「ほぅ。鳥の化け物らしく飛んで攻撃して頂いても結構です。もちろん、この勝負から飛んで逃げてもらっても構いませんよ」

「飛ぶ必要もない。そもそも飛べないからな」

「飛べない?鳥の化け物なのに?ふははは!こりゃ傑作だ!鳥でもなく人でもない、ただの出来損ないの化け物ですね!」

言いながら、クソ・ヤロウは剣で斬りかかってくる。
まぁ、確かに、身のこなしといい、スピードといい、この国最強と言われるだけはある。

「そうだな。お前の言うとおり、俺はただの出来損ないだ」

「躱してばかりじゃ勝てませんよ!」

「ひとつ、お前は勘違いをしている」

「ほぅ。何です?」

「俺は鳥の出来損ないじゃない」

瞬時にクソ・ヤロウの剣を叩き落とすと同時に首を掴んで絞め上げる。

「ぅぐっ…ぐぇ…」

片手で首を絞めたまま身体を持ち上げてやった。
そして、こいつの勘違いを正してやる。

「竜の出来損ないだ」

「ぅぅぅ…」

「身の程知らずはお前の方だったようだ。負けを認めるか?」

「…ぉ、おれの…負けだ…」

「彼女に謝れ。彼女の研究をゴミだと言い、その汚い手で彼女に触れたことを」

「…す…すまない…」

「言葉遣いがなってないな」

「も、申し訳ございませんでした…」

「人間族はそんなに高い頭の位置から謝るのか?」

「ぼ、ぼうじわげございまぜんでじだ…」

「声が小さいな」

「ぼうじわげございまぜんでじだ!」

「去れ」

「はひぃ…」


クソ・ヤロウは這いつくばりながら向こうへ行った。


「アンタ…こんなに強かったの!?」

「飛べない代わりに、武術や体術を極めようとしたから…」


と言いかけたところで、突然足元が揺らぎ、地面が崩壊した。


「きゃぁ!!」


俺は彼女の手を掴み、反対の手で崖にしがみついた。


「ぶぁははは!バカめが!万一のために仕掛をしておいたんだ!奈落に落ちてしまえ!」


クソ・ヤロウの遠吠えだけはよく響く。

とにかく王女を助けなければ。


「大丈夫か?」

「あたしの手を離して!アンタだけなら這い上がれるでしょ!」

「俺は出来損ないだが君よりも頑丈な竜人族だ。君を守ろう」

…俺が下敷きになれば、彼女はなんとか助かるだろう

…飛べようが飛べまいが最期に君だけは守りたい

…ありがとう


しがみついていた崖が崩れる。


ドォーン!


「え!?アンタ!」

「…浮いてる…」

「すごい!やったじゃない!」

「角がすごく熱い」

「角めっちゃ光ってるよ!飛空石も!」

「宴会でもしたい気分だが、今はそれどころではないな。決着をつけないと」


なぜ浮いたのかわからないが、崖の上まで浮上する。


「ふふ…これであの二人は死んだな…王女の身体は弄んでやりたかったが、まぁいい…あの卑しい化け物が王女を殺したことにして…」

「ほぅ。どこまでも救いようのない奴だな」

「え…な、なん…だと…」

「だが、お前のおかげで飛べるようになった。それに雷を操れるようにもなったらしい。お礼に一発見舞ってやろう」


ドォーン!!


「ひぇぇ!」

「遠慮して避けなくていいんだぞ」

「ぼうじばげございまぜんでじだあ!」

「お前の言葉は信用できない。竜人族ならば自分の角を折って差し出すべきところだ。お前は身体のどこを差し出すんだ?耳でも切り取って差し出すか?」

「ひぃぃ…」

「あるいは両手か?両足か?」

「そ、それだけは…」

「ふむ。では身体を差し出させるのはやめておこう。その代わり、今後、俺が言うものは何でも差し出せ」

「そんな無茶な…」

「別に今すぐ両手、両足、両耳、両のつく身体の部分をすべてもぎ取ってもいいんだが…」

「わ、わがりまじだ…身体以外なら何でも差し上げまず…」

「そうか。もし言う通りにしないなら…」


ドォーン!!


「わかるな?」

「びぃぃ!いゔどぼりにじまず!」


クソ・ヤロウは、涙やら鼻水やら変な液体やらにまみれながら退散していった。


………


俺と彼女は浮いた状況を分析することにした。


「一応飛べはするが…」

「なんか、飛ぶというより、浮くって感じね…」

「この浮力はこの飛空石から生まれてるんだよな…」

「たぶんね…それって道端に落ちてたただの石だったんでしょ?なんでチョーカーにしてたの?」

「俺が飛べないことが発覚して誰一人見向きもしなくなった中、ただ一人、真っ直ぐに向き合ってくれた奴がいてな。そいつがくれた石なんだ」

「…ふぅん…」

「どうした?」

「それって女でしょ…」

「ん?なぜ分かった?」

「女の勘よ…その人、かわいかった?」

「そうだな…竜人族じゃ一番かわいかったんじゃないか」

「ふ、ふぅん…」

「あの屈託のない笑顔は今も俺の心を温かくしてくれる」

「そ、そう…」

「無垢な優しさを教えられたんだ。小さな女の子に」

「ん?」

「それを忘れないためにこの飛空石をチョーカーにした」

「ちょっと待って!小さな女の子?」

「あぁ、3歳くらいかな」

「え?一番かわいいって…」

「小さな子はひとりひとり皆一番だ」

「なーんだ…よかった…」

「ん?何だと思ったんだ?」

「別に、何でもないわよ。念のために聞くけど…幼女趣味じゃ…ないわよね?」

「幼女趣味はないな」

「ならいいわ。それにしても、その飛空石をくれた女の子のおかげね」

「そうだな。名前も知らない、道端で遊んでいたその子の優しさがなければ、今はない」

「その大事な飛空石貸してもらってもいい?」

「君にならいいぞ。どうするんだ?」

「アンタから離れても浮力は維持されてる…この浮力、もしかしたら増幅させられるかも…」

「期待してるぞ。君の研究に」

「知ってる!」


それから彼女は寝る間も惜しんで研究を進めている。

それにしても本当に楽しそうだ。


「んー、材料が足りないな…」

「どんな材料だ?」

「えーと、これとこんなのとあんなの」

「なるほど…少し出かけてくる」

「どこに?」

「散歩だ」


俺がやってきたのは目抜き通りでやたらと目立つ豪邸だ。

門番に話しかける。


「クソ・ヤロウ卿と面会したいのだが」

「はぁ?なんだお前?胡散臭い奴だな」

「化け物が来たと伝えてくれればわかる」

「ふはは!なんだよその角!?」

バチッ!!

「あばばばばばばばば!」

「クソ・ヤロウ卿に取り次いでくれるか?」

「ひぃぃ、今すぐ!」


門番が取次に行くと、クソ・ヤロウが大慌てでやってきた。


「ご無礼を申し訳ございませんでした!」

「まぁいい。このリストにあるものを用意してくれ」

「こ、これはちょっと難…」


ドォーン!

ほんの少しだけ雷を落としてやる。


「し、死力を尽ぐじで取り寄ぜまずぅ!」

「よろしく。とりあえず今すぐ用意できるものはすぐに持ってきてくれ」

「はぃぃ!」


言って、クソ・ヤロウは求めているものをすぐに用意して俺のところを持ってきたので、それを王女に渡す。


「君の言っていた足りないものだ」

「ありがとー!!これでなんとか試作品ができるはずよ!!」


それからの彼女はそれまで以上に目を輝かせていた。


「よし!完成したわ!名づけて飛空挺よ!」

「どうやって使うんだ?」

「あたしが後ろに座るから、アンタが前に座って、飛空石をここにセットして、ハンドルを握って、ゔぅーん!ってやってみて!」

「ゔぅーんって…適当だな…」

「いいからいいから、やってみて!」

「いくぞ!」


ゔぅーん!!とやると、飛空艇がゆっくり浮上し、ハンドルを前に倒すと加速して滑空した。


「うわぁ!やったー!!飛んだよ!!飛んだ!!」

「すごいな!これが飛ぶということか!!」

「ねぇ!このまま飛んで行こうよ!」

「どこへでも行こう!君の望みは?」

「アンタと結婚!」

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みんなの感想(1件)

dragon.9
2024.04.04 dragon.9

こうして
初代の能力をもつ最強すぎる龍人(元)王子

天才発明職人なシゴデキ(仕事出来すぎ)王女
とゆう
最強で最凶の
向かうところ敵無し

カップル(バカップル)が爆誕したのであった。(笑)

面白かった😂
シリーズ化してほしいくらい
( ゚д゚)ホスィ…

「~大陸編」とか
2人をバカにしたヤツらへの
愉快で盛大なざまぁwwww旅編
とか
生まれ変わりとまではいかなくても
初代カップルのなにかしらのカケラが2人に、、とか、

閃いたときにでも
よろしくお願いいたします!

解除
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