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第四世代

凛編 泣き顔

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新暦〇〇四十年二月三日



だが、『生きる』ってのは本当に思いがけないことの連続だ。

いや、いずれそうなることは覚悟していたし、わきまえていた。これまでにも何度もあったことだしな。と言うか、『そういうもの』のはずなんだ。

<野生に生きるもの>

ってのは。

分かりやすく弱ってたらそれこそ狙われるわけで。だから弱ってることを悟られないようにするのが多いようだ。

などとこれまでにも語ってきたようなのをこうして改めて語るってのは、まあ、そういうことだよ……

本来のフィクションならもっと丁寧に<前振り>をするんだとしても、現実にはそんな前振りは存在しない。前兆はあったとしても、予兆はあったとしても、実際にはいつだって突然だ……

今日の昼頃、そうが息を引き取ったんだ。しんと同じように、眠ったままで、本当に静かに。

そうが息を引き取りました」

エレクシアがこれまでと同じように静かに淡々と告げた。だから俺も、

「そうか……」

静かに応える。彼の衰えを見ていたことで、しんの件があったことで、ある程度は具体的な心構えもできていたからだ。

つらいのはつらい。これまでにも何人も見送ってきたとはいえ、やはり慣れてしまえるようなことじゃない。なにしろ<我が子>だからな。親として自分の子供に先に逝かれるのは苦しいよ。

でも、そんな俺よりもはっきりとした感情を見せてる者がいた。

「ウォオオオオ~ンン、オオォオォォォ~!」

かいだった。かいが、ほんまいが亡くなった時と同じように、いや、もしかするとその時以上に悲し気に遠吠えを上げていたんだ。

そうの遺体の傍らで。そしてそうの遺体を抱きしめていたのは、けいだった。そうの一人目のパートナーの。

けいは、かいのように声を上げたりはしなかったが、自身に最後まで添い遂げてくれた<パートナー>をしっかりと抱きしめて真っ直ぐに見つめていた。涙こそは見せていないものの、俺にはそれが<泣き顔>に見えた。それだけ彼のことを愛してくれていたんだと感じる。

人間(地球人)のように分かりやすい愛情表現などは見せないかもしれないが、愛する人の亡骸に縋って嗚咽を漏らしたりはしないが、レオンにはそんな習性はないが、だからこそ強い感情がそこに押し込められているような気さえする。

他の<仲間>達もどこか悲しげだった。突然の<ボスの死>に戸惑ってもいるようだった。

そうだ。そうは、今なお<現役のボス>だった。つまり、それだけの力もまだあったんだ。あったはずなんだ。にも拘らず……

だがこれは同時に、

『ボスの座を譲らないままで』

という意味でもある。

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