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第四世代

彗編 血生臭い世界

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新暦〇〇三八年一月十四日



とにかく、<価値観の違い>というものはとても大きな要素なんだ。こちらではどんなに血生臭い出来事であっても、生き物を叩き潰して血糊に変えようと、首や胴や手足をちぎってその場で食おうと、それ自体がどこまでも<日常>でしかないから、いちいち動揺してても意味がない。

共食いをする種なら、それこそ同種が相手でも容赦はないわけで。

同種でなくても、人間に近い姿を持ち、遺伝子上も地球人のそれを受け継いでるパパニアン辺りがマンティアンやパルディアやアクシーズに襲われて惨殺されて食われる光景は、

<センシティブなそれ>

だな。俺も詳細な描写は自重したいと思うくらいには。

でもな、それすらやっぱり<日常の光景>なんだよ。彼ら彼女らはそれをいちいち気にしたりしない。

そして、地球人とほぼ同じ姿を持つひかりあかりも、本質的にはほぼ同じ。俺の下で育ち俺やシモーヌの影響を受けているからこそ、人間としての感覚も持ち合わせているだけでしかない。

だがこれは同時に、

『地球人でさえ、親の接し方ひとつでおよそ<人間>とは思えないような感覚を持った者に育つ可能性がある』

ことも示してるんだろうな。

『紛争地域に育ち、物心ついた頃から人間同士が殺し合うのが当たり前の環境で、親をはじめとした大人達のそういう振る舞いを見て育った子供が少年兵として当たり前のように無邪気なまでに簡単に人を殺す』

なんてことがあっても当然ということだ。

だからこそ、俺は<親>として自覚を持たなきゃいけないと感じるんだよ。

今、俺が育てている錬慈れんじは、あくまで人間だ。<人間以外の獣>じゃない。人間として人間社会に生きるための振る舞いを学んでもらわなきゃいけない。

だったら、いい加減なことをしてていいわけないよな。

ましてや、

『暴力で支配する』

だの、言語道断。

だいたい、『暴力で支配する』ってヤツは、『他人の所為』『社会の所為』にする人間を育てるってこと以外の何ものでもない。

だってそうだろう? 暴力で支配されてきた人間は、

『自分もそうされてきたから』

ってことで同じようにしようとする傾向が強くないか? そして、『自分もそうされてきたから』というのは、典型的な『他人の所為』『社会の所為』にする考え方だよな?

そうやって自分を正当化しようとするんだからな。

<自分で考えるってことができない人間を育てる近道>

とさえ言えるくらいだと感じるね。

だからこそ俺はそんなことをしたくないんだ。

この血生臭い世界であっても、<野生の獣>じゃなく<人間>として生きるなら、わきまえるべき部分があるはずなんだよ。

そんな中で一歳を迎えた錬慈れんじにも、それは分かってもらいたいと思う。

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