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第四世代

彗編 蓮華

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新暦〇〇三七年十月二十六日



<先祖返りを起こしたパパニアンの赤ん坊>が亡くなってから四十八時間以上が経過し、やはり蘇生はしなかったことで、完全に不可逆的な変化が起こってるのが確認されたことで、イレーネが掘ってくれた墓穴に埋葬することになった。

その赤ん坊の名前は、

蓮華れんげ

しんの子で死産だったれんと同じく、俺の名の<れんぜ>から付けたものだ。ほんの一時いっときでも俺達と関わって生きたんだから、名前くらいあってもいいだろう?

もちろんそれはただのセンチメンタリズムだというのも分かってる。名前なんかあってもなくてもこの子には関係ないだろう。だがこういうのも結局、生きている側が自分を納得させるためにするためのものだっていうのも事実だと思うんだ。これにより自分の気持ちに踏ん切りをつけるっていうな。

これまでにも何度も言ってきたことだと思うが、今回、改めて実感させられたよ。

蓮華れんげを埋葬し、簡単とはいえ<弔いの儀式>を経て、俺は自分自身に、

『やることはやった』

と言い聞かせる。言い聞かせるためのアリバイ作りにはなったよな。

でも、

「助けてやりたかったよな……」

腕に抱いた錬慈れんじの命を感じつつ、ついそう口にしてしまう。錬慈れんじは生きられて、蓮華れんげは生きられなかった……

別に『誰が悪い』というわけじゃないが、厳然たる事実としてそんな違いが生じてしまうのも確かだ。

「けれど、これからも助けようとはするんだよね? お父さん」

萌花ほのかを抱いたひかりに問われ、

「もちろんだ。可能な限りは助ける」

ときっぱりと口にした。そうやって救えた命が、<朋群ほうむ人>として生きていくことになるということだよな。そして朋群ほうむ人達が生きていけるための仕組みを、俺達は作っていかなきゃいけない。

命を助けるだけ助けておいて、

『後はお前達で勝手に生きろ』

というのもさすがに無責任に過ぎるだろう。

そうだ。親として、人間の子供をこの世に送り出すのも同じだ。一方的にこの世に送り出しておいて『後はお前達で勝手に生きろ』は、あんまりにもあんまりだろ。野生の生き物ならそれもありとしても、仮にも<人間>を称するのならな。

だから俺は改めて錬慈れんじが自分の力で生きていけるようになるまでは俺の責任において育てていかなきゃなと思ったよ。

蓮華れんげ……これで許してくれるか……?

いや、許す許さないじゃないな。蓮華れんげにしてみりゃ何が何だか分からないままに命を落としたんだしな。

だがこれが、

『人間として生きる』

ということなんだろうな。この気持ちを背負って生きるんだ。

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