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第四世代
玲編 惨敗
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圧倒的な力の差を思い知らされたであろう龍準は、全力での<逃げ>に転じた。誉達の縄張りの外へと向かって。そうなればもうメイフェアに彼を追う理由もない。彼女にとっては、誉と、誉が穏やかに生きられる環境さえ守れればそれでいいのだから。
それに、この時の龍準の逃げ方からすると、もうメイフェアには近付かないだろう。なら、それで十分だ。
そして、戦闘モードを解除して龍準に埋め込まれたチップが放つ信号を受信しつつ見送るメイフェアを、誉が近くの木の枝から見ていた。仲間と一緒に餌を得るために来ていたようだ。
「誉様……」
振り返って視線を向けた彼女を労うように、誉が手を振っていたのだった。
とまあ、<対メイフェア>については完全な惨敗だった龍準だが、誉の群れの縄張りを出たと同時に、明の縄張りからも出て行った。さらに、俺達の早期警戒網の外に出て行く。
そうして、遂にはチップの信号も捉えられなくなった。
様々な影響も考えてあまり強い信号を出してるわけじゃないチップだったので、有効範囲は半径二キロ程度だ。しかし、早期警戒網として配置しているドローンやドーベルマンDK-aが受信できればそれでいいし、十分に役に立ってくれる。
「このまま離れたところで縄張りを確保してくれればいいんだけどな」
「そうね」
俺とシモーヌがそう会話を交わしている傍らで、光が、明と玲と鋭に絵本を読んであげていた。今回は、
<三匹の山羊のブルーセと腹をすかしたトロル>
だな。これも古い民話を基にした絵本だ。
『ある山に、三匹の山羊がいました。三匹は、角もまだ生えてない小さい山羊と、まだあまり大きくない角を持った中くらいの山羊と、とても立派な大きな角を持った大きな山羊で、みんなブルーセという名前でした。
その三匹の山羊のブルーセは、たくさんの草を食べて太って寒い冬を乗り切ろうと山を目指しました。
けれど、その山に向かうための丸太橋の下にはトロルが住み着いていて、丸太橋を通ろうとする山羊や動物達を丸呑みにしていました。やがて山羊達も他の動物達もトロルを恐れてその丸太橋を使わなくなり、トロルも腹をすかせていました。
するとそこに三匹の山羊のブルーセが来て、小さい山羊のブルーセから順に丸太橋を渡り始めます。途端にトロルは、
「お前を一飲みにしてやろう!」
小さい山羊のブルーセに言ったのです。それに驚いた小さな山羊のブルーセですが、
「僕はこんなに小さくてやせっぽちで、食べてもおなかは膨れませんよ。あとから僕よりは大きな山羊が来ますから、そっちを食べた方がいいですよ」
と告げたのでした』
それに、この時の龍準の逃げ方からすると、もうメイフェアには近付かないだろう。なら、それで十分だ。
そして、戦闘モードを解除して龍準に埋め込まれたチップが放つ信号を受信しつつ見送るメイフェアを、誉が近くの木の枝から見ていた。仲間と一緒に餌を得るために来ていたようだ。
「誉様……」
振り返って視線を向けた彼女を労うように、誉が手を振っていたのだった。
とまあ、<対メイフェア>については完全な惨敗だった龍準だが、誉の群れの縄張りを出たと同時に、明の縄張りからも出て行った。さらに、俺達の早期警戒網の外に出て行く。
そうして、遂にはチップの信号も捉えられなくなった。
様々な影響も考えてあまり強い信号を出してるわけじゃないチップだったので、有効範囲は半径二キロ程度だ。しかし、早期警戒網として配置しているドローンやドーベルマンDK-aが受信できればそれでいいし、十分に役に立ってくれる。
「このまま離れたところで縄張りを確保してくれればいいんだけどな」
「そうね」
俺とシモーヌがそう会話を交わしている傍らで、光が、明と玲と鋭に絵本を読んであげていた。今回は、
<三匹の山羊のブルーセと腹をすかしたトロル>
だな。これも古い民話を基にした絵本だ。
『ある山に、三匹の山羊がいました。三匹は、角もまだ生えてない小さい山羊と、まだあまり大きくない角を持った中くらいの山羊と、とても立派な大きな角を持った大きな山羊で、みんなブルーセという名前でした。
その三匹の山羊のブルーセは、たくさんの草を食べて太って寒い冬を乗り切ろうと山を目指しました。
けれど、その山に向かうための丸太橋の下にはトロルが住み着いていて、丸太橋を通ろうとする山羊や動物達を丸呑みにしていました。やがて山羊達も他の動物達もトロルを恐れてその丸太橋を使わなくなり、トロルも腹をすかせていました。
するとそこに三匹の山羊のブルーセが来て、小さい山羊のブルーセから順に丸太橋を渡り始めます。途端にトロルは、
「お前を一飲みにしてやろう!」
小さい山羊のブルーセに言ったのです。それに驚いた小さな山羊のブルーセですが、
「僕はこんなに小さくてやせっぽちで、食べてもおなかは膨れませんよ。あとから僕よりは大きな山羊が来ますから、そっちを食べた方がいいですよ」
と告げたのでした』
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