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第三世代

灯編 シモーヌの提案

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『アラニーズであるビアンカの子供達も、同じように共食いをする可能性が否定できない』

「……」

その場にいた者はみんな薄々察してはいたが、シモーヌに具体的に言葉にされると、さすがに緊張が奔った。

そうだ、ヒト蜘蛛アラクネは、卵胎生により母親の体内で卵から孵るが、その瞬間から、兄弟姉妹同士で共食いを始め、生き残った者が外へと出てくる。

そういう生態なんだ。これは、地球の生物でもサメの一部などにも見られるものらしい。だから決して、ヒト蜘蛛アラクネだけの特殊な生態じゃない。

つまり、ばんも、ばんを倒した若いヒト蜘蛛アラクネも、母親の体内にいる頃からすでにそういう厳しい生存競争を生き延びた個体だということだ。

しかし、ビアンカの子が共食いをする光景を見たいとは、さすがに思えないな……

だから、

「だから私は、孵卵器を用意して、卵のうちに一人一人個別に保護するべきだと思う」

シモーヌの提案に反対する者はいなかった。

確かに、ヒト蜘蛛アラクネの場合はそれがもう種として延々と繰り返されてきた生態だ。今さら干渉するのも違うと思うし、そもそも当のヒト蜘蛛アラクネ達自身がその生態に対して疑問を抱いていない。

一方、最初のアラニーズとしてここにいるビアンカがそれを受け入れられなくても当然だし、俺達だって、他に手立てがないなら受け入れるしかないものの、シモーヌの提案は別に何も難しいものでもない。何しろ、その<孵卵器>自体、元々コーネリアス号に準備されてるものだからな。

原生生物を発見した際にそれを研究観察するために必要かもしれないとして用意されていたんだ。

しかもその孵卵器、万が一コーネリアス号内で子供が生まれてその子が<低出生体重児>だったりした場合には<保育器>にも転用できるという仕様だった。これも、セシリアがメンテナンスしてくれて万全の状態に戻っている。

「正直なところ、上手くいく保証はない。卵胎生で母親の体内で孵化する生態を持っている生物を卵の状態で取り出して孵卵器に移してそれで無事に育つ保証は全くない。同時に、ヒト蜘蛛アラクネが共食いをするからといってアラニーズも同じだとは限らない。なにしろビアンカにはそういう衝動がないからね」

「確かに」

そうだ。アラニーズであるビアンカには、ヒト蜘蛛アラクネほどの攻撃性そのものがない。だが……

「でもそれはあくまで、<ビアンカとしての人格>があるからという可能性も高いというのも事実。なにしろ、人間性を取り戻す前のビアンカは、普通に野生の猛獣と変わらなかったしね」

<人間としての理性>が、ヒト蜘蛛アラクネに準じたアラニーズの攻撃性を抑制してるってことだな。

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