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第三世代

ビアンカ編 悪童

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新暦〇〇三四年五月二十九日



こうしてビアンカの妊娠が確定し、いよいよ<ビアンカ妊娠・出産計画>は次の段階へと進んだ。ここからは妊娠が継続されるように注意を払う必要がある。

とは言え、こればっかりはいくら妊婦自身が気を付けていても駄目なときは駄目だったりするらしいからな。見守るしかない。

しかし、周囲の心配を余所に、胎児は実に順調に成長してくれた。ただ、その間、<悪阻つわり>はなかなかに厳しかったそうだ。

「大丈夫……?」

川で嘔吐するビアンカの背中を、ルコアがさする。

「ああ、うん。『大丈夫』とは言い難いけど、まあ、こんなものなんだろうね……」

さすがのビアンカも、悪阻には勝てないか。人間(地球人)社会では悪阻を抑える方法もあるものの、ここには、な。

それでも、彼女は、未来みらいの力比べに応じてくれるし、その場にいるだけとはいえ、素戔嗚すさのおがドーベルマンMPMに挑むのを見守ってもくれている。すると、今ではもうヘルメットもゴーグルも着けておらずいきなり吐いたビアンカの様子に、素戔嗚すさのおは手を止めて、

「く~ん……」

と、不安そうな声を上げつつビアンカを見つめた。その姿には、かつての『凶暴さ』は微塵も見て取れない。彼がいかにビアンカに懐いているか、粗暴にも思える性質の中にも、気を許した仲間に対する気遣いもちゃんと持ち合わせてるんだというのが伝わってくる。

粗暴な一面だけで彼のすべてを分かった気になるというのは、ただの思い上がりだと改めて実感する。彼は単に、自身の中に湧き上がる衝動のやり場を見付けられずに戸惑っていただけなんだ。

その事実から目を背けて放置していると、どんどん対応が難しくなっていくんだろうな。

さりとて、普通のレオンにはそのためのノウハウもないし、<自分達で対処できない特異な個体>については、放逐するか殺すかしかないというのも事実だと思う。あくまで俺達には、今の彼に対処できる力やノウハウがあるというだけだ。だから、彼に対処してくれなかったレオンの群れを責めるつもりもない。

素戔嗚すさのおに攻撃の意思が見えなかったことから、ドーベルマンMPMを下がらせると、彼は、涙を流しながら「はあはあ」と荒い息をするビアンカに近付いて、また、

「く~ん……」

と声を上げた。普段は乱暴者で嫌われがちな<悪童>が意外な一面を見せたかのようなそれに、なんだか気持ちが和んでしまう。

「心配してくれてるんだね。ありがとう、素戔嗚すさのお。優しいね……」

口を拭いながらビアンカが微笑みかけると、素戔嗚すさのおは、ビアンカの頬をペロリと舐めてくれた。人間(地球人)なら吐瀉物がついてるかもしれない今の彼女の頬を舐めるとかできないだろうが、レオンである彼は、そんなこと気にしないからな。

ただし、骨に付いた肉まで削ぎ落して舐め取るための舌はヤスリのようにザラザラしていて、あまり舐められると皮膚が傷付くから、注意が必要ではある。

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