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第三世代

モニカとハートマン編 悪手

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あんとのコミュニケーションが自身の望んだ結果に終わらず、ルコアは少し寂しそうだった。それでも、

「ルコア様。時間はたっぷりとあります。焦ることはありません。少しずつ慣れていくことが大事です」

モニカがそう言ってくれると、

「あ…うん。そうだよね」

少しだけ笑顔になってくれた。

モニカの言うとおりだ。焦ってことを急いでも、大体、ロクなことにはならない。大事なのは、確実に段階を踏むことだ。

仕事だってそうだろう? 

『土台も固めずに先を急いで結果を出そうとして結局は無駄な労力を費やすだけに終わる』

なんてのは有史以来枚挙に暇もないくらいのありふれた失敗だ。

だったらその先例から学んで対処するのは当然じゃないか?

俺達のルコアへの対処もそうだし、ルコアがあんと距離を縮めるにも結局はそれが<肝>だ。

人間同士でさえ相手がすべて自分の思い通りになってくれることなんてないんだから、ましてや野生の生き物が相手ならそれこそ当然だ。

そういうことについて、少しばかり先に生まれて経験を積んできてる方が<手本>を示さなきゃ、経験が不足してる方はそれこそ学びようがないじゃないか。<学ぶ側の姿勢>云々以前に、<学ぶべき手本>がなきゃ話にならないだろう?

だから俺はそれを心掛けてるだけでしかない。

ルコアのことを長い目で見守るのも、そういうことだ。焦らなくていい。自分の思い通りにならないからって感情的にならなくていい。いくら感情的になったところで問題は解決しない。自分の思い通りにならないくらいで感情的になるのは稚拙というものだ。

俺ももう、百六十年ばかり生きてきた。それが、本人の感覚では十年ちょっと、<サーペンティアンのルコア>としてなら半年程度しか生きてない子供相手にいちいちキレててどうする。

ビアンカだって、俺よりは遥かに若いが、具体的な年齢について触れるのはマナー違反だから触れないが、まあ百年近くは生きてきたらしいからな。オリジナルの方は。

老化抑制処置を受けていない、そして、体のサイズ的に、ひかりあかりのように治療カプセルに入ってリフレッシュすることができないルコアは、今の時点では、残り五十年くらいが寿命と推測されている。

そんな彼女にきつく当たるというのは、違うんじゃないかな。

そして、あんがすぐに自分と仲良くなってくれないからとルコアがキレるのも違うだろう。そこでキレてもあんはルコアを信頼などしてくれない。認めてくれない。一方的に自分の都合を相手に押し付けるのは<悪手>なんだ。

ルコアにも、それを理解してもらわないとな。

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