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新世代

翔編 中の世界 その7

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『この世界で生きていくにはこれからどうするか?』

レックスはそれを考えていた。たとえあちらの世界で肉体的には死んでいたとしても、自分達はこの世界でしっかりと思考し、人格も持ち、感情も備えてる。だから、ある意味では、

『この世界に生まれついた』

として捉えて、生きていくことを考えてた。

そしてそれは、シモーヌも同じだった。

なにしろ彼女のお腹は時間を経るごとに大きくなって母乳さえ出始めたから。

「死ぬことはないのに生まれてはこれるのか…」

臨月を迎えて肉割れさえ起こしているシモーヌのお腹に触れながら、彼は愛おしそうに見詰めてた。

「ホントに不思議だよね。でも、この子は確かに私の胎内なかで生きてるっていう実感はすごくある。その点では、相堂しょうどうの気持ちも分かる気はするかな……」

相堂しょうどうのことが苦手なのは変わらないけど、彼女はそんな風にも思えるようになってた。

ただ、彼はもういない。正確には、彼女達のコミュニティの中には。

この世界に対するスタンスの違いはもう修復不可能なところまで食い違ってしまっていて、互いに大きなストレスになってしまっていた、だからそれを解消するために、十一人が新しいコミュニティを作ろうと、ここを出て行った。

その中には、久利生くりうもいた。

久利生くりう自身は、レックスやシモーヌとそれほど意見は違わなかったけど、相堂しょうどう達を見捨てることはできないとして、ついて行ったんだ。

ビアンカは久利生くりうを慕っていたから彼についていくことにしたそうだ。シモーヌとの関係は良好だったんだけど。でも、彼女はこちらとあちらのコミュニティの交流役としてちょくちょく顔を出してくれてたな。最初のうちは。

こうして彼女達は、私が知る限りでは最終的に三つのコミュニティに分裂することになった。子供も生まれ人数が増えたことでやはり意見の食い違いも出てきたから。

なお、絶食で自死を図ったクラレスは、相堂しょうどう達と行動を共にしているらしい。自分があれこれ考える暇も与えずぐいぐいと引っ張っていってくれることで救われたみたいね。

そして、シモーヌは、レックスや他の仲間の助けも借りて、女の子を、瑠衣るいを産んだ。

この世界では死ぬことはないと言っても、それでも自分達がかつて生きていた人間社会のような整った医療体制のないそこでの出産は、死を覚悟させられるほどのものだった。だからこそ、

「ああ……私の赤ちゃん……ありがとう、生まれてきてくれてありがとう……」

って……

そんなシモーヌに寄り添いながら、レックスも目を潤ませてた。

彼女達は確かにその世界で生きてたんだ。



とまあ、特に印象的で記憶にはっきりと残っているのはこんな感じ。

本当にただ人間としての日々を過ごしてただけ。

それ以外についてはホント限られたことしか印象に残ってないんだよね。

もしかするとこれも、今の体に生まれついたことによる記憶の齟齬かもしれないけれど……

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