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新世代

翔編 中の世界 その6

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『今の私達は、<シミュレーターの中の情報>、<データヒューマン>に過ぎないというわけだな……?』

レックスの推測に久利生くりうがそう応えて、『やっぱりな……』という空気がその場に広がった時、

「それがどうした! 俺達は現にこうして生きてる!」

と、すごい圧を感じる声を発した人がいた。

全員の視線を浴びながら拳を掲げたのは。

相堂しょうどう……」

相堂幸正しょうどうゆきまさ>。ビアンカと同じイオ方面軍所属で、ビアンカは第六十六空間騎兵隊から、相堂幸正しょうどうゆきまさは第二十三空間騎兵隊から、それぞれ惑星探査チームの警護のために出向してきた。

彼は圧と熱を感じる声で弁舌をぶった。

「いくら<データ>とか言われたって、俺にはそんな実感はまったくない!」

と言いながらガツンと拳で自分の頬を殴る。

「こうやって殴られりゃ痛えし腹も減る! クソだってする! 死人がメシ食うか!? クソするか!? しねえだろ!? だったら俺達は、今、この世界で生きてんだよ! 学者先生方の小難しい理屈なんざクソくらえだ! 俺は生きてる! それだけは譲れねえ!!」

って吼えるみたいに言って、どかっとその場に座り込んだ。赤い顔で、レックスを睨み付けてる。

正直、シモーヌは彼が苦手だった。惑星探査チームに配属されるくらいだから優秀なんだろうけど、熱血直情型で独善が過ぎる傾向があるって言うか……

ただ、そんな彼の手綱を久利生くりうはしっかりと握ってくれてたと思う。所属してた部隊は違っても、さすがは<少佐>。隊員の扱い方は慣れてるってことなんだろう。

相堂しょうどう、君の言いたいことも分かる。私だって自分がただのデータヒューマンだと言われてもまったく実感がない」

諭すように相堂幸正しょうどうゆきまさに対してそう言った後、レックスに向き直って、

「レックスも、私達が、現状、『自分が死んでいるという実感がない』という事実については否定していないし、『死んでいることを認めろ』とも言っていないんだ。あくまで、

『この世界で生きていくにあたって心掛けるべきこと』

について触れているだけだと私は感じている。そうだな、レックス?」

と問い掛けた。そんな久利生くりうに、レックスも、

「ああ、そうだ。

『何をもって生きているとするか?』

という哲学の話をするつもりは私はない。あくまでも、

『私達が元の世界に戻る術はおそらくない。だからこそこの世界で生きていくにはこれからどうするか?』

という点について考えたいだけなんだ。そして、この世界では、『死ぬ』ということがない。その事実と向き合っていかなければならなくなるだろう。

それを忘れないでほしいと思っているんだ」

そう冷静に応えたのだった。

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