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新世代

走・凱編 生きることと死ぬことが

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また余談が過ぎたが、とにかくかいのおかげでりんあんが救われたことには変わりない。

「……」

人間のように親し気に歓談するわけじゃないものの、落ち着いた表情でしばらく見詰め合った後、かいは黙って二人に背を向けて、去っていった。自分の仲間のところへ帰るために。

「……」

「……」

そんなかいの姿を、りんあんは見送った。りんは獲物をしっかりと抱き締めている。

かいの姿が見えなくなってから、りんあんも踵を返し帰路に就いた。

なお、今回はかいだったが、同じような形でそうが力を貸してくれることもある。二人にとってりんは、まだまだ半人前に見えてるのかもしれない。実際、ゆうを独占したいがためにハーレムを築くことを拒んでいる彼女は、野生として生きるための道理を理解してないとも言えるしな。

しかしこれは決してりんが愚かだということじゃないと思う。彼女のこれまでの生き方が大きく影響してると思うんだ。

成長してからもずっとあらたと一緒に俺達の<群れ>の中で暮らしてレオンとしての生き方を実地で学んでこなかったことが原因になってると思うんだ。

それについては彼女に俺の下で暮らすことを許してた俺にも責任があることだから、りんを一方的に責めるようなことはしたくない。これから学んでいてもらえればいい。

実際、そうかいけいが事あるごとにアドバイスもしてくれてるらしいし。

りんについてはこれから生き方を変えていくことは難しいかもしれなくても、あんほうろうがそこから学んでくれるかもしれない。それでいいと思う。

自分の生き方、選択が正解だったか失敗だったかは、本人が人生の終わりの時に判断することだろう。だから他人がとやかく言うことじゃないと俺は考えてる。たとえ親子であってもな。

他人に危害を加えるような真似をするなら放っておけなくても、そういうのでないのなら。

ふくの残してくれた子供達が、こうやってそれぞれの生を歩んでくれてる。俺はそれが誇らしい。完璧でなくても、失敗を重ねても、ただ自分の生に責任を持ってくれればそれでいいんだよ。

捕らえた獲物を持ち帰り、りん達は今日の食事にありつけた。獲物の命をいただき、自分の達の命を繋ぐ。

人間のように、

『いただきます』

『ごちそうさま』

とは口にしなくても、彼女達は感覚としてそれを持っていると思う。生と死が常に自分と共にあることを知っている。

そうも、かいも、そしてその家族達も、同じだ。

今日は生き延びられた。しかし、明日は自分が他の命の糧となるかもしれない。それが現実。生命の安全を保障され、生きていられるのが当たり前の人間とは違う。おそらく、生きることと死ぬことが一続きになっている毎日。

だから俺は彼女達が愛おしいんだ。

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