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ハーレム
ストーキング(思いっ切り狙われてるな)
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その日はコーネリアス号のキャビンで休み、翌日も一日、コーネリアス号の中を調べて回った。主機関も補機も完全に機能停止していて今の俺達では修理は無理だったことでやはり機能は限定的にしか回復できなかったが、別荘と言うには十分すぎるほどのものになったのは嬉しい誤算だった。
ただ、残されていた予備のバッテリーもさすがに二千年以上の時間を経ては劣化しきっていて、セシリアCQ202のバッテリーを交換することはできなかった。キャパシタだけの容量ではやはり半日程度しかもたない。無線給電が可能な範囲からあまり離れることができないのは残念なものの、彼女は元々人間の身の回りの世話をする為の機能だけを与えられた本来の意味のメイトギアだから、エレクシアのような使い方には向かない。拠点の維持管理をしてもらえればそれで十分だろう。
そして、コーネリアス号を発見してから三日目の朝、俺達は本来の拠点へと戻るべく準備を行っていた。何気なくエレクシアを見た時、俺は奇妙な違和感に囚われた。
『あれ、エレクシアってこんなデザインだったっけ…?』
交換用の部品はないのだから別に変っていない筈なのに彼女のデザインが微妙に変わったように見えて戸惑ってしまう。ゲシュタルト崩壊ってやつだろうか。
と、その時、彼女が声を発した。
「マスター。十時の方向に新たな生物の存在を確認しました」
言われてそちらを見るが、何も見えない。見えないが、彼女がそう言うんだからいるんだろう。俺は、違和感のことはひとまず置いてそちらに意識を向けることにした。
「こちらの様子を窺っています。距離は約五十メートル。地面に伏せて身を隠しながらも徐々に近付いています。完全に私達を獲物として狙っていますね。ネコ科の動物の狩りの仕方に非常に似ています」
なるほど。ストーキングか。
するとエレクシアがさらに付け加えた。
「スキャン完了。また人型生物です」
「またか。結構な種類がいるんだな」
俺もつい応えてしまう。サル、カマキリ、鳥、ワニの次はヒョウってところか? しかしこれだけの数がいて、セシリアCQ202は見たことがないのか。念の為に改めて問う。
「セシリアCQ202、あの生物に心当たりはあるか?」
俺の問いにセシリアCQ202は首を横に振るしかできなかった。
「分かりません。私達が不時着し、ここで生活を営んでる間には見られませんでした」
となると、やはり彼女が機能停止してから現れたということか。他の土地にいたのが移動してきたのか、もしくは新たに不時着したのがいたのか。
とは言え、そう何度もこういうことがあったとも思えない。セシリアCQ202達が遭難したことで捜索隊が出た可能性も無くはないが、それは大抵、ロボットのみで構成されるのが通例の筈だ。二次遭難の危険性があるからな。ロボットを使って捜索して、生存が確認されたら本格的な救助が行われる。ロボットはその為の道具だ。
今回の捜索・調査で密達のルーツが判明するかもと思ったが、謎は深まっただけだったな。
遺伝子を見る限りでは地球人由来なのは間違いない筈なんだ。なのに、その基になった地球人がどこから来たのかが分からない。
でもまあ、焦っても仕方ないか。判明すればそれでよし。判明しなくても誰も困らない。密達は自分のルーツなど気にしてもいないだろう。そんなものを知らなくても彼女達はもうこの惑星で普通に生きている。それで間に合っている。ただ俺が腑に落ちないだけだ。
そんなことを考えている間にも、例の生物は俺達に迫ってきていた。
「ギ…ギギ……」
そんな声が聞こえて、俺はそちらに振り返る。すると鷹がローバーの屋根から鋭い目で俺達がいるところよりも先の方を睨み付けているのが分かった。鷹も気付いて警戒してるってことだろうな。何気なくキャビンの方を見ると、刃も外を睨み付けている。彼女も気付いたのか。が、密だけはシートで逆さまになって寛いでいる。まだ気付いてないようだ。こうやって気付かないのもいないと、あの生物の狩りは成功しない訳だから、これで普通なんだろう。
さて、どうしたものかな。
エレクシアがいれば何の心配もないのは分かってる。だが、俺はここでちょっとした好奇心を抱いてしまった。
「俺が相手できるかな…?」
その俺の言葉にエレクシアが呆れたように言う。
「マスター。これまでの様子を見てどうしてそういう発想が出てくるのか私には理解できません。密にも勝てないマスターがどうして対抗できるとお考えですか?」
実に容赦のない辛辣な言葉だった。
エレクシアの言うことはもっともだった。ただの脆弱な人間でしかない俺が、いくら人間に似た姿をしてるとは言っても野生動物に勝てる道理はない。中型の犬でさえ、訓練すれば人間よりは強くなるのだ。
だが、ここまでエレクシアに頼りきりで殆ど何もしてないことがどうにも気持ち悪くてな。
俺が身に着けている作業服は、獣などに遭遇しても身を守れるようにナイフぐらいなら防げる簡易の防護服にもなってるものだ。これに防刃手袋などを着ければ、牙も爪もどうということはない。対抗することは不可能じゃないんだ。それを考えると、俺がこれから後、どの程度のことができるのか身をもって知っておきたいんだ。
ただ、残されていた予備のバッテリーもさすがに二千年以上の時間を経ては劣化しきっていて、セシリアCQ202のバッテリーを交換することはできなかった。キャパシタだけの容量ではやはり半日程度しかもたない。無線給電が可能な範囲からあまり離れることができないのは残念なものの、彼女は元々人間の身の回りの世話をする為の機能だけを与えられた本来の意味のメイトギアだから、エレクシアのような使い方には向かない。拠点の維持管理をしてもらえればそれで十分だろう。
そして、コーネリアス号を発見してから三日目の朝、俺達は本来の拠点へと戻るべく準備を行っていた。何気なくエレクシアを見た時、俺は奇妙な違和感に囚われた。
『あれ、エレクシアってこんなデザインだったっけ…?』
交換用の部品はないのだから別に変っていない筈なのに彼女のデザインが微妙に変わったように見えて戸惑ってしまう。ゲシュタルト崩壊ってやつだろうか。
と、その時、彼女が声を発した。
「マスター。十時の方向に新たな生物の存在を確認しました」
言われてそちらを見るが、何も見えない。見えないが、彼女がそう言うんだからいるんだろう。俺は、違和感のことはひとまず置いてそちらに意識を向けることにした。
「こちらの様子を窺っています。距離は約五十メートル。地面に伏せて身を隠しながらも徐々に近付いています。完全に私達を獲物として狙っていますね。ネコ科の動物の狩りの仕方に非常に似ています」
なるほど。ストーキングか。
するとエレクシアがさらに付け加えた。
「スキャン完了。また人型生物です」
「またか。結構な種類がいるんだな」
俺もつい応えてしまう。サル、カマキリ、鳥、ワニの次はヒョウってところか? しかしこれだけの数がいて、セシリアCQ202は見たことがないのか。念の為に改めて問う。
「セシリアCQ202、あの生物に心当たりはあるか?」
俺の問いにセシリアCQ202は首を横に振るしかできなかった。
「分かりません。私達が不時着し、ここで生活を営んでる間には見られませんでした」
となると、やはり彼女が機能停止してから現れたということか。他の土地にいたのが移動してきたのか、もしくは新たに不時着したのがいたのか。
とは言え、そう何度もこういうことがあったとも思えない。セシリアCQ202達が遭難したことで捜索隊が出た可能性も無くはないが、それは大抵、ロボットのみで構成されるのが通例の筈だ。二次遭難の危険性があるからな。ロボットを使って捜索して、生存が確認されたら本格的な救助が行われる。ロボットはその為の道具だ。
今回の捜索・調査で密達のルーツが判明するかもと思ったが、謎は深まっただけだったな。
遺伝子を見る限りでは地球人由来なのは間違いない筈なんだ。なのに、その基になった地球人がどこから来たのかが分からない。
でもまあ、焦っても仕方ないか。判明すればそれでよし。判明しなくても誰も困らない。密達は自分のルーツなど気にしてもいないだろう。そんなものを知らなくても彼女達はもうこの惑星で普通に生きている。それで間に合っている。ただ俺が腑に落ちないだけだ。
そんなことを考えている間にも、例の生物は俺達に迫ってきていた。
「ギ…ギギ……」
そんな声が聞こえて、俺はそちらに振り返る。すると鷹がローバーの屋根から鋭い目で俺達がいるところよりも先の方を睨み付けているのが分かった。鷹も気付いて警戒してるってことだろうな。何気なくキャビンの方を見ると、刃も外を睨み付けている。彼女も気付いたのか。が、密だけはシートで逆さまになって寛いでいる。まだ気付いてないようだ。こうやって気付かないのもいないと、あの生物の狩りは成功しない訳だから、これで普通なんだろう。
さて、どうしたものかな。
エレクシアがいれば何の心配もないのは分かってる。だが、俺はここでちょっとした好奇心を抱いてしまった。
「俺が相手できるかな…?」
その俺の言葉にエレクシアが呆れたように言う。
「マスター。これまでの様子を見てどうしてそういう発想が出てくるのか私には理解できません。密にも勝てないマスターがどうして対抗できるとお考えですか?」
実に容赦のない辛辣な言葉だった。
エレクシアの言うことはもっともだった。ただの脆弱な人間でしかない俺が、いくら人間に似た姿をしてるとは言っても野生動物に勝てる道理はない。中型の犬でさえ、訓練すれば人間よりは強くなるのだ。
だが、ここまでエレクシアに頼りきりで殆ど何もしてないことがどうにも気持ち悪くてな。
俺が身に着けている作業服は、獣などに遭遇しても身を守れるようにナイフぐらいなら防げる簡易の防護服にもなってるものだ。これに防刃手袋などを着ければ、牙も爪もどうということはない。対抗することは不可能じゃないんだ。それを考えると、俺がこれから後、どの程度のことができるのか身をもって知っておきたいんだ。
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