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ルーチン作業

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 牧島まきしま煌輝ふぁんたじあは、父親譲りの狂暴性と折り合うために、
『自身の感情に蓋をする』
 という形をとっていた。感情を表に出せば間違いなくそれは他者への攻撃性として発揮されてしまう。世の中にはそういう形で折り合いを付けようとしている人間もいると理解しようともしない者も多いが、現にいるのだ。にも拘らずわざわざそういう人間の心に土足で踏み入ろうとする者もいて、心をかき乱す。
 さらには、煌輝のようなタイプの人間を<地雷>だなどと揶揄したりもする。社会と折り合うために本人がしている<努力>を踏みにじり、そしてなるほど地雷のように当人の逆鱗に触れて爆発させてトラブルになると被害者ぶるのだ。
 自分達が<地雷>と揶揄しておきながら実際にそうだった時にはそれである、本当に何様であろうか?
 ただ、時には本当に、まったく意図せず、近付いたり構おうとしていないのにうっかり逆鱗に触れてしまうこともある。そもそも、当人が意識していない<逆鱗>だったことで、そこに触れさせないように気を付けることもできなかった。
 今回の琴美と大森海美神とりとんの件はまさにそういう事例だっただろう。煌輝自身が自覚していなかったのだ。琴美のことがこんなにも気になるという事実に。
 これこそが、真に<地雷>なのかもしれない。<逆鱗>は見えていることが多くわざわざ触れようとしなければ避けることもできるだろう。しかし本来の<地雷>は見えないように設置するものだ。知らずに近付いた者を殺傷する。そういう意味では文字通りの地雷だった。
 だが同時に、煌輝自身で抑え込もうと努力できるものでもあった。こちらの意味では、厳密にはやはり地雷ではないだろうが。地齋自体は爆発しないように自ら努力などしない。
 対して煌輝は、人間であるがゆえに。
 そしてこの日、煌輝は、放課後、図書室には現れなかった。今、琴美の姿を見ると感情が抑えきれなくなる気がしたからだ。担任教師が保健室まで課題を届けに来てくれて、それをやはり保健室で済ませた。
 課題はきちんとこなすことを心掛けているので、それまで投げ出す気にはなれなかったようだ。<ルーチン作業>であるからだろうか。こうして毎日こなさないと余計に気持ちが収まらないのだろう。
 ずっと続けてきたことで、精神安定の手段の一つになっているのだと思われる。
 他者には理解できなくても、当人にとっては重要な。

「……?」
 一方、琴美の方は、いつもと変わらずに図書室で課題をこなしていた。なお、海美神の方は、バドミントン部で部活をこなしている。基本的には<エンジョイ系>の部活動なので、楽しむのが主眼だそうだが。

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