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エンジョイ系

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 大森海美神とりとんが所属しているバドミントン部は、先ほども触れたように<エンジョイ系>の部活である。大会を真剣に目指したりプロになるための練習を行うためのものではなかった。
 というのも、すでに十数年前ではあるものの、当時は全国大会の常連であり有名強豪校の一角だったのだが、本来は<教育>が目的であるはずの部活動であるにも拘わらずただ勝利することだけが目的になってしまい、
『バドミントンが好きだから』
 で入部した生徒を、まるで、
 <勝利のための道具>
 のように酷使し、何人もの生徒を故障させたり、
『もう二度とバドミントンなんか見たくもない!』
 と、<バドミントン嫌い>にしたりという状況だった。中には実業団に所属したりプロになった選手もいたというが、バドミントン界隈では結局は凡庸どまりで目立った成績も残せていない。オリンピックの強化選手に選ばれた者もいたにせよ、こちらも代表選手には選ばれなかった。
 <高校生レベル>では<強豪>でも、その先で通用する選手は排出できなかったのである。
 そんな中、コーチでもあった顧問の教師からセクハラを受けたとして、その時点のレギュラー数名を含む、部員達による集団訴訟が起こされ、社会問題化し、一時は廃部寸前にまで追い込まれたりもした。
 そのセクハラ行為が事実であったかどうかは、今なお判然としない。一部の<セクハラまがいの行為>は事実と認定されたもののそれ以外については、
『事実が確認できない』
 として退けられ、判決そのものは<無罪>となった。その一方で、顧問を擁護する人間もいなくはなかったものの、指導を受けてきた生徒の大半は静観を決め込み関わろうとはしなかった。つまり、
『セクハラ行為はなかったかもしれないが、生徒からは決して信頼されてはいなかった』
 という一面もあったようだ。だから、
『セクハラではなくパワハラで訴えれば有罪にできたかもしれない』
 などと言われたりもした。<訴えた側の戦略ミス>ということだ。パワハラよりもセクハラの方が追い込めると思ったのかもしれないが、見通しが甘かったのだろう。
 そんなわけで無罪は勝ち得たことで顧問の教師は逆に<名誉棄損>で提訴したりもしたもののこちらはこちらで棄却されている、
『誰も勝者がいない』
 騒動となってしまった。
 加えて、顧問が生徒に行っていた過剰な指導については明るみに出て信頼を失い、バドミントン部は退部希望者が続出。入部希望者もいなくなり、事実上の休部状態へと至った。
 それでも数年後、<エンジョイ派>の生徒数名が入部したことによりかろうじて廃部は免れたという。
 また、これをきっかけに、学校側も体制を刷新。あくまで<教育としての部活動>を目指すこととなったそうだ。

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