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「リヒター、今度はいつ会う?」
「この日って空いてる?」
「離れたくない」
その日を境に、アレックスは今まで以上にリヒターとの距離を詰めてくるようになった。
精神面でも物理的な意味でも。
ぐいぐいと来るのだ。腰に手を回されたのも一度や二度のことではない。
お仲間だけではなく、同僚達も目を丸くして驚いた。
筆頭聖女で、リヒターとは親子ほど歳の離れたフィリスだけはあらあらと手で口を隠しながらも、微笑ましいものを見るように笑っていた。
祝福されていると勘違いをして、自分からも一歩二歩と踏み出してしまった。
それがいけなかったのだろう。
遠征前の彼に刺繍入りのハンカチを渡そうと、宿舎付近まで足を運んだ。
聖女ほどではないにしろ、神官でも神聖力を使うことができる。
ひと針ひと針、アレックスのことを考えて刺した刺繍だ。神がいかなる敵からも彼を守ってくれるはず。
そんな思いを込めて国のシンボルであるグラジオラスを選んだ。
花言葉は勝利。まさに騎士であるアレックスに渡すにふさわしい刺繍だ。
我ながら綺麗に出来たと手の中のハンカチに視線を落とす。
そして遠くに見つけたアレックスの元へと踏み出そうとした時だった。
「遠征から帰ってきたらプロポーズする!」
アレックスの力強い宣言が聞こえた。
相手は自分かも知れないなんて期待した。恥ずかしさのあまり宿舎の壁に身を隠し、耳をそば立てる。
「おおついに!」
「まさかアレックスが一人に絞る日が来るとはなぁ」
「セフレ全員切ったって聞かされた時も驚いたけど。まだ手すら出してないんだろ?」
「神職は処女性が重要視される。結婚後ならともかく、複数人を相手にした男が安易に手を出せば神罰が下ると脅されたからな」
アレックスの言葉で、一気に絶望の底へと落とされた。
同時に毎回キス止まりの意味を理解してしまった。
「本命は聖女だったんだ……」
聖女の処女性は非常に重要視される。力が強い聖女ならなおのこと。性行為を行うことで神聖力が下がってしまう聖女もいるからだ。
その身を捧げる相手が神だけではなくなってしまうからではないか、というのが一般的な考えである。とはいえ何人子供を産んでも力が衰えない聖女もいるので、本当の理由は不明である。
だが正確な理由が分からない以上、教会が一部の優秀な聖女のガードを固めるのも仕方のないこと。ましてや他に相手がいる者なんてもってのほか。
その気持ちを示すために身体の関係のある相手を切ったのだろう。
リヒターとは身体の関係はなかったし、神官の立場は本命の聖女を隠すにはちょうど良かったのかもしれない。
揶揄われたと思わない。身の程を弁えなかったリヒターが悪い。
いつ彼がその気になるかも分からないからと、尻の穴まで広げて……。
馬鹿な男だ。いくら同性婚が認められているとはいえ、あれほどモテて気が利くアレックスがわざわざ男に手を出す必要なんてないのに。
女性ならわざわざ穴を広げずに済む。子供だって産める。
相手が聖女なら、お仲間から受ける言葉は同情ではなく祝福のはずなのだ。涙が溜まる目をハンカチで押さえ、その場を離れる。
「教会は身内意識が高いからな~」
「実際、聖女と二股していて飛ばされた騎士もいるし」
「特にあの子は誰から見ても分かるほどのお気に入りだからな」
「それでもかなりの寄付金を捧げて思いを示して、ようやく許しがもらえたんだ! やっと俺だけのものに出来る……」
徐々に離れていく騎士達の声はアレックスと聖女の婚姻を祝福しているようだった。いや、彼らだけではない。教会もすでに二人の結婚を認めているのだろう。
リヒターだけが内側に立ち入ることを許されていない。近いようで遠い場所にいたのだと突きつけられる。
「この日って空いてる?」
「離れたくない」
その日を境に、アレックスは今まで以上にリヒターとの距離を詰めてくるようになった。
精神面でも物理的な意味でも。
ぐいぐいと来るのだ。腰に手を回されたのも一度や二度のことではない。
お仲間だけではなく、同僚達も目を丸くして驚いた。
筆頭聖女で、リヒターとは親子ほど歳の離れたフィリスだけはあらあらと手で口を隠しながらも、微笑ましいものを見るように笑っていた。
祝福されていると勘違いをして、自分からも一歩二歩と踏み出してしまった。
それがいけなかったのだろう。
遠征前の彼に刺繍入りのハンカチを渡そうと、宿舎付近まで足を運んだ。
聖女ほどではないにしろ、神官でも神聖力を使うことができる。
ひと針ひと針、アレックスのことを考えて刺した刺繍だ。神がいかなる敵からも彼を守ってくれるはず。
そんな思いを込めて国のシンボルであるグラジオラスを選んだ。
花言葉は勝利。まさに騎士であるアレックスに渡すにふさわしい刺繍だ。
我ながら綺麗に出来たと手の中のハンカチに視線を落とす。
そして遠くに見つけたアレックスの元へと踏み出そうとした時だった。
「遠征から帰ってきたらプロポーズする!」
アレックスの力強い宣言が聞こえた。
相手は自分かも知れないなんて期待した。恥ずかしさのあまり宿舎の壁に身を隠し、耳をそば立てる。
「おおついに!」
「まさかアレックスが一人に絞る日が来るとはなぁ」
「セフレ全員切ったって聞かされた時も驚いたけど。まだ手すら出してないんだろ?」
「神職は処女性が重要視される。結婚後ならともかく、複数人を相手にした男が安易に手を出せば神罰が下ると脅されたからな」
アレックスの言葉で、一気に絶望の底へと落とされた。
同時に毎回キス止まりの意味を理解してしまった。
「本命は聖女だったんだ……」
聖女の処女性は非常に重要視される。力が強い聖女ならなおのこと。性行為を行うことで神聖力が下がってしまう聖女もいるからだ。
その身を捧げる相手が神だけではなくなってしまうからではないか、というのが一般的な考えである。とはいえ何人子供を産んでも力が衰えない聖女もいるので、本当の理由は不明である。
だが正確な理由が分からない以上、教会が一部の優秀な聖女のガードを固めるのも仕方のないこと。ましてや他に相手がいる者なんてもってのほか。
その気持ちを示すために身体の関係のある相手を切ったのだろう。
リヒターとは身体の関係はなかったし、神官の立場は本命の聖女を隠すにはちょうど良かったのかもしれない。
揶揄われたと思わない。身の程を弁えなかったリヒターが悪い。
いつ彼がその気になるかも分からないからと、尻の穴まで広げて……。
馬鹿な男だ。いくら同性婚が認められているとはいえ、あれほどモテて気が利くアレックスがわざわざ男に手を出す必要なんてないのに。
女性ならわざわざ穴を広げずに済む。子供だって産める。
相手が聖女なら、お仲間から受ける言葉は同情ではなく祝福のはずなのだ。涙が溜まる目をハンカチで押さえ、その場を離れる。
「教会は身内意識が高いからな~」
「実際、聖女と二股していて飛ばされた騎士もいるし」
「特にあの子は誰から見ても分かるほどのお気に入りだからな」
「それでもかなりの寄付金を捧げて思いを示して、ようやく許しがもらえたんだ! やっと俺だけのものに出来る……」
徐々に離れていく騎士達の声はアレックスと聖女の婚姻を祝福しているようだった。いや、彼らだけではない。教会もすでに二人の結婚を認めているのだろう。
リヒターだけが内側に立ち入ることを許されていない。近いようで遠い場所にいたのだと突きつけられる。
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