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番外編~イートン校の誇りが守られた日~
39.交換留学3
しおりを挟むある日、ロイドが料理教室を開いた事があったらしい。
理由は至極簡単。彼の作る料理を学ぶためだ。教室を開催していたのはホストファミリーの家ではなく提案した女子生徒の家で毎回行われていた。
日本庭園が見事な屋敷で、調理場も広い。
そして、参加者は女子のみ。
つまり、男子禁制。
けれど、その時はたまたま食材を運ぶ者がいなかったためロイドのホストファミリーの一員でありクラスメイトの嶋真澄――――教師達に説明をしてくれている日本人留学生だ――が代わりに運んだそうだ。
運んでいる最中、たまたま調理場の入口で女子たちが集まっている所に遭遇した。
折角なので見学していけばいいと女子たちに言われ、断る理由も無いのでそのまま中に入っていった。するとそこには衝撃的な光景が広がっていたという。
作られている料理は全てダークマター。
しかも、それは一つや二つではない。数十個ある。
「え?なにこれ??」
真澄がそう思うのも無理はない。
それほどまでに凄まじい料理だった。
思わず持っていた荷物を落としそうになったほどだ。
しかし、女子たちはそれを当たり前のように受け入れていた。
「凄いでしょう?ロイド君の料理はね、どんな食材を使ってもこうなるの!」
「猪だってあっという間に泡をふいて倒れたのよ!!」
「しかも、体内から毒物は一切でないの!!」
「それにね、熊にも有効だったの!!!」
「こんなに殺傷力が強いのに毒じゃないなんて!!素敵!!!」
「「「「「ねー!!!」」」」」
とまぁ、このような事を口々に言いながらキャッキャウフフとはしゃいでいた。
女子たちの会話を聞いて真澄は絶句してしまった。
そして思いだした。
最近、山から下りてきた猪や熊が捕獲される前に死体で発見される事件を。ニュースでは何か誤って食べた物が死につながったのではないかと言っていた。
間違いない。
目の前にあるこの料理が原因だ。
それを理解した瞬間、真澄は背筋に冷たいものが走った。
同時に、これを食べさせられたら間違いなく死ぬだろうとも思った。幸いなことに、ここにいる女子たちの味覚は正常だ。寧ろ、良い方だろう。にも拘らずロイドからダークマターを学びたがっている。そのことに真澄は疑問に思った。だから聞いた。
「なんでまた、そんな料理を習おうとしてるの?」
他意はない。
素朴な疑問と好奇心だった。
「だってここ数年で山から危険生物が降りて来てるのよ?家の周辺に熊が出たって聞いた時はびっくりしたわ。その時は私も家族は遭遇しなかったけど、何時も遭遇しないとは限らないでしょ?」
至極真っ当な答えが返ってきた。
危険動物から身を守る。アリだろう。
だが彼は知らない。
危険生物から身を守るためにダークマターを学んでいる女子は凄腕の射撃の名手であることを。対危険生物用ライフルを持っていることを。休日はライフル片手に山狩りをしていることを。小柄でよく小学生に間違われる可愛らしい外見とは裏腹に性格はかなり男前であるということを。「犬派」を自称する彼女の飼い犬は全て猟犬であることを知っている者は極少数。残念ながら真澄はその事を知らなかった。だからこそ、「家に危険動物がでてくれば怖いのは仕方ない」と普通に納得してしまったのである。
この数十年後、彼女は知る人ぞ知る狩人として名を馳せ、猟犬のブリーダーとしても名を上げることになるのだが、それは別の話である。
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