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「猫ちゃん飼いましょう!」編
第8話 謝罪の天才
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「すみませんでしたぁ~!」
隣人男性に部屋に上がってもらった後、オレは開幕全力土下座。
「ちょっ、須々木さん、私は……むぐっ!」
ヘリクツをこねて事態をさらに悪化させそうな美坂の頭を押さえ、グイと下げさせる。
「こいつも悪気があってやったわけじゃないんです! どうか許してやってください!」
「むぐ……むぐぐ……須々木さ……!」
まだ事態を理解できてなさそうな美坂に顔を近づけ小声でささやく。
「あのなぁ、美坂。お前がやったのは暴行、住居不法侵入。相手が110番したら警察に捕まるのは、お前だぞ?」
「ふぇ……須々木さん……それ、マジですか?」
「マジマジ大マジ。だから美坂。前科者になりたくなかったら、いま全力で頭を下げろ」
「は、はい……!」
バッ。
二人で一度顔を上げ。
『すみませんでした~!』
声をハモらせ、頭を下げる。
この一年間、外回り営業で何度も一緒に頭を下げてきたオレたち。
その甲斐あってオレたちのコンビネーションは──完璧だった。
◇
「で、二人は本当にカップルではないと?」
「はい! 天地神明に誓ってカップルではありません! 会社以外で会ったのも昨日が初めてです!」
「そ、そうです! え、いや、あの……この先どうなるかはわかりませんが……えっと、今のところは……はい、そのようなことは一切ないです!」
おいおい、なに紛らわしいこと言ってんだ。
ギッっと美坂を睨みつける。
(はわわ、なんですか……!?)
みたいな表情をする美坂。
とはいえ、どうにか隣人の怒りを収めることが出来た。
どうやら彼は「リア充の隣人が全くなんの気遣いもなく、無遠慮に騒いでるのが気に食わなかった」らしい。
わかる。
わかるぞ~、その気持ち。
自分が軽んじられてるような、馬鹿にされてるような、そんな気持ちになるよな?
オレもそういう隣人に当たったことあるから、痛いほど君の気持ちはわかるぞ。
「ふぅ~ん……そうなんだ……。で、これがエサをあげたらついてきた、と……」
そう言って、男は狭い部屋に不自然に佇む配膳ロボに不健康そうな目を向けた。
「はい、その通りです。それで、これをどうするかの対処を後輩の美坂と一緒に考えてまして……」
「へぇ……なるほどね……」
クレーマーへの対応はお手の物だ。
最終的に、向こうが納得できそうなストーリーを提示することができれば、こっちの勝ち。
今回の場合は「うるさい配膳ロボが勝手についてきた。自分たちもそれに迷惑してる。私達もあなたと同じ被害者なんですよ~」というストーリーだ。
そして案の定、それはストンと落ちた。
「で、どうするの、これ?」
「もちろん飼い……ぶふっ!」
慌てて美坂の口をふさぐ。
「いやぁ~、どうしようかなぁ~って相談してたんですよ。捨てるにしても大変だし? いやぁ~、ほんとに困ったもんで……あはは……」
いきなり「飼います」なんて言っちゃ、ここまで積み上げてきたものが台無しになる。
だってそれって「これからもうるさくするけど我慢してね」って一方的に向こうに押し付けるようなものだから。
理想は、向こうから「じゃあ、飼ったら?」と自発的に言わせること。
「捨てるにしては、随分キレイに掃除してあるみたいだけど?」
「ほら、捨てられてたんで虫とかついてたら迷惑じゃないですか? ほら、最近流行りのトコジラミとか……」
「まぁ、なるほど。それはね、たしかに」
「で、美坂に手伝ってもらってこれをキレイにしたまではいいんですが、自分も平日は仕事で家にいないわけですし、捨てるにしても週末かな~って」
「ふぅん……」
この青年、普段の仕事相手と違って表情が読み取れん。
でも、このまま押し切るしかない。
「いや、ほんとすみませんね、ご迷惑おかけして。あ、しかもこれ、壊れてるみたいで勝手に電源入ったり切れたりするんですよ。あ、もしかしたら自分が仕事行ってる時に勝手に喋ってご迷惑かけたりしてるかも……」
「いや、それはない。なかったかな、うん」
どうやらこの青年、昼間も家にいるらしい。
不登校の大学生なのか、それとも在宅ワークなのか。
なんにしろ相手の正体もだんだんわかってきたぞ。
ずっと下手に出てはいるが、話の主導権は完全にこちらが握っている。
さぁ、そろそろ最後の仕上げに取り掛かるタイミングだ。
「これ、今は動かないの?」
はい、きた!
配膳ロボに興味を持った!
ここまで来ればあと一歩。
この猫ちゃん型ロボに愛着を持ってもらえれば、引き出せるはずだ。
『飼う、ってのはどうかな?』
という隣人からの提案を!
さぁ~、あとはこのロボットの電源が上手く入ってくれればいいんだが……。
たのむぞ~。
「ちょっと、やってみますね」
オレは祈りながら、ネットで調べた電池の位置を確認しガチャコンと入れ直してみる。
動かない。
次は、背後にあるらしいスイッチを長押ししてみる。
やっぱり動かない。
(あれ……? やっぱこれ、電池がもう空になってるんじゃ……)
隣人のイラッとした様子が伝わってくる。
「須々木さん、昨日は猫ちゃんをキレイにしてあげてたら電源入りましたよね? 今日も拭いてあげれば……」
おいおい、美坂がなんかロマンチックなことを言い出したぞ。
「いや、美坂。そんな、漫画じゃないんだから」
「ムッ、わからないじゃないですか! ほら、やってみましょう! ね~、猫ちゃん、今日もキレイにしましょうね~」
ドタドタと雑巾を持ってきた美坂が配膳ロボットを拭き始めた瞬間。
『ふぁ~、よく寝たにゃ~!』
配膳ロボが、喋りだした。
隣人男性に部屋に上がってもらった後、オレは開幕全力土下座。
「ちょっ、須々木さん、私は……むぐっ!」
ヘリクツをこねて事態をさらに悪化させそうな美坂の頭を押さえ、グイと下げさせる。
「こいつも悪気があってやったわけじゃないんです! どうか許してやってください!」
「むぐ……むぐぐ……須々木さ……!」
まだ事態を理解できてなさそうな美坂に顔を近づけ小声でささやく。
「あのなぁ、美坂。お前がやったのは暴行、住居不法侵入。相手が110番したら警察に捕まるのは、お前だぞ?」
「ふぇ……須々木さん……それ、マジですか?」
「マジマジ大マジ。だから美坂。前科者になりたくなかったら、いま全力で頭を下げろ」
「は、はい……!」
バッ。
二人で一度顔を上げ。
『すみませんでした~!』
声をハモらせ、頭を下げる。
この一年間、外回り営業で何度も一緒に頭を下げてきたオレたち。
その甲斐あってオレたちのコンビネーションは──完璧だった。
◇
「で、二人は本当にカップルではないと?」
「はい! 天地神明に誓ってカップルではありません! 会社以外で会ったのも昨日が初めてです!」
「そ、そうです! え、いや、あの……この先どうなるかはわかりませんが……えっと、今のところは……はい、そのようなことは一切ないです!」
おいおい、なに紛らわしいこと言ってんだ。
ギッっと美坂を睨みつける。
(はわわ、なんですか……!?)
みたいな表情をする美坂。
とはいえ、どうにか隣人の怒りを収めることが出来た。
どうやら彼は「リア充の隣人が全くなんの気遣いもなく、無遠慮に騒いでるのが気に食わなかった」らしい。
わかる。
わかるぞ~、その気持ち。
自分が軽んじられてるような、馬鹿にされてるような、そんな気持ちになるよな?
オレもそういう隣人に当たったことあるから、痛いほど君の気持ちはわかるぞ。
「ふぅ~ん……そうなんだ……。で、これがエサをあげたらついてきた、と……」
そう言って、男は狭い部屋に不自然に佇む配膳ロボに不健康そうな目を向けた。
「はい、その通りです。それで、これをどうするかの対処を後輩の美坂と一緒に考えてまして……」
「へぇ……なるほどね……」
クレーマーへの対応はお手の物だ。
最終的に、向こうが納得できそうなストーリーを提示することができれば、こっちの勝ち。
今回の場合は「うるさい配膳ロボが勝手についてきた。自分たちもそれに迷惑してる。私達もあなたと同じ被害者なんですよ~」というストーリーだ。
そして案の定、それはストンと落ちた。
「で、どうするの、これ?」
「もちろん飼い……ぶふっ!」
慌てて美坂の口をふさぐ。
「いやぁ~、どうしようかなぁ~って相談してたんですよ。捨てるにしても大変だし? いやぁ~、ほんとに困ったもんで……あはは……」
いきなり「飼います」なんて言っちゃ、ここまで積み上げてきたものが台無しになる。
だってそれって「これからもうるさくするけど我慢してね」って一方的に向こうに押し付けるようなものだから。
理想は、向こうから「じゃあ、飼ったら?」と自発的に言わせること。
「捨てるにしては、随分キレイに掃除してあるみたいだけど?」
「ほら、捨てられてたんで虫とかついてたら迷惑じゃないですか? ほら、最近流行りのトコジラミとか……」
「まぁ、なるほど。それはね、たしかに」
「で、美坂に手伝ってもらってこれをキレイにしたまではいいんですが、自分も平日は仕事で家にいないわけですし、捨てるにしても週末かな~って」
「ふぅん……」
この青年、普段の仕事相手と違って表情が読み取れん。
でも、このまま押し切るしかない。
「いや、ほんとすみませんね、ご迷惑おかけして。あ、しかもこれ、壊れてるみたいで勝手に電源入ったり切れたりするんですよ。あ、もしかしたら自分が仕事行ってる時に勝手に喋ってご迷惑かけたりしてるかも……」
「いや、それはない。なかったかな、うん」
どうやらこの青年、昼間も家にいるらしい。
不登校の大学生なのか、それとも在宅ワークなのか。
なんにしろ相手の正体もだんだんわかってきたぞ。
ずっと下手に出てはいるが、話の主導権は完全にこちらが握っている。
さぁ、そろそろ最後の仕上げに取り掛かるタイミングだ。
「これ、今は動かないの?」
はい、きた!
配膳ロボに興味を持った!
ここまで来ればあと一歩。
この猫ちゃん型ロボに愛着を持ってもらえれば、引き出せるはずだ。
『飼う、ってのはどうかな?』
という隣人からの提案を!
さぁ~、あとはこのロボットの電源が上手く入ってくれればいいんだが……。
たのむぞ~。
「ちょっと、やってみますね」
オレは祈りながら、ネットで調べた電池の位置を確認しガチャコンと入れ直してみる。
動かない。
次は、背後にあるらしいスイッチを長押ししてみる。
やっぱり動かない。
(あれ……? やっぱこれ、電池がもう空になってるんじゃ……)
隣人のイラッとした様子が伝わってくる。
「須々木さん、昨日は猫ちゃんをキレイにしてあげてたら電源入りましたよね? 今日も拭いてあげれば……」
おいおい、美坂がなんかロマンチックなことを言い出したぞ。
「いや、美坂。そんな、漫画じゃないんだから」
「ムッ、わからないじゃないですか! ほら、やってみましょう! ね~、猫ちゃん、今日もキレイにしましょうね~」
ドタドタと雑巾を持ってきた美坂が配膳ロボットを拭き始めた瞬間。
『ふぁ~、よく寝たにゃ~!』
配膳ロボが、喋りだした。
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