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7の扉 グロッシュラー

祭祀の支度 トリルの話

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げっ…………。


私が「朝からどうしよう」と思っている間に、三人は「「「おはようございます。」」」ときちんと挨拶していた。

立ち上がって挨拶をしようとしていたパミールとガリアを手で制しながら、「おはよう。」と答える彼は、何だか朝から楽しそうに見える。

よく分からなかったが、私もとりあえず挨拶をした。

「おはようございます、シュマルカルデン。今日はよろしくお願いします。」


そう、やっと彼の長い名前を覚えた私は忘れない様、ちゃんと名前を呼びながら挨拶をする。

しかし逆に、一度覚えると忘れそうにない名前だなぁとも、思った。


なんかさぁ、ランペトゥーザとかシュマルカルデンとか…銀の家の名前のバリエーションを一度並べてみたいよね………。


そんな事を思いつつ、チラリと彼を見る。

よろしくお願いします、と言ったのは私のすぐ近くで祈る筈だからだ。
クテシフォンは出来るだけ色はバラしてくれたが、それ以外の黄色と灰色は、やはり家の順になっているのだ。



「ああ。今日はうちの者も来るから、よろしく頼む。」

「?向こうからですか?」
「そうだ。まぁ、後でな。」

それだけ言って、彼は列に紛れて行ってしまった。



「何がよろしくなんだろ?」と思っていた私は、その疑問を顔に貼り付けたままみんなの顔を見る。

「ヤバいかもね。」
「そうですね………。まぁ、予想していた事ですけど。」
「わざわざ見に来るって事でしょ?ヨルの彼、ピンチじゃん。」
「ね。どうするのかしら。」


んん?

三人は私抜きで話を進めていて、さっぱりわかっていないのはきっと、本人ばかりなり、だ。

「何か、私を見に来て気焔がまずい事になる………?」


ザワザワと忙しない食堂の雰囲気の中、三人はゆっくり顔を見合わせ、何だか神妙な表情だ。


「どう考えても、目立ちますからね。」

そう言ったのはトリルだ。

「きっと、その見に来る人がヨルの事を気に入れば青の家に申し入れをしてくる筈です。相手は…まぁシュマルカルデンになるでしょうね。それか、まだ若手で相手が決まっていない人も銀ならいるかもしれません。」

「あそこは条件が厳しいから、確かにいそうよね。選びすぎなのよ。」
「正直、ヨルは格好の餌よ。家の人には、何か言われなかった?」
「う………ん。」

フェアバンクスは良かれと思って、全てを用意してくれた筈だ。
彼はきっとこの状況が予測出来なかった訳ではないだろう。しかし、その為に身分を諦めるのはまた、別の話だ。
もし事前に訊かれたとしても、きっと私はこの道を選んだだろうと思う。


「とりあえず………頑張るよ。」
「まぁね。」
「もう、純粋に祭祀だけ楽しみたいわよね。どうしてあれこれ………。」

確かに。
ガリアの言葉に頷きながら、また次の扉の問題も大きそうでため息が出た。




「でもですよ?ヨルがこの祭祀で神聖な存在になればいいな、と密かに私は目論んでいます。」

「えっ?」

突然始まった、キラキラしている茶の瞳を見つめる。
トリルは何か、考えがある様だ。

「私が思うに、今回この古い祭祀を再現する事によって、それもヨルが主役で舞う事により…なんていうんですかね………。こう、また神殿が力を持つというか。その、役目に丁度いいのですよ、ヨルは。銀の家だけれど、特にデヴァイにしがらみもない。力も、強い。そして、美しい。言い方は悪いですけど、祭り上げるのに丁度、いいのですよ。」

「今はやっぱり、本家やここグロッシュラーだと、あのお屋敷が実権を握っています。」

フォークを置いて、少し身を乗り出すトリル。

「今回、この古いけれども新しい、祭祀が成功して。いつもよりも、力が降りる。そうなったら。どうしたって、力を持つ者が実権を握る。それは、歴史が証明しています。」

「私の予想ですけど、神殿はそれを狙っているのかなぁと。きっと、昔はそうだったんでしょうし。」

トリルの言う「昔」が気になって、質問する。

確かに、以前は島の両端で祈り今より沢山の力が降った筈だ。
そして、今よりももっと、ここは豊かであった。

それを、再現しようとしているのだろうか?


「その、古い祭祀をやっていた頃はその、デヴァイより、お屋敷より、神殿が力を持っていたという事?」


トリルは少し、考えてこう言った。

「そうですね。より、力を持っていた、と言うよりは独立していた、の方が近いかもしれませんが。」


ふぅん?

「そうなんだ…………。」

「まぁ、やっぱり心配の方が大きいですけどね。どうしたって、そうしたらヨルは利用される可能性が高い。今回本当に、誰が、どんな意図でこの古い祭祀をやる事になったのかは分かりませんが。何もかも、ピッタリなんですよね………。」

そう言ってまた、考え込んでしまったトリル。
何が、ピッタリなのだろうか。


しかし今回、古い祭祀を復活させる事になった原因の一番は私の光の所為だ。
ミストラスは何故だか、今年に限って舞を復活させようとしていた。
それが、私と関係あるのかどうかハッキリした事は判らない。

でもベイルートさん曰く「限りなくお前のせいに近い」とかよく分からない事を言っていたけど。


ミストラスの顔、ウェストファリアやクテシフォンの顔が浮かぶ。
シンが言った通り、今は様々な人の様々な思惑がくるくると色を変えながら渦巻いていて、私に全貌は見えない。

だからこそ、私は、私の思う通りの事をしてこの祭祀をやり切るのだ。


きっと、そうすれば。

自ずと道は、見えてくる気がする。

きっと、誰が何色なのか。

それがはっきりしてくると思うのだ。



そんな事をぐるぐる、考えていた。
しかし今は、みんなが私を心配そうに見ている事にも気が付いていたので、それを中断する。

今、ぐるぐるしたら心配させちゃうよね………。


そう判断した私は、とりあえずは楽しい事を優先させる事にした。


「さ、早く食べて行こう?きっともうすぐレナが来ちゃう。」

あまり待たせると小言を言われるに違いない。

みんなにそんな事は言えないけれど、レナも今日は勿論参加するから、きっとその後も支度がある筈だ。
きっとおめかししたらまたレナの可愛いらしい姿が見られるだろう。


ちなみにロウワの子達には、お揃いの青い服を私が手配した。
この前の石を担保にして、レシフェにお願いしてある。きっと朝からシリーが忙しかったのは、その所為もあるだろう。


これ以上、ここで悶々としても始まらないと切り替えた私達は、サクサクと朝食を終え支度に向かうことで一致したのだった。





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