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7の扉 グロッシュラー
祭祀の支度 女子達
しおりを挟む「今日、楽しみです。」
私の着替えをチェックして、ローブを着付けるシリー。
一度離れて石のバランスや縫いつけをチェックすると「うん。」と言って、ポンと背中を押す。
大分、固さが取れてお姉さんぽくなったシリーは
やはり生粋の世話焼きなのだろう。
あの、秘密基地を作った後も子供達の世話を焼き、私の世話を焼くのも忘れない。
しかし今日は、地階にいてもらいたい、私。
何せ、初めての事だ。
ネイアやセイアと、祭祀をする。
きっとあの子達はかなり、緊張しているのではないだろうか。
「今日、みんなどう?緊張してる?」
「そうですね………でも、小さい子達なんかは寧ろ楽しみにしてますよ。フフッ」
朝から何か楽しいことがあったのだろうか。
子供達ははしゃいでいて、かなり早くから起きてきたらしい。
それを予想してシリーも大分早めに起きた様だ。
「シリーも、無理しないでね。そんなに、時間かからないといいね………。」
何しろ私も初めてなのだ。
この、日にちが決まっていない、雪が降ると突然始まる祭祀。
面白いなぁと、思う。
でもきっと、昔はそんな感じで始まっていたのかもしれないなぁと思った。
ここは時間の流れも緩やかで、人々に差はあれどやはり自然に沿って生活しているのだと思い知る。
きっと、私が元いた、世界よりは。
「じゃあとりあえず行きますね。みんな、ここに来るんですよね?」
「うん、大丈夫。後はレナが髪もやってくれると思うし。」
何処でお化粧するかという話になって、少し迷ったが私の部屋にした。
部屋にも大きな差がある、ここの暮らしでは私の部屋に招く事によってみんながどう感じるのか、少し、考えた。
しかし、きっとみんなは私が感じる様な感じ方はしないと思い至り、それならば効率を取る事にしたのだ。きっと、銀の家は優遇されて当たり前、という前提で育っているであろうここの人達。
私が過度に気を使い過ぎても嫌味になる事もあるだろう。
少し、割り切る事も必要なんだ。
使えるものは、使う。
その為のフェアバンクスがくれた、銀だ。
片付けをしてシリーが「頑張ってください!」と出て行く。
「そうなんだよねぇ………。」
ここのところみんなに声を掛けられる事が多かった私は、流石に少し緊張していた。
だって………。
結局、散々仕込んだ割に一回オッケー出てからミストラスさん、チェックしてくれないし。
なんだか神殿以外の人も結構来るみたいだし………。
でも、でも誰も見た事無いんだから、ある意味ちょっと失敗しても気が付かれないって事よ、うん。大丈夫大丈夫。
変な慰めを自分にすると、一度銀ローブに着替えて朝食に行く事にした。
レナが来るのはその後の筈だ。
キラキラと光る小さな石達を壁に掛けると、いつものローブを羽織り「朝、行こっ。」と部屋を出た。
灰青の階段を下り、廊下を歩く。
まだ誰もいない。
それとも、もうみんな支度に出ているのだろうか。
そのまま、入り口の扉を潜り神殿の廊下へ出ると最後の仕上げをされた飾り達が白い廊下の色を塗り替えていた。
立ち並ぶ柱の高い位置から下がる、空色の布。
その上から重ねられる細く白い布がリボンの様に見える。
この青は空を表しているらしく、そうするとやはりこの差してある白は雲を表すのだろう。
やはり、祭祀は「空」に祈るのだと感じずにはいられない。
以前から飾られているキラキラした飾りと相まって、本当に晴天に舞う風花の様だ。
私は雪の降る地域で生まれたわけでは無い。
映像でしか見る事の無かった、その美しい光景が見られる事にワクワクしてきて、足取りも軽く廊下を横切って行った。
「おはよう、ヨル。」
「おはようございます。」
「おはよう。」
祭祀で舞う事になって、知らない人からも声を掛けられる様になった、ここ最近。
ネイアは毎日の礼拝でもうほぼ知っている人ばかりだが、セイアは未だ知らない人も多い。
何故だか「銀の家はそう気軽に声を掛けられない」と聞いていたのに、私にはみんな気軽に挨拶してくるのだ。
「どっかから、バレてるのかな………。」
もしかしたら。
私の普段の所業がバレているのかもしれない。
それか、どっかで見られてるか………。
図書室は人も多い。もしかしたら、私がウエストファーレンやオルレアンと普通に話している所を見ている人だっているだろう。
まぁ、挨拶くらいだからね…。
そのまま、朝の後ろをついて食堂に入り少し辺りを見渡した。
今日は出来れば、知ってる人と食べたい。
チラチラと投げられる視線を気にせず、この後の緊張も解けるような…………。
「あっ。」
いた!
少し前に茶ローブを見つけて、駆け寄る。
身長と靴で、背後からでもガリアと判るからだ。
「おはよう!」
無事、肩をポン、と叩くとそのまま私達はこの後のお喋りをしながら、列へと進んで行った。
「この後、ヨルの部屋に行けばいいんでしょう?」
「うん。すぐ来れる?」
「大丈夫。みんなは?」
「伝えてあるけど………来ないかな、朝食。」
食堂をぐるりと見渡す。
今日はいつもより心なしか急いでいる人が多い気がする、食堂では彩りのよいローブ達が揃っている。
朝の礼拝が無く、この後の予定があるので食事の時間が揃ったのだろう。
いつもよりもカラフルなその様子をじっくりと眺める。
「あ。」
背の低い青ローブが見えた。
思わず手を振ろうかと思ったが、以前注意された事がある。
確かに、いきなり立ち上がってブンブン手を振ったらお淑やかとは程遠いもんね………。
私の意図が解ったのだろう、ガリアが席を立つ。
黄ローブのパミールも並んでいるのが見え、2人一緒に連れてくるつもりなのだろう。
ここはそのまま、お願いする事にした。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「おはよう。みんな流石に、早いね。」
久しぶりに四人揃った私達。
しかしこの後、祭祀は少し緊張するけれどお化粧もしてお洒落をする予定の私達は、テンションが高い。
既にみんな、空色の服を着ていてそれもまた雰囲気を高めている。
うん、みんな可愛い………!
「どうですか?緊張してます?私達は、凄く楽しみですけど。」
確かにいつもよりテンションが高いトリルは貴重だ。今回は本と関係無いけれど、トリルのテンションを上げるポイントは何処だろう?
「うん、ちょっと…。多分、始まっちゃえば大丈夫だと思うんだけど。」
「ですよね。でも、古い祭祀の再現なんて、私楽しみ過ぎて昨日からずっと、調べてました。」
まさか?
「「「寝てないの???」」」
「はい。」
満面の笑みだ。
うん、いいんじゃないかな………。
本人、凄く楽しそうだし。
「何か、面白い本があったの?」
あの時部屋に掛けられていた、白襟の青いワンピースを着たパミール。
今日はゆるふわの髪をアップにしていて、とても大人っぽい。
答えるトリルはシンプルな青いワンピースでふんわりしたスカートに白の刺繍が入った、可愛らしいものだ。
「はい、ヨルの話を聞いてからまた色々調べて。その、以前は色が沢山あった話をしたじゃないですか。その、色がですね………。」
意味深に言葉を切る、トリル。
三人とも顔を寄せて、続きを待つ。
「昔は、相手のまじないの色が何色か調べて、その色が降るように祈ったんです。それで、二人に同じ色が降れば「両思いになる」と言われてたらしいですよ。本当におまじないですね。」
「でも、同じ色になる確率は低いらしいです。」
そう、付け加えたトリル。
確かに、願ってその色が降ればとてもロマンチックだとは思う。
でも多分、考えるよりは難しいのだろう。
みんなにそれぞれの色を降らせようと思っている私としては、考え込む内容だ。
まぁ、やるけど。
「ふぅん。やっぱり簡単じゃないって事よね。でも、それってさ元々「両思い」だから、同じ色になるんじゃないの?だからじゃない?」
「確かにそれはあるかも………。」
私には心当たりがあった。
アレなの…………?
えっ。無理無理。朝から………。
ちょっと冷まさなきゃ。
「ごちそうさま。」
「えっ。もう?待って待って。」
「違うわよ。ヨルに言ったの!」
「成る程。」
「そうね。」
みんなが頬に手を当てた私を見ていた。
ヤバ………。
早く戻って~~~!!
「やあ。今日は楽しみだな。」
その時、盛り上がる私達に声を掛けてきたのは「気を付けろ」と言われている、銀ローブの彼だった。
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