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7の扉 グロッシュラー
祭祀の支度 私の部屋
しおりを挟む「パミールの髪はこれでいいわね。素敵ね。腕が鳴るわ。」
張り切ってパミールから支度を始めたレナは、話を聞きながら彼女に合わせたお化粧を施し始める。
それを見ながら二人のやり取りに安心した私は、ガリアとトリル、ついでにレシフェにお茶を振る舞いながらもこの後の話を聞いていた。
私は一人、別で並び、真ん中の通路に立つ事が決まっているので、みんながどんな順で何をするのかは全く聞いていなかった。
というか、それどころじゃ無かった、という方が近いかも知れない。
あんまり色々頭に入れたら、覚えた舞が抜けて行っちゃいそうだったからだ。
「私は結構、ヨルが遠いんですよ。一世一代の晴れ姿を近くで拝めないのはとても残念です。」
「いやいや、もしかしたら来年もこうかもしれないよ?」
私はきっと、この祭祀が成功すると思っているので来年も、同じ形式ではないかもしれないが「外で」「全員で祈る」事が継続されるだろうと、考えていた。
だって、止める理由が、ない。
「それはあるな。多分味を占めてやりたがるだろう。きちんと成功して、デヴァイが入り込む隙がない様、上がちゃんと立ち回ればいいがな。」
そう言うのは勿論、レシフェだ。
女子の中に入ってお茶を飲んでいても、そう違和感が無いのはシャットが長い所為か、それともこの雰囲気の所為なのか。
濃い目の紺色の長い髪が、以前よりはウザったい印象だがやはり彼の人好きのする雰囲気はそう失われておらず、私達のお茶タイムの中に溶け込んでいるのである。
なんだかなぁという目でチロリとレシフェを見ながら、私の肩を歩くベイルートを見つけた。
今日は何処で祭祀を見るのだろうか。
朝も。二人とも楽しみにしていたけれど、それ以上に、朝なんかは心配していた。
青の本は「まだ大丈夫」と言っていたけれど「あんたはいつも予想の上をいくのよ」という朝に、さっきレシフェも頷いていたのを見てしまった。
聞かなかった事にしておこうと、お茶を静かに入れていた私はそのままにしておいたけど。
「はい、じゃあ次は?」
「ありがとう。また、お願いしてもいい?」
「勿論。連絡は………あの男に言ってくれれば。最近出入りしてるけど、祭祀が終わったらもっと忙しくなるかもね。」
うん?
レナも何か、知っているのだろうか。
私の視線に気が付いたのだろう、レナの「あんたもよ」という茶の瞳を見て「ああ、お店もやるんだ」という事を思い出した、私。
祭祀に気を取られて、何もかもが後回しになっている現状だ。
終わったら、一回のんびりしてどっか遊びにでも行きたいなぁ~。
温泉とか無いけど。そう考えると、シャットは屋上露天があったからいいよね…………。
作れないかなぁ………怒られそう。
一人でまたぐるぐるしているうちに、ガリアも終わり、トリルの番だ。
ガリアは普段の自分のお化粧と随分違うと感動していて、パミールと同じくまたレナにお願いしたいと言っている。
「でも私はやって欲しい、というより教えて欲しいわ。」
「いいんじゃない?教えてくれるよ、ねぇ、レナ?」
そう私が勝手に返事をしていると「そうね」とこちらを見ずにレナが手を動かしている。
まだ私が残っているので、サクサクと手を動かすレナはまた腕を上げた様に見える。
「凄いよなぁ。」
「まあ、お前はお前の事をやっているだろう?この後はまた忙しくなる。今日はまず、楽しめ。そのつもりだろうがな。」
「うん。」
パミールとガリアはお互いのお化粧をまじまじと観察しつつ私達の話を聞いていた様だ。
「ヨルが来てから、新しい事が多くて楽しいわ。」
「そうね。私達も、なんだか何でも出来そうな気分になる。不思議だけど。」
「うん。良かった。」
上手い言葉が見つからなくて、私はそんな事しか、言えなかった。
ロウワじゃなくても。
みんな、やっぱり感じている見えない壁や閉塞感。意識していなくとも、それはそれぞれの生活に想像以上に蔓延っているのだろう。
それを今また、気が付いて私は更に決意を固める。
よし。
「あまり気張り過ぎるなよ。」
「そうね。」
レシフェと朝がすかさず茶々を入れてくるけど、気合を入れるのはいい事じゃない??
そうこうしているうちにトリルのお化粧も終わった。
レナがボックスを一度パチンと閉じて、一旦三人を送り出すのだ。
私はみんなが並んでから中央へ進み出る事になっていて、それがまた緊張するのだけど、三人は先に行かなくてはならない。
「トリル………あなた、化粧したら?」
「いや、自分でやるのは面倒なんで。」
確かに変身したトリルに、ガリアが勧めているが予想通りの返答をするトリルに可笑しくなって笑う私達。
「じゃあ、ヨル。後でね。」
「頑張って!緊張しないようにね。」
「楽しみにしてます。ああ、メモ禁止なんて…。」
最後トリルが面白い事を言うので、またみんなで笑う。
きっと誰かに止められたのだろう。
ラガシュかな??
そうして三人を見送ると、レシフェを廊下に残したまま、すぐに私の手を引き部屋に戻るレナ。
「あんたも余裕がある訳じゃないからね。しかし私、光らない様に出来るかな………?」
ブツブツ言いながらも拭き取りから本格的に始めてくれたレナは、集中しながらも口も良く動いていた。
「ていうか聞いたわよ?中々祭祀前は会えないから聞けなかったけど、大丈夫なの?そんな光なんて降らせて。どうやって誤魔化すの?」
「それは聞いてない?えーとね………とりあえず、ウェストファリアさんの実験、っていう事になってるんだ。みんな、それぞれのまじないの色を降らせる実験なの。よくない?元々まじないの色を研究している人なんだけど……………。」
そうしてつらつらとレナに説明していく。
「でも、私が心配しているのはやっぱりあんたが真ん中で祈る、って事よ。」
私の説明を聞いても、そう言ったレナは何か思っている事がある様だ。
「だって、光が降る、それが其々の色だとしても。それだけじゃないと思う奴はいると思う。そもそもロウワやその他の人だって、そこまでのまじない力は、無いのよ。通常、降りる光は細く、儚い。」
手を止めるレナ。
今日の差し色はピンクパープルかぁなんて、手の中の色味を呑気に観察している私に、言う。
「だって、あんた本気で祈るでしょう?絶対、凄い光が降るわよ。そう思うわよね?」
問い掛けられたレシフェは、自分でお代わりを注ぎながら頷く。
「まぁな。想定内だ。こいつが祈るんだから、仕方が無いだろうな。」
なんかみんな…………。
私、とんでもない怪獣みたいじゃない???
「だがしかし、俺もな。この世界を変える為に、かつてあれだけの事をした。こいつの行手に何かが立ちはだかるならば、避けて通れる様にするだけだ。」
ヤバ。
私はレナと顔を見合わせる。
「たまにカッコいい事、言うわよね。コイツ。」
「同感。」
私達の言葉を聞いてため息を吐いたレシフェは「早く支度しろ。」と言ってまたカップを手にする。
「何しろ、無理はしないでよね。」
そう言うレナの気持ちのいい手を感じながら「うん。」と言っておいた。
正直、私も祈ってみないと何が起きるのか、自分でも全く想像ができないのだ。
楽しみでもあるけれど、不安もない訳じゃあ、ない。
でもな。
やるって決めたからには、楽しまなきゃね!
そうして私のお化粧をレナとレシフェは「光ってるか、光っていないか」という謎の基準で仕上げた後、二人は帰って行った。
「なんだか急に静かになって、緊張するでしょ。」
「そうかも。」
ズバリ、朝に言い当てられてとりあえず一度、椅子に腰掛けた。
私はあのオーロラワンピースで、髪は舞った時に綺麗に見える様、後毛を残して纏められている。
二人に何度もチェックされたので、光ってはいないが普段よりは多分、二割増し位のお化粧。
美しい石が光る、空色のローブ。
垂れ下がるその石を揺らしながら、一人ボーッと考える。
とうとう、これから雪の祭祀が始まる。
否が応でも、迫る緊張の波にさらわれない様意識するが、この静かな空間は危険だ。
迎えは、まだか。
すると丁度よく、ノックの音が聞こえた。
「はい。」
すぐに立って、扉を開ける。
そこに立っていたのは、ダーダネルスだった。
「あ。」
誰が迎えに来るのか聞いていなかった私は、その見慣れた薄灰色の髪と茶の瞳を見て、心底安心した。
ホッと息を吐いて、いつもと違う彼を見る。
今日は全員、空色のローブだからだ。
「お待たせしました。お迎えに上がりました、姫。」
えっ。
ひ、姫?!
ダーダネルスは私の事を姫とは呼んでいなかった筈だ。
焦っている私を見て、ハタと気が付いた彼はすぐに訂正をする。
「失礼しました、ヨル。支度は出来ましたか?」
「はい。すぐ、行きますね。」
一度扉を閉めて、支度をする。
お茶セットを片付け、洗面所の鏡で最後に確認をする。
髪留めは付いてるし、特に持ち物とか、無いよね………?
「朝、忘れ物とか無いよね?」
「多分?何か、持っていくものあるの?」
「…………多分、無い?」
「大丈夫かしらね………。まぁ思い出したら取りに来てあげるわ。」
「ありがと。」
ベイルートを肩に乗せ、部屋をチェックして鍵を閉める。
「お待たせしました。」
「いえ。では、行きましょうか。」
さて。
いよいよだ。
緊張を解そうと、話しかけてくれるダーダネルスと話しながら、灰青の絨毯を見つつ階段を下りる。
神殿の廊下でまた、ぐるりと空色を確認すると「私も、空色を開くんだ」と何となく気持ちが上がってきた。
この装飾に感謝だ。
やはりいつもと違う飾りや抑え目だが煌びやかな雰囲気に、自然とテンションが上がる。
外は、どんな感じだろう。
そう思いながらもダーダネルスに相槌を打ちながら、白い廊下を歩いて行った。
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