遅発性Ω

枝浬菰

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第三章

あひる組~♪

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「はぁはぁ……」と辛い呼吸を繰り返している。
「航……ちょっと待っててな」

立ち上がり、寝巻きと熱さまシートを用意した。

「航、着替えよ」
こくりと小さく頷いた。

航平を幼稚園に送ったままのようで上着を着ていた。
着替える際に温めておいたタオルで体をぬぐう。

いつも触ってる体をこんな違う風に見たのは初めてかもしれない。
きれいな白い肌に少し赤黒く腫れている箇所を見つけた。

もしかして、倒れる際に打ったのか?

そこに湿布を貼り寝巻きに着替えさせ、熱さまシートを貼り、布団に寝かせた瞬間

「おむかえ~ 航平のおむかえの時間だよ~♪」
と可愛らしい声のアナウンスが流れた。

!?「びっくりした」
そういえば、航と航平がコソコソと録音していたのを思い出した。

時計を見ると13時を指していた。
今日は早帰りか……。

「うっ」
と目を開ける航。
音声に反応したのか起き上がろうとしていた。

「ダメダメ、俺が航平を迎えに行くから」
「……でも」

あの幼稚園には行ってほしくない。
きっと俺から全てを奪ってしまう。

「大丈夫、航平迎えに行くだけだから」
声が漏れていたのか、恭平さんは俺の思いに合図するかのように言った。

「だから、航はお利口さんにお寝んねしてなさい」
「……はぁ、はぁ、お願いします」

「おう!」

恭平さん、仕事から帰ってお疲れなのに、こんな優しくしてくれて……。

目に涙がたまった。
-------------
幼稚園に航平を迎えに行く。
手にはスマホにインプットした地図を見ていた。

「たしか、この辺」
正直なところ、入園式には仕事で間に合わず、正装して帰り道に航と航平に会った。
でも航平は嬉しかったのか抱き着いてきた。

だから幼稚園に行くのは初めてだ。
保護者カードを航から渡され、それを身に着けて園内に入る。

ざわざわと子供の声が溢れかえっていて航平を見つけるのが大変。
「えっとどこの組だっけ?」

航平が家の中でずっと歌っていた。
「白くて可愛いぷかぷか浮かぶ僕!! はあひるだよ~♪」
「あひる組だ!!」
変わった歌だったから頭に残っていた。
そのあとにテレビで黒いあひるを見て
「黒もいる」って言ってたの思い出した。

航平を見てると航の小さいバージョンを見ているようで可愛いんだよな……って余韻に浸ってる場合じゃない。

だがこの行列をかき分けて迎えにいくのは至難の業……。
「お困りかしら?」
「え、あはい」

目の前に来たのは同じ保護者だよな?
って思うほどに美人な方だった。
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