つらじろ仔ぎつね

めめくらげ

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ー「しかしこうして集まってみると、なかなか感慨深いものだ」

集まった面々の顔を見渡す。梅岡に血のつながった家族は無いが、今ここに集う者達が彼にとっての家族のようなものであった。

「よくもまあこれほど長く御縁が続いたものよ」

「社長の人望ではないでしょうか」

となりにいた西が言うと、社長はうんうんと嬉しそうにうなずいた。

「良いこと言うじゃないか」

「西……こいつに世辞を申す価値などない。一銭にもならんことを言うな」

ゲーテが呆れた顔でタバコを吹かす。

「お世辞のつもりじゃありませんよ。あなたを含め、いろんな人の面倒を見てきてくれたんです。俺がおんなじくらい生きてたって到底出来ることじゃありません。そんな甲斐性はありませんよ」

「何を言う、このように穀潰しの化け猫をしっかり食わせてやってるじゃないか。その若さで大したものさ。幸四郎くん、君にはいろいろと期待してるぞ。ちゃんと大学に通っている者など今まで身の回りにゃいなかったからな。何せみんな身分証も持てない妖怪どもだ」

「"使える人間"は常に一定数いた方がいいからな。俺らの正体を知っていて、なおかつ人間社会でしっかりした身分の者があれば、部屋を借りるにも電話を持つにも何かと便利だ。今までは社長のオンナや大和しか居なかったが、晴れてこいつもその"仲介人"に仲間入りよ」

「そんな打算的に思っちゃいねえよ。だが今のお前の身元は、この幸四郎くんに属しとる。そこら辺をきちんとわきまえろよ」

「そんな責任重大に思ってませんよ。ワガママな猫一匹くらいならどうとでもなりますので、ご安心ください」

「言ったな小僧。生意気に」

社長とシロが笑い、会はこの調子で、ずっとゆるやかで和やかな空気を保っていた。

クロは改めてサノと佐野に大和を紹介し、二人は初めて親らしく大和に「末長くよろしく」と頭を下げた。あとからすべてを聞いた大和は、クロとサノたちがこのような関係を築けたことに安堵し、この三人が家族として認めあえたことを心から喜んだ。

そして意外だったのは、大和と同じタイミングでその顛末を聞いたシロが、さして驚きもしなかったことだ。

「気が合わないというわりに、俺から見てもサノちゃんとクロはあまりにも似過ぎてた。顔つきだけじゃない、意地っ張りで芯が強くて、怒りっぽいところさ。狐の子は頬白、とはよくいったものだ。似てないのは選ぶ男の趣味と……そうだな、サノちゃんはよくしゃべるが、クロは口数の少ないところくらいなもんか。似ているがゆえに互いが気にくわないのだろうと思っていたが、こうして秘密を明かされてみると、そのことに考えが及ばなかったことの方がフシギなくらいだ」

そう言って、部屋でそのことを明かしたサノに、カゴの中のクロを喰おうとしたことは不問にしてくれ、と笑ったのだ。

「これでサノちゃんがもう悲しい思いをせずに済んで良かった。俺はよう、お前のそのツンとしたかわいいお顔も好きだが、深く考えない明るいところが大好きなんだ。短気なとこはタマに疵だが、うじうじしねえでカラッと笑ってるとこを見ると、忙しさも疲れも吹き飛ぶってもんよ」

それを聞いてサノは、「なんの取り柄もないくせに、たまには良いこと言うんだね」とシロに抱きついて、笑って泣いた。


ー「狐のようなものは時々見かけて知ってましたが、普通の霊とは格が違って怖かったし、触れちゃいけないような気がしてました。でも白咲さんやあの子をひと目見たときに、その恐れのようなものが取っ払われたんです。特にクロは、キツネでも幽霊でも何でもいいから、とにかくどうにかして仲良くなりたいと思って……それで何かにつけては仕事仲間なんかを誘って、クロ見たさであの店に通ってました」

サノたちが大和から『なれそめ』を聞き出し、大和は少し照れつつそれを話して聞かせた。クロは恥ずかしさで居たたまれずに席を外し、シロと西たちに混ざってプールサイドで酒を飲んでいる。

「女給目当てでなく、黒服のために身銭を切ってたというわけか」

佐野が笑う。

「女の子たちにはいけ好かない客でしたでしょうね。となりに座って話してはいるものの、酒を運びに来るクロの方にばっかり意識を向けてるんですから。クロの方でも、はじめは気味悪がって警戒してるのがよく分かりました」
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