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第204話 視察の旅 その8
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不審者を発見したというライルの報告を受けた僕達は、本隊と共に不審者を追い詰めていくのだった。北から南に転進し、不審者がいるであろう場所目掛けて、一気に突き進んでいく。森の木々を避けながらの行軍のため、早さを犠牲にしてしまうが、それでも不審者を確実に接近しているだろう。しばらく、突き進んでいったが、なかなか不審者とぶつかることがなかった。どうやら、向こうも移動しているようだな。
僕達は本隊の後方にいるため、先のことは見えないが本隊は迷うことなく進んでいるということは不審者の影をしっかりと捕まえているということだろう。本隊の背中にピッタリとくっつく様に僕達とロドリス達は移動していく。すると、森が途切れたのか、青空を拝める場所に僕達はいた。本隊もそこで動きを止めた。とうとう追い詰めたか? 周囲を見ると、前方に壁の様な崖がある。後方には森があるのだから、ちょうど森の中に空いた空間に僕達はいるようだ。ロドリスたちも緊張した面持ちだ。
本隊が止まってから、どれくらいの時間が経っただろうか。僕が前方に様子を窺いに行こうとすると、後方から落ち葉や木の枝を踏みしめるような音が至るところから聞こえてきた。僕は振り返るのが怖かった。音だけで分かるのだ。この音は人の足音だ。しかも、数千人はいるだろう。僕は思い切って、振り返った。
そこにいたのは、王国の兵士ではなく、武器も持たず、ボロを身にまとい、ガリガリに痩せた人間や亜人たちだった。若い者たちがほとんどのようだが、目に生気がなく、素足で森を歩いていたせいだろうか足から出血している子供も大勢いた。一人の子供が僕の方に向かってこようとしたが、親らしい大人が子供の肩を掴み、必死に止めようとしていたのだ。これは、一体。
僕はロドリス達を連れ、先頭にいるライルのところに向かった。そこに、この人達の代表がいるに違いない。そう確信するのは、遠巻きにしている集団が誰かの指示を待っているのか、じっとこちらを見つめているだけだからだ。後方にはそれらしい者はいなかった。となると、先頭にいるはずだ。
止まっている兵たちを押しのけながら、先頭に出ると、そこには百人ほどの人間と亜人が崖の前で一塊になって、こちらを警戒していたのだ。この者たちも、後方にいる人達と同じような姿だ。少なくとも王国の兵士ではないな。僕は、ロドリスに顔を向け、知っていそうなものはいないか? と声を掛けたが、ロドリスの表情は恐怖ではない歓喜を含んだ震えを感じているような表情だった。その瞬間、ロドリスに従っていた若い二人の亜人が、前にいる集団に走って始めたのだった。僕は止めようと手を伸ばしたが、その時二人が出した声で手を引っ込めた。
「父ちゃん!!」
集団にいる一人の亜人が、一歩前に出て、若い二人の亜人と再会を喜んでいるように見えた。僕は、ロドリスに説明を求めた。若い亜人と再会を喜んでいる男はマルゲルというらしい。以前、ロドリスが僕との間で約束をした事を巡って、対立し、皆を扇動した相手だ。僕が約束を守り、亜人達を受け入れたことで、マルゲルは自らを恥じ、皆の前から姿を消したらしい。その男が目の前にいる。若い亜人二人とは親子のようだ。とりあえず、この状況を整理しなくてはならない。僕はライルに目を配り、集団に対して声を掛けた。
「僕の前にいる者たちよ。話を聞いてほしい。僕の名前は、ロッシュだ。イルス公国の主をしている者だ」
僕が自分の名前を言うと、周りからは大きなざわめきが聞こえ始めた。何が起こったというのだ? 僕が周りを見渡したが理由が分からない。ライルも首を傾げている様子だ。すると、マルゲルが子供の二人を押しのけ、更に一歩、こちらに近づくと膝を曲げ、こちらに頭を垂れてきた。マルゲルに続けとばかりに、残りの集団、さらには周りにいる人間や亜人までもが膝を曲げ、頭を垂れていた。この場で立っているのは、僕達と兵と訳もわからない子供だけだ。
「ロッシュ公にお願いがあります。我らを……我らを公国に迎えてはくださいませんか!!」
マルゲルの口から言葉が発せられた。その言葉は、僕達に恭順するという意思表示そのものだった。そういうことであれば、僕に異論はない。争いは好ましくないからな。ライルも僕に一任するという様子だ。とりあえず、武装解除を……って、武器を持っていないか。僕はライルに一応、戦闘の態勢だけは維持するように指示を出した後、マルゲルに向かって、代表者をこちらに寄越すように言葉をかけた。それに反応したのは、マルゲルと初老の人間のようだ。
マルゲルと初老の人間はこちらにゆっくりと向かって歩いてきた。僕も数歩前に出て、待ち構えることにした。僕の前に二人が立った。マルゲルは僕の後ろにいるロドリスを見て、かなり驚いたような表情をしていたが、すぐに気を取り直し、二人はすぐに膝を折り、恭順の姿勢を崩さなかった。立つように促したが、頑として聞く気がないようなので、僕はそのまま話をすることにした。
「まずは、争いがなく恭順を示してくれたことに感謝をしよう。無用な争いは好きではないからな。ただ、恭順を受け入れる前で、二人に確認しなければならない。が、その前に二人の名を聞こう」
二人は、交互に答えた。マルゲルは初老の亜人だ。初老の人間は、アンドルといった。
「アンドルとマルゲルか。まず、我らの二人の認識を教えよう。不審者だ。その疑いを払拭してほしいのだが、説明をしてもらおうか」
これについてはアンドルが答えた。アンドル達は、ロドリス達と同様に町や村を離れ、森に拠点を移した者たちだったようだ。当然だが、ロドリス達と悩みは一緒で、食料にかなり苦しんでいて、この冬を乗り越えるかどうかの食料しか持ち合わせていなったみたいだ。それでも、なんとか食料を節約して、ここまで耐え忍んでいたが、皆の限界はとうに過ぎようとしていたところ、マルゲルが現れたのだ。マルゲルは、ロッシュ公の存在を教え、我らを助けてくれる存在だと伝えたみたいだ。そんな者がいたら、間違いなく疑うな。
当然、疑ったみたいだ。しかし、ロドリスという者の存在が、マルゲルの言葉の裏付けとなった。ロドリスは近くに公国の助けを借りて、街の建設を始めた。しかも、日々送られてくる大量の食料が目に入らないわけがない。アンドルは、従ってくれる者たちと協議をして、公国へ恭順をしようということで話がまとまったらしい。
ここまで聞いても、不審者と思われるような行動を取った理由が分からないな。話を続けて聞いてみよう。アンドル達は公国とどのように接触していいかわからなかった。出来れば、ロドリスに仲介を頼みたかったが、それをマルゲルが許さなかった。そうなると、最高権力者に直談判しかないと結論になった。しかし、飢えに苦しむ一部の民が街に直に向かうという暴挙に走ったのだ。しかし、その民は武装している者に見つかり、逃げ帰ってきたのだ。
それが、不審者だったわけか。ただ、分からないが、その不審者となったものは僕がいると思って、街に近付いたのではなかったのか? なぜ、逃げ帰るようなマネをしたんだ? どうやら、僕がいるかどうかは関係なく、食料を奪いに行こうとして街に向かったが、武装した自警団に捕まると思って逃げ帰ったようだ。
なるほど。これで不審者がいる理由が分かったぞ。そうなると、次にわからないことが出てくる。アンドル達が森にいた理由と僕達を見事に包囲した謎だ。もし、囲っていた者たちが武装していたならば、僕達が生きてここから出ることは難しかっただろう。その時は肝が冷えたが、考えてみると素晴らしいものだった。
僕がその用兵について聞き出そうとしたが、アンドルが困惑した表情になっていた。どうやら、アンドル達がいた理由は、先走った者を捕まえるために捜索をしていたためで、逃げて捕まえたものを集落に連れ帰っていただけだそうだ。つまり、僕達の存在には全く気付いていなかったと。僕達は、偶々集落まで誘導されたため、囲まれただけだったそうだ。
分かってしまえば、こんなものなのか。てっきり、作戦があってのことかと思って、期待していたのだが。肩透かしを食らった気分だ。しかし、これでスッキリした。僕は、ロドリスから以前より、この地に似たような境遇のものがいるかもしれないと聞いていたので、アンドルたちの存在は驚くものではなかった。だからこそ、最初から受け入れるつもりでアンドルの話を聞いていたのだ。
それでも見過ごせないことがあった。先走った者の動機だ。どんな理由であれ、食料を奪うためと聞いて見過ごすわけにはいかない。僕はアンドルにその者を差し出すように命令をした。アンドルは助命嘆願をしてきたが、僕は聞く耳を持たない。とにかく差し出すように命令をすると、諦めたのか、一人の人間が前に出てきた。まだ、12歳位の子供だ。ひどく怯えているのか、膝の震えが止まらないようだ。
僕が一歩出て、その子供の前に立った。すると、その子供の親らしいものが慌てて飛び出してきて、助けを求めてきた。僕は親には顧みることはせず、子供だけを見ていた。
「お前は何をしようとしたのか分かっているのか? 食料がどういう意味をもつものであるか分からない歳でもないだろう。食料はな、民達が苦労を重ね作られたものだ。そして、公国民の誰もが餓えないために、皆が分け合い集めた貴重な物だ。お前はそれを奪おうとした。それは、公国民すべての思いを踏みにじる行為なのだ。わかるか?」
子供は震えながら、泣くのを我慢して、小さく返事だけをしていた。
「分かっているならばいい。ならば、お前の犯した罪の重さも理解できるであろう。その罰は極刑に値する。よって、罪を言い渡すぞ」
僕の言葉を聞いて、子供の親は色々想像をしたのだろう。僕が聞いていないと分かっていながらも、子供の助命を求めることをやめることはなかった。子供は諦めているのか、俯いているだけだった。
「よいか、お前はこれからは公国民となるのだ。今のことを肝に銘じておけ。そして、同じような過ちをしそうなものがいれば、お前が正してやるのだぞ。それがお前への罰としよう」
そう、つまりは無罪。僕は、僕の考えを皆に知らしめるために子供を利用したのだ。しかし、子供の行いを咎める必要性はあったのだから、子供には大いに反省してもらわなければならない。
親は狂喜して子供に抱きついていたが、子供は何が起きているのか分かっていない様子だった。だから、僕は親に向かって、子供に言い聞かせることと二度と過ちを起こさせないように注意しておくことを言いつけた。親は恐縮しながら、頭を下げて、人垣の中に子供と共に紛れていった。
それから、僕達は受け入れを決めたため、移動を開始することにした。一体、何人いるんだ? アンドルが言うには、二万人近くいるらしい。そうなると、街で受け入れるのは難しいかもしれないな。となると、二村に移動するのがいいだろう。といっても、今からでは厳しいのでとりあえず、街の郊外で宿営をしてもらうことにしよう。
とりあえず、不審者の話が出てから長い一日となった。何もしていない気がするが、街に帰ってゆっくりと休みたい気分だ。ゴードンには、また苦労をかけてしまいそうで、気が重くなってくる。
僕達は本隊の後方にいるため、先のことは見えないが本隊は迷うことなく進んでいるということは不審者の影をしっかりと捕まえているということだろう。本隊の背中にピッタリとくっつく様に僕達とロドリス達は移動していく。すると、森が途切れたのか、青空を拝める場所に僕達はいた。本隊もそこで動きを止めた。とうとう追い詰めたか? 周囲を見ると、前方に壁の様な崖がある。後方には森があるのだから、ちょうど森の中に空いた空間に僕達はいるようだ。ロドリスたちも緊張した面持ちだ。
本隊が止まってから、どれくらいの時間が経っただろうか。僕が前方に様子を窺いに行こうとすると、後方から落ち葉や木の枝を踏みしめるような音が至るところから聞こえてきた。僕は振り返るのが怖かった。音だけで分かるのだ。この音は人の足音だ。しかも、数千人はいるだろう。僕は思い切って、振り返った。
そこにいたのは、王国の兵士ではなく、武器も持たず、ボロを身にまとい、ガリガリに痩せた人間や亜人たちだった。若い者たちがほとんどのようだが、目に生気がなく、素足で森を歩いていたせいだろうか足から出血している子供も大勢いた。一人の子供が僕の方に向かってこようとしたが、親らしい大人が子供の肩を掴み、必死に止めようとしていたのだ。これは、一体。
僕はロドリス達を連れ、先頭にいるライルのところに向かった。そこに、この人達の代表がいるに違いない。そう確信するのは、遠巻きにしている集団が誰かの指示を待っているのか、じっとこちらを見つめているだけだからだ。後方にはそれらしい者はいなかった。となると、先頭にいるはずだ。
止まっている兵たちを押しのけながら、先頭に出ると、そこには百人ほどの人間と亜人が崖の前で一塊になって、こちらを警戒していたのだ。この者たちも、後方にいる人達と同じような姿だ。少なくとも王国の兵士ではないな。僕は、ロドリスに顔を向け、知っていそうなものはいないか? と声を掛けたが、ロドリスの表情は恐怖ではない歓喜を含んだ震えを感じているような表情だった。その瞬間、ロドリスに従っていた若い二人の亜人が、前にいる集団に走って始めたのだった。僕は止めようと手を伸ばしたが、その時二人が出した声で手を引っ込めた。
「父ちゃん!!」
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「ロッシュ公にお願いがあります。我らを……我らを公国に迎えてはくださいませんか!!」
マルゲルの口から言葉が発せられた。その言葉は、僕達に恭順するという意思表示そのものだった。そういうことであれば、僕に異論はない。争いは好ましくないからな。ライルも僕に一任するという様子だ。とりあえず、武装解除を……って、武器を持っていないか。僕はライルに一応、戦闘の態勢だけは維持するように指示を出した後、マルゲルに向かって、代表者をこちらに寄越すように言葉をかけた。それに反応したのは、マルゲルと初老の人間のようだ。
マルゲルと初老の人間はこちらにゆっくりと向かって歩いてきた。僕も数歩前に出て、待ち構えることにした。僕の前に二人が立った。マルゲルは僕の後ろにいるロドリスを見て、かなり驚いたような表情をしていたが、すぐに気を取り直し、二人はすぐに膝を折り、恭順の姿勢を崩さなかった。立つように促したが、頑として聞く気がないようなので、僕はそのまま話をすることにした。
「まずは、争いがなく恭順を示してくれたことに感謝をしよう。無用な争いは好きではないからな。ただ、恭順を受け入れる前で、二人に確認しなければならない。が、その前に二人の名を聞こう」
二人は、交互に答えた。マルゲルは初老の亜人だ。初老の人間は、アンドルといった。
「アンドルとマルゲルか。まず、我らの二人の認識を教えよう。不審者だ。その疑いを払拭してほしいのだが、説明をしてもらおうか」
これについてはアンドルが答えた。アンドル達は、ロドリス達と同様に町や村を離れ、森に拠点を移した者たちだったようだ。当然だが、ロドリス達と悩みは一緒で、食料にかなり苦しんでいて、この冬を乗り越えるかどうかの食料しか持ち合わせていなったみたいだ。それでも、なんとか食料を節約して、ここまで耐え忍んでいたが、皆の限界はとうに過ぎようとしていたところ、マルゲルが現れたのだ。マルゲルは、ロッシュ公の存在を教え、我らを助けてくれる存在だと伝えたみたいだ。そんな者がいたら、間違いなく疑うな。
当然、疑ったみたいだ。しかし、ロドリスという者の存在が、マルゲルの言葉の裏付けとなった。ロドリスは近くに公国の助けを借りて、街の建設を始めた。しかも、日々送られてくる大量の食料が目に入らないわけがない。アンドルは、従ってくれる者たちと協議をして、公国へ恭順をしようということで話がまとまったらしい。
ここまで聞いても、不審者と思われるような行動を取った理由が分からないな。話を続けて聞いてみよう。アンドル達は公国とどのように接触していいかわからなかった。出来れば、ロドリスに仲介を頼みたかったが、それをマルゲルが許さなかった。そうなると、最高権力者に直談判しかないと結論になった。しかし、飢えに苦しむ一部の民が街に直に向かうという暴挙に走ったのだ。しかし、その民は武装している者に見つかり、逃げ帰ってきたのだ。
それが、不審者だったわけか。ただ、分からないが、その不審者となったものは僕がいると思って、街に近付いたのではなかったのか? なぜ、逃げ帰るようなマネをしたんだ? どうやら、僕がいるかどうかは関係なく、食料を奪いに行こうとして街に向かったが、武装した自警団に捕まると思って逃げ帰ったようだ。
なるほど。これで不審者がいる理由が分かったぞ。そうなると、次にわからないことが出てくる。アンドル達が森にいた理由と僕達を見事に包囲した謎だ。もし、囲っていた者たちが武装していたならば、僕達が生きてここから出ることは難しかっただろう。その時は肝が冷えたが、考えてみると素晴らしいものだった。
僕がその用兵について聞き出そうとしたが、アンドルが困惑した表情になっていた。どうやら、アンドル達がいた理由は、先走った者を捕まえるために捜索をしていたためで、逃げて捕まえたものを集落に連れ帰っていただけだそうだ。つまり、僕達の存在には全く気付いていなかったと。僕達は、偶々集落まで誘導されたため、囲まれただけだったそうだ。
分かってしまえば、こんなものなのか。てっきり、作戦があってのことかと思って、期待していたのだが。肩透かしを食らった気分だ。しかし、これでスッキリした。僕は、ロドリスから以前より、この地に似たような境遇のものがいるかもしれないと聞いていたので、アンドルたちの存在は驚くものではなかった。だからこそ、最初から受け入れるつもりでアンドルの話を聞いていたのだ。
それでも見過ごせないことがあった。先走った者の動機だ。どんな理由であれ、食料を奪うためと聞いて見過ごすわけにはいかない。僕はアンドルにその者を差し出すように命令をした。アンドルは助命嘆願をしてきたが、僕は聞く耳を持たない。とにかく差し出すように命令をすると、諦めたのか、一人の人間が前に出てきた。まだ、12歳位の子供だ。ひどく怯えているのか、膝の震えが止まらないようだ。
僕が一歩出て、その子供の前に立った。すると、その子供の親らしいものが慌てて飛び出してきて、助けを求めてきた。僕は親には顧みることはせず、子供だけを見ていた。
「お前は何をしようとしたのか分かっているのか? 食料がどういう意味をもつものであるか分からない歳でもないだろう。食料はな、民達が苦労を重ね作られたものだ。そして、公国民の誰もが餓えないために、皆が分け合い集めた貴重な物だ。お前はそれを奪おうとした。それは、公国民すべての思いを踏みにじる行為なのだ。わかるか?」
子供は震えながら、泣くのを我慢して、小さく返事だけをしていた。
「分かっているならばいい。ならば、お前の犯した罪の重さも理解できるであろう。その罰は極刑に値する。よって、罪を言い渡すぞ」
僕の言葉を聞いて、子供の親は色々想像をしたのだろう。僕が聞いていないと分かっていながらも、子供の助命を求めることをやめることはなかった。子供は諦めているのか、俯いているだけだった。
「よいか、お前はこれからは公国民となるのだ。今のことを肝に銘じておけ。そして、同じような過ちをしそうなものがいれば、お前が正してやるのだぞ。それがお前への罰としよう」
そう、つまりは無罪。僕は、僕の考えを皆に知らしめるために子供を利用したのだ。しかし、子供の行いを咎める必要性はあったのだから、子供には大いに反省してもらわなければならない。
親は狂喜して子供に抱きついていたが、子供は何が起きているのか分かっていない様子だった。だから、僕は親に向かって、子供に言い聞かせることと二度と過ちを起こさせないように注意しておくことを言いつけた。親は恐縮しながら、頭を下げて、人垣の中に子供と共に紛れていった。
それから、僕達は受け入れを決めたため、移動を開始することにした。一体、何人いるんだ? アンドルが言うには、二万人近くいるらしい。そうなると、街で受け入れるのは難しいかもしれないな。となると、二村に移動するのがいいだろう。といっても、今からでは厳しいのでとりあえず、街の郊外で宿営をしてもらうことにしよう。
とりあえず、不審者の話が出てから長い一日となった。何もしていない気がするが、街に帰ってゆっくりと休みたい気分だ。ゴードンには、また苦労をかけてしまいそうで、気が重くなってくる。
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