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青葉香る
親睦会と悩み事3
しおりを挟む蘭の事でもやもやしている内に、あっという間に金曜日がやって来てしまった。
6校時が終わると皆んなして足早に教室を出て、学園のすぐ近くにあるコンビニへ向かう人と、そのまま自由ホールに向かう人とで別れた。
コンビニ組はお菓子と飲み物調達係だ。
僕と葉君は自由ホール組だから、鞄を寮部屋に置くと他のクラスメイト達と場所取りをしに行く。
ここは階全体がホールになっているから充分な広さがあるけど、一番大きなソファは上級生達の場所だという暗黙の了解があるらしい。
目をつけられたら困るから、僕たちは隅っこのあまり目立たない所を選んだ。
ぼんやりと待ってると、両手に袋をたくさんぶら下げてコンビニ組が帰ってきた。
あまりの大荷物に思わず皆んな笑ってしまった。
「ねえ、ちょっと買いすぎだって。」
「高校男子だぞ?これくらい食べられるだろうが。」
「飲み物は何あるー?」
「コーラとお茶、紅茶、あとジュース系。」
「カルピス買って来いよ使えないな。」
「鈴木!目怖いから!」
そして皆んな揃ったところで乾杯し、親睦会が始まった。
僕の隣には当たり前のように純ノ介が座り、葉君は僕の前に座っている。
この二人が近くにいてくれれば安心だ。
少し落ち着いてきたところで、僕は気になっていたことを葉君に聞いてみた。
「あのさ、今日って蘭はどうしてる?」
それを聞いて不思議そうな顔をする葉君。
ポッキーを頬張りつつ、僕の質問に答えた。
「知らない。
ああ、でもテンションは高かったよ。いつもより数倍もウザかった。
なにか良い事でもあったのかもね。」
「そうなんだ。」
テンションが高いというのは、やっぱり影千加と会うからだろうか。
僕たちの話を聞いていた純ノ介が尋ねてくる。
「蘭くんがどうかしたの?」
「いや、何でもないよ。」
そう答え、手に持っていた紅茶をグイッと口に含んだ。
あの蘭が…と考えると、なんだか複雑な気持ちになってきてしまい、ソファに深く沈むようにして背もたれに寄りかかった。
今まで蘭が男の人が恋愛対象だなんて知らなかった。
僕自身、中学の時にたった一度だけ男の人を好きになった事がある。と言うより、好きになった人が男の人だったと言うべきか。
お互いに悩みもあっただろうし、もしかしたら相談し合える関係になっていたかもしれない。
もっと蘭と会話をしてくれば良かったかも。
今さらそんな事考えてもな…なんて自嘲めいたため息を吐いた時、数人のクラスメイトが僕の近くに寄って来て隣に座った。
「よう、話すのは初めてだな。俺、楽。
改めてよろしく。」
「あ、うん、よろしく。僕は…。」
「知ってるよ。藤縞君でしょ?有名になってるよ。」
まさかの言葉に目を丸くした。
なんで有名?『藤縞』なんてそんなに知られているはずはないのに。
他の原因を考えてみる。
あと思い当たるのは…
「…もしかして、食堂の時の?」
恐る恐る尋ねてみると、そうソレ!と答えられた。
「実はさ、皆んな気にしてたんだよね。藤縞君と生徒会長のこと。知り合いなの?」
「いや、知り合いじゃないよ。僕の同室の人が柏木先輩と知り合いで、それであの時ちょっと話して…。」
「あ、そうなんだ?」
やっぱり噂になっていたのか。
あの時のこと、この人たちはどう思っているのだろう。
柏木先輩が人気があるのは知っている。そんな人と喋った僕を良く思っていない?
それとも単純に興味が湧いただけ?
不安な気持ちになっていると、クラスメイトの1人がぽつりと言葉を零した。
「いやー、お前も大変だったな。
巻き込まれた、みたいな感じなわけでしょ?あんな有名人に声かけられたら嫌だよなぁ。」
「嫌、というか、驚いたというか…。」
「だよねぇ。まあ、災難だったな。誰かに何か言われても気にすんなよ。」
これは、分かってくれたのだろうか。
変な噂にもならなくて、こうやって直接聞いてきてくれて、さっきまでの不安だとか緊張だとかが和らいだ。
隣の純ノ介の顔を覗くと、僕にニコッと微笑んだ。
「良かったなぁ、紫乃ちゃん。」
「…うん。」
それに応えるように、僕も笑いかけた。
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