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ネコ娘、カフェデートをする
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ヒュドラ退治から2週間後。
アタイは手持ち無沙汰に街を歩いていた。
「昨夜はしこたま飲んだなぁ」
昨日、ボス戦の報酬が振り込まれて、大金が手に入った。それで、明け方までメリーやササミと一緒に、酒場で大はしゃぎしていた。
宴の翌日、起床は昼過ぎ。服装はゆるゆるのTシャツ。だらしなさを極めながら、通りをぶらぶらと歩いた。
「ランチタイムが終わっているから、開いている店が少ないな」
寝すぎで昼飯を食べそびれていた。
飲食店は準備中の札ばかり。
たまに開いているのは、小さな喫茶店。
「どうしようかな……」
普段行かない街の中心に近いところまで足を延ばすと、新しい店を見つけた。
オープンテラスのあるカフェ。
果物をふんだんに使ったパフェやケーキを食べる客で賑わっていた。
「おいしそう。でも……」
客層が自分と違いすぎた。
街で暮らす可愛らしい娘たちや、マダム。ちょっと混ざれそうにない。
「なんでケーキ屋って無駄にお洒落にするんだろうな」
ランチタイムをのがしていたアタイは、急に強い空腹を感じだした。
そのまましばらく、少し手前から店をにらむ。
完全に不審者だ。さっさとこの場を離れよう。
「あれ、エルザ?」
踵を返そうとするアタイの足が止まる。
「……ルイス」
買い物袋を抱えたルイスがアタイに手を振っていた。
「エルザも休みだったんですね」
昼下がりの穏やかな光を受けて、アタイに駆け寄る彼。
「ふわぁ……」
見開いたアタイの瞳いっぱいに、笑顔のルイスが映る。
「どうしたんです? こんなところで」
「えっと……」
そこで、アタイは自分の状態に気づいて、急にモジモジしだした。
大酒を飲んだ翌日の、だらしないTシャツ姿。気になる異性に見られてよい恰好じゃない。
脳内パニックになるアタイに対し、幸いにも、ルイスには全く気にした様子はなかった。彼はアタイの立つ少し先に、大きなカフェがあることに気がついた。
「あのお店、1週間前にオープンしたところだそうですね。エルザも気になりました?」
「あ、えっと……」
「美味しそうですよね」
「うん……」
一緒にカフェを眺めていると、空気の読めないアタイのお腹がぐうぅぅぅと鳴った。
「もしかして、お腹が空いてます?」
「あ……、昼飯、食べそびれて」
「それなら、せっかくですし、入ってみます?」
ルイスがカフェを指して言う。
えっと、入ってみますって、一緒に、だよね。
「う……うん」
アタイはルイスと一緒に、賑わう店の扉をくぐった。
人気店の2人席は、小さなテーブルとイス。向き合う距離は必然と近い。
「デラックスパフェ」
ルイスは迷わず一番大きなパフェにいった。
「フルーツタルトを」
アタイはカラフルなタルトを頼んだ。
注文はすぐに来て、ルイスは大きなパフェをモリモリと食べ始めた。
分厚いクリームもアイスクリームも、すいすいお腹に入るみたいだ。
「……やっぱり、意外です?」
「へ?」
美味しそうに食べるルイスを見ていたら、気恥ずかしそうに言われた。
「僕、顔のわりに食べるって、よく言われるんです」
「あはは……」
たしかに。
ルイスは繊細な貴公子っぽい見た目だけど、中身には案外、荒くれの冒険者とも仲良くできる気安さがある。
でも、今も周囲はルイスの外見に魅了されていた。
店内で、ルイスはたくさんの女の子の視線を集めている。
ルイスが注目されると、一緒にいるアタイも自然と多くの人の目に入るわけで。アタイはきっと、ルイスに釣り合わないと思われているんだろうな。
そんなことを考えてしまい、アタイはお腹にしっぽを巻きつけて、うつむきがちにタルトを少しずつ口にしていた。
「……あんまり、口に合いません?」
ルイスに心配されて、あわてて首を振った。
「いや、美味しいんだけど……。アタイ、こういうお洒落な店にあんまり来ないから、自分が場違いな気がして……」
ルイスは縮こまるアタイを見てまばたきを数度して、口元に手を当てて何か考える仕草をした。
「エルザには、もっと気楽にお菓子を食べられる方がいいですね」
彼はよく分かったというふうに頷いて、
「今度、ケーキバイキングしましょう!」
斜め上の提案をしてきた。
「ケーキバイキング?」
良い店、知ってるの?
「材料をたくさん買って、ケーキをいっぱい焼くんです。アザレアさんのところの子どもたちも一緒に、みんなで好きなケーキを好きなだけ食べられるようにしましょう」
ルイスが手作りするのか!
「それは楽しそう……かも」
「はい。腕によりをかけて美味しいケーキを作りますよ」
満面の笑みのルイスは可愛いけど、えらいことになった。
アタイはルイスとケーキバイキングの日程や詳しい内容を話し合う。
会話に夢中になるうちに、周囲の視線は気にならなくなっていた。
アタイは手持ち無沙汰に街を歩いていた。
「昨夜はしこたま飲んだなぁ」
昨日、ボス戦の報酬が振り込まれて、大金が手に入った。それで、明け方までメリーやササミと一緒に、酒場で大はしゃぎしていた。
宴の翌日、起床は昼過ぎ。服装はゆるゆるのTシャツ。だらしなさを極めながら、通りをぶらぶらと歩いた。
「ランチタイムが終わっているから、開いている店が少ないな」
寝すぎで昼飯を食べそびれていた。
飲食店は準備中の札ばかり。
たまに開いているのは、小さな喫茶店。
「どうしようかな……」
普段行かない街の中心に近いところまで足を延ばすと、新しい店を見つけた。
オープンテラスのあるカフェ。
果物をふんだんに使ったパフェやケーキを食べる客で賑わっていた。
「おいしそう。でも……」
客層が自分と違いすぎた。
街で暮らす可愛らしい娘たちや、マダム。ちょっと混ざれそうにない。
「なんでケーキ屋って無駄にお洒落にするんだろうな」
ランチタイムをのがしていたアタイは、急に強い空腹を感じだした。
そのまましばらく、少し手前から店をにらむ。
完全に不審者だ。さっさとこの場を離れよう。
「あれ、エルザ?」
踵を返そうとするアタイの足が止まる。
「……ルイス」
買い物袋を抱えたルイスがアタイに手を振っていた。
「エルザも休みだったんですね」
昼下がりの穏やかな光を受けて、アタイに駆け寄る彼。
「ふわぁ……」
見開いたアタイの瞳いっぱいに、笑顔のルイスが映る。
「どうしたんです? こんなところで」
「えっと……」
そこで、アタイは自分の状態に気づいて、急にモジモジしだした。
大酒を飲んだ翌日の、だらしないTシャツ姿。気になる異性に見られてよい恰好じゃない。
脳内パニックになるアタイに対し、幸いにも、ルイスには全く気にした様子はなかった。彼はアタイの立つ少し先に、大きなカフェがあることに気がついた。
「あのお店、1週間前にオープンしたところだそうですね。エルザも気になりました?」
「あ、えっと……」
「美味しそうですよね」
「うん……」
一緒にカフェを眺めていると、空気の読めないアタイのお腹がぐうぅぅぅと鳴った。
「もしかして、お腹が空いてます?」
「あ……、昼飯、食べそびれて」
「それなら、せっかくですし、入ってみます?」
ルイスがカフェを指して言う。
えっと、入ってみますって、一緒に、だよね。
「う……うん」
アタイはルイスと一緒に、賑わう店の扉をくぐった。
人気店の2人席は、小さなテーブルとイス。向き合う距離は必然と近い。
「デラックスパフェ」
ルイスは迷わず一番大きなパフェにいった。
「フルーツタルトを」
アタイはカラフルなタルトを頼んだ。
注文はすぐに来て、ルイスは大きなパフェをモリモリと食べ始めた。
分厚いクリームもアイスクリームも、すいすいお腹に入るみたいだ。
「……やっぱり、意外です?」
「へ?」
美味しそうに食べるルイスを見ていたら、気恥ずかしそうに言われた。
「僕、顔のわりに食べるって、よく言われるんです」
「あはは……」
たしかに。
ルイスは繊細な貴公子っぽい見た目だけど、中身には案外、荒くれの冒険者とも仲良くできる気安さがある。
でも、今も周囲はルイスの外見に魅了されていた。
店内で、ルイスはたくさんの女の子の視線を集めている。
ルイスが注目されると、一緒にいるアタイも自然と多くの人の目に入るわけで。アタイはきっと、ルイスに釣り合わないと思われているんだろうな。
そんなことを考えてしまい、アタイはお腹にしっぽを巻きつけて、うつむきがちにタルトを少しずつ口にしていた。
「……あんまり、口に合いません?」
ルイスに心配されて、あわてて首を振った。
「いや、美味しいんだけど……。アタイ、こういうお洒落な店にあんまり来ないから、自分が場違いな気がして……」
ルイスは縮こまるアタイを見てまばたきを数度して、口元に手を当てて何か考える仕草をした。
「エルザには、もっと気楽にお菓子を食べられる方がいいですね」
彼はよく分かったというふうに頷いて、
「今度、ケーキバイキングしましょう!」
斜め上の提案をしてきた。
「ケーキバイキング?」
良い店、知ってるの?
「材料をたくさん買って、ケーキをいっぱい焼くんです。アザレアさんのところの子どもたちも一緒に、みんなで好きなケーキを好きなだけ食べられるようにしましょう」
ルイスが手作りするのか!
「それは楽しそう……かも」
「はい。腕によりをかけて美味しいケーキを作りますよ」
満面の笑みのルイスは可愛いけど、えらいことになった。
アタイはルイスとケーキバイキングの日程や詳しい内容を話し合う。
会話に夢中になるうちに、周囲の視線は気にならなくなっていた。
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