上 下
15 / 44

ネコ娘、カフェデートをする

しおりを挟む
 ヒュドラ退治から2週間後。
 アタイは手持ち無沙汰に街を歩いていた。

「昨夜はしこたま飲んだなぁ」

 昨日、ボス戦の報酬が振り込まれて、大金が手に入った。それで、明け方までメリーやササミと一緒に、酒場で大はしゃぎしていた。

 うたげの翌日、起床は昼過ぎ。服装はゆるゆるのTシャツ。だらしなさを極めながら、通りをぶらぶらと歩いた。

「ランチタイムが終わっているから、開いている店が少ないな」

 寝すぎで昼飯を食べそびれていた。
 飲食店は準備中の札ばかり。
 たまに開いているのは、小さな喫茶店。

「どうしようかな……」

 普段行かない街の中心に近いところまで足を延ばすと、新しい店を見つけた。
 オープンテラスのあるカフェ。
 果物をふんだんに使ったパフェやケーキを食べる客で賑わっていた。

「おいしそう。でも……」

 客層が自分と違いすぎた。
 街で暮らす可愛らしい娘たちや、マダム。ちょっと混ざれそうにない。

「なんでケーキ屋って無駄にお洒落にするんだろうな」

 ランチタイムをのがしていたアタイは、急に強い空腹を感じだした。

 そのまましばらく、少し手前から店をにらむ。
 完全に不審者だ。さっさとこの場を離れよう。

「あれ、エルザ?」

 きびすを返そうとするアタイの足が止まる。

「……ルイス」

 買い物袋を抱えたルイスがアタイに手を振っていた。

「エルザも休みだったんですね」

 昼下がりの穏やかな光を受けて、アタイに駆け寄る彼。

「ふわぁ……」

 見開いたアタイの瞳いっぱいに、笑顔のルイスが映る。

「どうしたんです? こんなところで」
「えっと……」

 そこで、アタイは自分の状態に気づいて、急にモジモジしだした。
 大酒を飲んだ翌日の、だらしないTシャツ姿。気になる異性に見られてよい恰好じゃない。

 脳内パニックになるアタイに対し、幸いにも、ルイスには全く気にした様子はなかった。彼はアタイの立つ少し先に、大きなカフェがあることに気がついた。

「あのお店、1週間前にオープンしたところだそうですね。エルザも気になりました?」
「あ、えっと……」
「美味しそうですよね」
「うん……」

 一緒にカフェを眺めていると、空気の読めないアタイのお腹がぐうぅぅぅと鳴った。

「もしかして、お腹が空いてます?」
「あ……、昼飯、食べそびれて」
「それなら、せっかくですし、入ってみます?」

 ルイスがカフェを指して言う。
 えっと、入ってみますって、一緒に、だよね。

「う……うん」

 アタイはルイスと一緒に、賑わう店の扉をくぐった。


 人気店の2人席は、小さなテーブルとイス。向き合う距離は必然と近い。

「デラックスパフェ」

 ルイスは迷わず一番大きなパフェにいった。

「フルーツタルトを」

 アタイはカラフルなタルトを頼んだ。

 注文はすぐに来て、ルイスは大きなパフェをモリモリと食べ始めた。
 分厚いクリームもアイスクリームも、すいすいお腹に入るみたいだ。

「……やっぱり、意外です?」
「へ?」

 美味しそうに食べるルイスを見ていたら、気恥ずかしそうに言われた。

「僕、顔のわりに食べるって、よく言われるんです」
「あはは……」

 たしかに。
 ルイスは繊細な貴公子っぽい見た目だけど、中身には案外、荒くれの冒険者とも仲良くできる気安さがある。

 でも、今も周囲はルイスの外見に魅了されていた。
 店内で、ルイスはたくさんの女の子の視線を集めている。

 ルイスが注目されると、一緒にいるアタイも自然と多くの人の目に入るわけで。アタイはきっと、ルイスに釣り合わないと思われているんだろうな。
 そんなことを考えてしまい、アタイはお腹にしっぽを巻きつけて、うつむきがちにタルトを少しずつ口にしていた。

「……あんまり、口に合いません?」

 ルイスに心配されて、あわてて首を振った。

「いや、美味しいんだけど……。アタイ、こういうお洒落な店にあんまり来ないから、自分が場違いな気がして……」

 ルイスは縮こまるアタイを見てまばたきを数度して、口元に手を当てて何か考える仕草をした。

「エルザには、もっと気楽にお菓子を食べられる方がいいですね」

 彼はよく分かったというふうに頷いて、

「今度、ケーキバイキングしましょう!」

 斜め上の提案をしてきた。

「ケーキバイキング?」

 良い店、知ってるの?

「材料をたくさん買って、ケーキをいっぱい焼くんです。アザレアさんのところの子どもたちも一緒に、みんなで好きなケーキを好きなだけ食べられるようにしましょう」

 ルイスが手作りするのか!

「それは楽しそう……かも」
「はい。腕によりをかけて美味しいケーキを作りますよ」

 満面の笑みのルイスは可愛いけど、えらいことになった。
 アタイはルイスとケーキバイキングの日程や詳しい内容を話し合う。
 会話に夢中になるうちに、周囲の視線は気にならなくなっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:1,201pt お気に入り:7

猫耳幼女の異世界騎士団暮らし

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,204pt お気に入り:412

なんちゃって悪役王子と婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:2,645

ある日猫耳少年を拾った

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

私の夫が未亡人に懸想しているので、離婚してあげようと思います

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:53,015pt お気に入り:911

迷惑ですから追いかけてこないでください!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:41,919pt お気に入り:828

毒使い【第一部完結】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:363pt お気に入り:14

処理中です...