最強勇者の夫～陰であなたを支えます。

死者の国 冥界

LV214 闇落ち

　ヴィオラはタケルが厳しい試練を乗り越えて会得した『勇者闘気』を一度見ただけで会得したのだった。

　フミヤは改めてヴィオラのすごさを思い知る。

　そして、徐々に平静さを取り戻したフミヤはある事に気付く。

「タケルの闘気より、ヴィオラの闘気の方がが大きい気がするんだが……」

「そう？」

　
　そうこうしている内に、かなりの魔力をため込んだブリズエラがスキルを発動する。

「変異……」

　ブリズエラの体がひと回り程大きくなり、額と左右のこめかみ付近に生えた角が2倍ほどの大きさに肥大する。そして、何よりも体に纏う魔力が今までの数倍に膨れ上がっていく。

「調子に乗るなよ、人間」

「魔王、止めを刺してやる」


　両者が再び激突――するかに見えた瞬間、二人の間にヴィオラが割って入った。ヴィオラは闘気を纏った右手でタケルの剣をあっさりと掴み、もう一方の手でブリズエラの腹部辺りを押し軽々と突進を止めた。

「そ、その闘気。勇者闘気！」

「ヴィ、ヴィオラさん」

　＊ヴィオラはメガヒールを唱えた。
　＊ブリズエラの胸の傷が塞がっていく。

「二人とも、もうやめましょう」

　タケルは後ろに跳びヴィオラとブリズエラとの距離を取った。

「僕が必死の思いで習得したスキルなのに……なぜ、あなたが？」
　タケルは理不尽さに怒り体を震わせていた。

　＊タケルの憎悪がどんどんと増していく。

「なぜなんだあああああぁー！」

　タケルの勇者闘気が漆黒の闘気に変わる。

「あああああああああ」

　魔王に近い気配を放つタケルの目は黒色に染まり、体中に紋様が浮かび上がる。

「闇落ち……」
　イルイルが呟いた。

「僕はこの世界を変えるために転生してきたんだ……お前達なんかに負ける訳がない。今日の僕は疲れてるんだ……いずれ全員排除してやる。この世界の主人公は僕なんだ！」

　タケルは黒い闘気を利用し、空へと浮かび
「また来るよ」と、言い残し去って行く。

　タケルは冥界での『ザクロ実《ざくろのみ》の呪い』を浄化する儀式の際に、負の力に当たり呪いを受けてしまった。己の中に住まう負の心が『浄化の呪い』に負けてしまったのある。
　
　闇の力を手にしたタケルは闇落ちし、人間でもなく魔物でなく純粋なる「悪《あく》」となってしまったのだった。

　タケルはヴィオラ達との再戦を誓い、行方を晦《くら》ました。
　
　それからしばらくの後、ブリズエラとタケルは再び戦う事になる。