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一、溺愛始めました。

17※

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「甘い……」
 俺が思ったことと同じようで魔王が呟く。

 唇が離れ、熱が引いていく。もっと欲しいのに。
 俺は寂しくなって魔王の唇を追った。

「ん……っん……あ、あ……んん」

 唇と唇を重ねてもなお物足りなく感じた。
 俺は捕まえるように自ら魔王の舌を吸った。
 舌と舌が擦れて気持ちがいい。
 魔王は足りないと言わんばかりに舌を絡めた。

「ん……ンンっ……」

 不意に魔王の指が俺の下半身に触れた。
 カリカリと爪で中心の膨らみを撫でる。擽るような刺激のせいでそこが熱を持つ。
 更なる刺激を期待するように硬くなっていくのを感じながら、俺は下半身を押し付けた。

 キスだけで終わらないで欲しい。そんな気持ちが急に湧いてくる。
 どうやら俺はとんでもなく淫らになってしまったらしい。

「ん……んん、ん!」

 口内と下半身を責められ、頭の中がぐちゃぐちゃになった。

「ふっ……ふ……ん……ン……ふぅ、あっ♡」

 長いこと蹂躙される口内。
 どれだけの時間が経ったのだろう。もう10分以上はキスをしている気がする。

 下半身の方の刺激も弱いものから次第に強くなっていた。
 やわやわと揉まれたそれは完全に勃ち上がり、下着の中で窮屈な思いをしている。 

「ん、んんっ」

 キスに合わせて魔王は腰をゆったりと動かす。
 熱く硬いものが俺のモノにごりごりと押し付けられる。
 熱の高まりを感じた。
 思わず、俺も応えるように腰をくねらせた。

「はぁ……足りない」
 魔王はそう呟くともう一度、唇を食む。
 何度も何度も繰り返し、息継ぎでもするかのように解放されては唇を塞がれた。

「ん……ン……まお……っ……」
 何度も何度も譫言のように魔王の名前を呼んだ気がする。
 もう俺は下半身を擦り付けあうだけでは物足りなくなってきていた。

「おちんちん、もっと……擦って……一緒に……」
「キスだけなんだろう」
「少し、少しだけ……なあ、いいだろ?」

 誘われるまま、魔王は目の前で大きくなったソレを寛げる。
 何度か見たが、相変わらず大きい。

 汗で滲んだ視界から満足そうな魔王の顔が見えた。
 最初からこれが狙いだったんだ。
 そう思ったがもう止められなかった。

「熱……っ」

 重ね合わせ、擦り合わせられる熱。
 腰が欲しがるようにひくつく。

「少しで済めばいいが……」
「ん……んん……っああっ! あ♡ あ♡」

 二人分の先走り液ですぐにそこは濡れ、魔王の手の動きがスムーズになる。
 竿の部分を擦っているだけなのにやたらと気持ちがよかった。
 これで敏感な先っぽを撫でられてしまったら、すぐに絶頂を迎えてしまうに違いない。

「ん♡ んん♡ ああ♡ あっ♡♡」
 鼻にかかったような甘い声が後から後から溢れてくる。
 男に媚びを売るような気持ち悪い声だと思うのにやめられない。

 魔王はお構いなしに重ね合わせたモノを扱き上げた。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が聞こえる。
 先走り液にも魔力が含まれているらしく、下半身が熱い。

「まお、イって……っ♡ あ♡ いっしょ……いっしょにっ!」

 懇願するように魔王の髪を掴む。
 魔王は自分の唇で俺の唇を塞いだ。

「ん……んん♡ ん♡」

 手の動きが早くなり、先っぽのいいところが責め立てるようにして扱かれる。
 俺は腰を動かしてそれに応える。

 あっという間に上り詰め、目の前が白く弾けた。
 下半身から溜まっていた熱が吐き出された。

 ぐるぐるする。
 魔王の魔力が全身を駆け巡るような感じがした。

「ルカ……ルカ……愛してる」
 魔王は俺の唇を啄みながら呟く。

「ン……」
「全てを与えても足りない……」
「んんっ……まおー?」
「どうやって返したらいい?」
「ん……何を?」

「こんなに沢山貰ったのに……ん、返し方が分からないんだ」
 魔王が熱っぽく囁く。

 イったばかりの思考の蕩けた頭では魔王の言っていることが理解出来なかった。

「んんっ……じゃあ、返して?」
「何を?」

「とーさまと、かーさま……」
 俺はずっとただ返して欲しかったものを口にした。

 魔王は何も言わずに俺を抱き締めた。
 俺は魔王の体温が心地よくて、抱き締め返す。
  
「すまない……」
 熱い身体に魔王の声がじわじわと響く。

 なくなったものは返ってこない。
 どんなに願っても、縋っても、俺の欲しいものはもうこの世のどこにもない。
 そのことだけが無情に突きつけられた。

 頭の芯が冷えていく。意識が現実に戻ってくる。

「魔王、教えて……」
「嗚呼……」
「なんで二人は死ななきゃならなかった? 悪いことをしたか? これは何の罰なんだ?」

 それは、自分の中で何回も繰り返した問答だった。
 何度も何度も考えたけど、答えは一向に出てこない。
 返してくれないのならせめて教えて欲しかった。

「すまない……」

 魔王は突き放すようにもう一度、謝罪を口にする。
 そんな言葉が聞きたいわけではない。
 そんな謝罪は誠意でもなんでもない。

 重ね合わせた熱はもう引いていた。

「あの日まで、本当に、普通だったんだよ……普通に生きてた。それだけなのに、なんで?」
「ルカ……」
「俺は、お前に何も与えてない……俺は奪われたんだ」
「私が……」

「お前が、二人を殺したんだ」

「ルカ、私は……っ」
 魔王は何度も喘ぐように呟く。

 その続きを言えよ。
 そして、俺が納得するような理由を並べてくれ。頼むから。
 
「返してくれないのなら教えろよ! なんで殺したりしたんだ!」

「……魔王がそれを望んだから……だ」
 魔王はあっさりとそう呟いた。
 まるで他人事みたいな呟きに、頭の奥が焼き切れそうになる。
 どんな呪詛を吐けば気が紛れるのだろう。
 怒りで目の前が真っ白になる。

「魔王はお前だろう?」

 許せない。

 俺はこの目で見たんだ。
 両親が死んでいたあの部屋に魔王が立っているのを。母様の首を抱いて笑っているのを。俺の翼を掴んで、切り刻んで捨てたのを。
 全て、お前が望んで、やったことだったのか。

「許さない! 俺は絶対に、許さない! 何度殺しても足りない! 父様も母様も、誰かに恨まれたり、憎まれるような人ではなかったのに! 誰かに死を望まれるような人ではなかったのに! なんでだよ! なんで!」

 魔王は俺の口を塞ぐようにキスをした。
 これ以上、聞きたくなかったのだろう。

 どんなに愛を囁いても無駄だ。
 俺の中には変わらない事実がそこにあるからどうにも心は動かない。

 動かないはずだった。

 それなのにどうして、胸が焦げつくように痛むのだろう。
 なんで裏切られた気持ちになるのだろう。
 心の何処かではこのマイペースで変態でどうしようもない男にはそんなことが出来ないと思っていたからなのかもしれない。

「ルカ……」
 唇を離し、魔王が呟く。

 それは聞き覚えのある声だった。
 遠い過去、俺を優しく呼んだ声と同じものだった。

 俺はハッとして魔王を見つめた。
 そんなはずがない。
 だって、目の前のこれは紛れもなく、魔王の顔なのだから。

「お前……お前は誰なんだ?」

 俺の言葉に魔王は目を逸らす。

「私は、魔王だ」

 魔王の声が俺の知っている声と同じものだと確信する。
 何故、気付かなかったんだ。この声をずっと聞いていたはずなのに。
 もしも、お前が俺の思うその声の主なのなら、何故、俺の大切なものを奪ったのだろう。

「……アル?」

 確かに聞こえるようにその名を呼んだのに魔王は何も答えなかった。
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