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続 3章 ドロップ品のオークション

13-18. オークション

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 一人で脱げそうにない豪華で手の込んだ服を着て、お城の中にあるオークション会場の建物の入り口まで馬車で乗り付けた。出席者が多いため、夜会を開くような大きな会場で行われるらしい。出席者は全員入場済みで、中はもう僕たちが入ったら始められる状態になっている、VIP待遇だ。
 会場の入り口まではフードを被っていていいと言われたので、ローブのフードを目深に被って、アルに腰を抱かれて歩く。周りの視線をさえぎる代わりに、僕の視界も悪いので、アルに誘導してもらわないと歩けないのだ。
 通り過ぎた後に、あれってもしかして、という会話が聞こえるのは、ブランが目立つせいだろう。リネと一緒にいないアルをアルと認識できる人は、知り合いの冒険者と司教様たちくらいだ。

 会場の入り口に着くと、中のざわめきが聞こえてきた。やっぱり参加するなんて言わなければよかったと後悔しても、もう遅い。
 ツェルト助祭様がローブを脱がせてくれたけど、その助祭様の耳が緊張で少し伏せられているのを見て、少しだけ落ち着いた。助祭服に身を包んだカリラスさんも落ち着かない表情をしているので、緊張しているのは僕だけじゃなかった。

「ユウさん、顔をあげてください。大丈夫です。怖いことは何もありませんよ」
「……はい」

 めったに見ない豪華な服を着ているモクリークの大司教様が、落ち着いた声で話しかけてくれたけど、こういう場には慣れているのだろう。
 横を見上げると、アルも少し緊張した顔をしていた。これで平然とされていたら、僕が傷つく。

「ユウ、行こう」
「うん」

 大丈夫。会場にいるのは、しゃべるジャガイモだ。味のしみたおでんのジャガイモに、ほくほくなじゃがバターだ。思い込めば何とかなるはず。

 開けてください、という大司教様の声で、会場の扉が開けられた。遠くにくぐもって聞こえていたざわめきが、直接鼓膜に届く。
 会場に入った大司教様に続いて、アルと並んで足を踏み入れると、ざわめきが大きくなった。最初は大きなウルフに驚き、やがてそのウルフをテイムしているのが誰なのかに気づき、隣にいるアルの正体へと思い至ると、ざわめきが歓声に変わる。
 会場の奥には、正面以外を布で覆われた豪華なテントの中に、ソファが置かれているところがあり、その前でドガイの大司教様が待っているので、あれが僕たちのために用意された席だ。
 そのすぐ近くの席では、みんな立ち上がり、頭を下げていた。その中に、モクリークの王子様がいるから、きっといろんな国の王族の人たちなのだ。その人たちに倣って会場中がアルに頭を下げ、歓声は静寂へと変わった。この世界の信仰を目の当たりにして、足が止まりかけた僕の腰を、アルが強く抱いた。「ごめん」と小さくアルにだけ聞こえる声で伝えると、「もう少し頑張れ」と返ってきたので、震える足を前に出した。
 席まであと少し、と油断したのがいけなかったのだろう。席の前の階段で、つまづいてしまった。こける、と思ったときには身体が宙に浮いて、アルに抱き上げられていて、そのままソファまで運ばれた。やってしまった。みんな頭を下げていたから、見てなかったよね?

 僕たちが座ると、すぐ近くの王子様たちが何事もなかったかのように頭をあげて座り、その波が会場全体へと広がっていくのが、少し高くなった僕たちの席からはよく見える。ちらちらと視線が飛んでくるけど、気のせいだ。ジャガイモは視線を寄こしたりしない。
 オークションの舞台は僕たちの席と部屋の反対側に設けられている。偉い人たちがこんな後ろの席だということに驚いたけど、そもそもオークションに出る商品はみんな事前にチェックしているから、近くで見る必要はないらしい。
 会場を見回すと、壁際や通路にたくさんの騎士がいる。これだけ人が集まって、王族がいて、さらに高価なものがあると、警護も警備も大変そうだ。

 会場内のざわめきが落ち着くと、まず最初にオークションの主催者であるモクリークの大司教様が、今回のオークションの経緯と、今回の売り上げがモクリークのあふれで被害の出た地域に使われることを説明した。次にモクリークの王子様が、開催国であるドガイと出席者に対して協力に感謝する旨の言葉を述べ、最後にドガイの王様の挨拶があって、オークション開始だ。
 僕たちは一応お忍びということになっているので、挨拶の中では触れられなかった。テントの奥まったところに座っているので、正面以外の人からは見えないようになっている。
 さっそく、番号札を上げている人がいる。すぐに落札する人が決まって、流れるように次の品に移っていくので、自分の欲しいものが出てくるのを見逃さないようにみんな真剣だ。後ろにいる僕たちのほうへ意識を向ける人はほとんどいない。

「事前に入札希望価格を調べているので、その最高額から始まります」
「だからこんなに早いんですね」
「後半になれば、競り合いますよ」

 挨拶を終えて、僕たちのすぐ近くに座った大司教様が解説してくれるので、分かりやすい。
 トラブルが起きないように、座っている席も国や身分で分けられているそうで、確かに商会の席の辺りで活発に番号札が上がっている。あの中にはモクリークのフェリア商会の人もいるんだろう。
 ここはメイン会場なので、出品リストを見ると高価な宝石が多い。けれど間に武具が挟まれていて、これからしばらく剣が続く。おそらく、買い取ってもらえなかったブロキオンの最下層近くの剣だろう。

「ここには冒険者もいるんですか?」
「冒険者用には、別の会場があります。それに、ここに出される剣が買える冒険者は一握りですよ」
「ユウ、ブロキオンの最下層近くの剣が買えるのは、マジックバッグで儲けているSランクくらいだ」
「国で買って、将軍に使わせるところが多いでしょうね」

 見ると、さっきまではおしゃべりをしていた王族たちが、舞台に注目している。ブランが、お気に入りの首なし騎士の前哨戦として、最下層付近でうろうろして集めたあの剣、そんなに高いのか。魔剣を出品していたら、どういうことになっていたんだろう。
 そのブランは、オークションには興味なさそうに、僕の足元に伏せている。ブランの好きなお肉は出品されていないから、仕方ないね。
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