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5章 新しい街の建設

5-8. 僕の想いと覚悟

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 指輪が出来上がった。

「まずは指のサイズを測らせていただき、調整してからお渡しいたします。どちらの指にされますか?」
「指輪か?」
「うん。左手の薬指にお願いします」

 シンプルな輪の指輪をはめて、サイズ変更の魔法で指にあわせ、それをつけたり外したり、手を握ったりして、ちょうどよいサイズに調整する。アルの調整も終わったようだ。
 調整したサイズに本物の指輪も合わせて、綺麗にふいた後、渡していたブランの氷の花と一緒に台に乗せて、僕たちの前に出してくれた。

「こちらのお花をモチーフに、ユウ様の持ち込まれた宝石をメインにして、遠目にはシンプルに見えるよう、仕上げました。リングに使用している宝石は、ペンダントと同じ石です」

 それぞれ黒と緑の宝石の横に、透明な宝石で作られたブランの氷の花のミニチュアがあり、流線型のリングが宝石と花を囲むようになっている。
 よく見ると、リングも一部立体的な花になっているし、花の間に緑と黒の宝石が散りばめられている。けれど服などに引っかかってしまわないように、あまり角が出ないように計算しつくされている。
 すごく綺麗だし、とても細かい細工があるけど、ぱっと見は、色付きと透明な石が2つのシンプルな指輪だ。

「これは見事だな」
「ありがとうございます。こちらのお花に負けぬよう、職人がかなり気合を入れておりました」
「ユウ?どうした、イメージと違ったのか?」
「きれいでびっくりした」

 指輪を見たまま動かない僕に、アルが心配してくれるけど、この世界でこんな繊細な細工ができると思っていなかったので、驚いただけだ。魔法があるからむしろ、どんなことでも出来るのかもしれない。

 僕はアルに左手を出してもらって、薬指に黒の宝石がついた指輪をはめた。
 この意味は僕にしか分からないけど、僕の想いであり覚悟だ。
 お父さん、お母さん、僕は元気でやっているから、心配しないでね。アルとこの世界で生きていくよ。その思いを込めて、アルの手の指輪にキスをした。

 アルが、同じように僕の左手の薬指に緑の宝石のついた指輪をはめて、僕のこぼれた涙を拭って額にキスをしてくれた。

「ユウ、ありがとう。大切にする」
「戦闘の時は外してね」
「外さない」

 剣の邪魔にならないように、ダンジョンではペンダントに通してもらうつもりだったけど、アルはずっとつけていると言ってくれた。これくらいなら邪魔にならないから、と。
 この指輪の意味を、詳しいことは分からなくても、何か感じてくれたのだろう。また涙がこぼれた。
 アルが指輪を付けた左手で、僕の頬と髪を撫で、ありがとう、愛している、と髪に頬に額に何度もキスをしてくれた。

 僕は、シリウスにもお願いして立ち会ってもらっていた。この世界で唯一の友人に、見届けてほしかったから。
 詳しいことは何も言っていないけれど、帰ることを諦められないと言っていた僕のその願いに、スリナザルくんは何も言わずに、ポンポンっと肩を叩いてくれた。
 剣士のアルになぜ指輪を送るのか、注文したときからきっと思うところはあっただろうけれど、何も言わないでくれた。
 そして今も、泣いてしまった僕を、そっと見守ってくれている。

 落ち着いてから店員さんにお礼を言うと、いつもご利用いただいているサービスです、とさらにバングルが出てきた。指輪とお揃いの氷の花の宝石がついていて、ブランの従魔の証のプレートをつけるバングルらしい。

「この足輪って変えてもいいの?」
「知らなかったのか?ブランが嫌がったのかと思っていたが、プレートがついていれば何でもいいぞ」
「ブラン、こっちのお揃いのでもいい?」
『(構わん)』

 ブランの後ろ足から足輪を外す。宝石店に持ち帰ってプレートを付け替えてくれるそうなので、だったら宝石も付けてほしいな。
 買い取りに出さずに引き取った宝石を出して、ブランの色の宝石を探す。どれがいいかなあ。

「たくさん集めたな」
「これでも依頼が出ていた宝石は買い取ってもらったよ。黒の宝石が全然出なくて、なんで僕の髪と目は黒なんだろうって思った」
「その宝石はとても珍しいものですよ。お使いにならないのであればぜひ買い取らせていただきたいくらい」

 だから8日もかかったのか。
 じゃらじゃらたくさんある小さい宝石の中から、店員さんに白と青紫で使えそうな石を取り分けてもらった。ブランにどの石がいいか聞いてもまったく興味なく何でもいいと言われてしまったので、ブランの毛と目の色である白銀と青紫の石を選んでつけてもらうことにした。


 これで、僕のやりたかったことは一通り終わり、僕の護衛の依頼も終了なので、シリウスの3人はゾヤラに戻る。
 ちょうど明日ゾヤラに向けてフェリア商会の荷物を載せた馬車が出るので、その護衛につくことが先日の話し合いの中で決まっている。今回はお試しで、問題なければ指名依頼をもらえるということで、ちょっと緊張しているけど、張り切っている。
 明日の朝は早いので見送りはいらないと言われて、今日の夕食はちょっと豪華に、ガーデンパーティーだ。ダンジョンのガーデンパーティー形式とは違って、ちゃんと机と椅子がある。

「ユウ、俺もドロップ品を集めたんだ。これは攻撃を受けたとき身代わりに砕けるというブレスレットだ」
「ありがとう。でもこれはアルが着けたほうがいいんじゃないかな?」
「そう言うと思って俺の分もある。それから、シリウスの分もな」
「いや、もらえませんよ」
「これは死ぬような攻撃は防げないから、そこまでレアじゃない。今回はいろいろ世話になった。これからも頼む」

 アルから、シリウスの3人への感謝の気持ちだ。

 シリウスの3人がいてくれなかったら、どうなっていたかな。
 うじうじしている僕を慰め、前を向けるようにやる気を出させてくれた。
 目の前にある大切なものを見逃していたことを教えてくれた。

 この世界にきて初めてできた友人だ。そして、僕の友達はシリウスの3人しかいない。
 でも、価値観の全く違うこの世界で3人も友達ができたんだから、これからもきっと新しい友達が出来るだろう。
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